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時間目の家庭科、今日は月に一度の調理実習。
調理室で生徒たちは一様にエプロンと三角巾をして料理に励んでいる。
海村の子はやはり、海村の子たちで集まったグループで行う。
ちらし寿司を作ることになり、巴は卵を焼いていた。

「妃ちゃん上手!黄身凄い綺麗な色してる!」

料理の途中、まなかが寄ってきて巴の手元を見つつ賞賛している。

「一人暮らしだから、卵ぐらい焼けて当然」
「そっかぁ!わぁ!凄いひーくんも上手だね!」

今度は目をキラキラさせながら光を褒める。
「大したことねぇよ」と光が少し嬉しそうに返す。彼はほんとに単純だ。

「ほっぺたヒクヒクしてるよ」

ちさきの言葉に光は「う゛」と漏らした。
しかし、その間にまなかは隣の班の紡の方へも向かっていた。

「紡くんも上手!お料理いつ習ったの?」
「いつって事はない。うち、じいさんと2人だから」
「そっかぁ、偉いんだね」

まなかの質問にも答えて、手も動いている。
そして何より大根の桂剥きが上手だ。
そんな紡に対抗してか、それともまなかの気を引きたいのか、光はものすごい勢いで白菜を切り続ける。
そんなに白菜あっても要らないのだが。

そんなこんなで光達の班のちらし寿司は無事完成した。
見た目もばっちり。まなかが味見をする。
みんなじっとそれを見つめ「美味しい!」という言葉にホッとしていた。

「じゃあみんなで別の班のも試食してみようね」

先生の一言で彼らは固まる。紡とは仲良くなったけど、他の子達とはまだ打ち解けていないのだ。

「どうする?」
「どうするって」
「取り敢えず何かしなしと…」

ちさきたちが悩んでいる中、まなかがちらし寿司の皿を持ってどこかへ向かう。
あれは確か狭山達の班だ。

「あ、あの!これ良かったらどうぞ!」

勢い良く頭を下げてお皿を差し出すまなか。

「どうぞったって海のやつの作った飯なんて、食えないよな」
「生臭いんじゃね?」
「…ちらし寿司に魚が入っていると思ってるの?
それなら今日の授業を見直すことをお勧めするわ」

まなかの横にスッと出てきたのは巴だった。
淡々と言いきった彼女に対し、彼らは顔を赤くし怒りの表情になっていく。

「てめぇ…!」
「と、とにかく一度食べてみてくれれば…」

ちらし寿司の皿を江川くんに向けて、まなかはめげずに言う。

「だから、要らねぇって!」

江川くんが勢いでまなかを押す。がしゃん!と大きな音が調理室に響く。
みんなの視線を一気に集める。
そこには割れたお皿と床に散乱するちらし寿司、尻餅をついたまなか。
まなかに怪我はないようだ。

「謝れよ」

光が怒鳴る前に、後ろから落ち着いた、けれども厳しい口調の声が発せられた。
それは紡であり。いつもより声も表情も強ばっていた。

「つったって、手元滑っただけだし…」
「そーだよ」

言い訳とばかりにそう言うが、紡の目は彼らを離さない。
そうしていると、漸く先生が入ってきて、彼らは渋々と謝罪を述べたのだ。

***

四時間目が終わって昼休みになった。
どことなく雰囲気が悪く感じる。

「お弁当食べないの?」
「さっき食ったばっかだしな、おじょし様いじってくる」

光はそう言って教室を出る。
それに続いてまなかも行く、巴は一人教室に残り結局四人で木工室へ向かう。

「ねぇ、もうちょっと仲良くした方が良いんじゃない?」
「飯を粗末にする奴らとか?」

ちさきの問いかけに答える光は先頭で木工室の扉を開ける。
もう完成間近のおじょしさまが迎えてくれると思ったのだが、それは見事に打ち砕かれた。
おじょしさまが見るも無惨な姿になっていたのだ。
首は折られ、服はビリビリに破られ、落書きだらけのそれを見て、言葉を失う。

「おじょしさまが」
「酷い…」
「誰がこんなこと…」

それぞれ手に取って確認するが、見間違いでも何でもない。
昨日、あれほど嬉しくて楽しい時間を過ごせたというのに、それが全て否定されたような、そんな仕打ちだ。

「──あいつらだ!」
「待って!光!」

犯人に目処をつけたのか、光が駆け出す。
そんな彼をまなかでもちさきでもなく、珍しく要が止めるが、光は一瞬たりとも止まらなかった。
慌ててちさきたちも光を追い掛ける。目的地は教室だ。

前の扉から勢いよく光が教室へと飛び込む。
そして目標──先程の男子生徒を捉えると、そのままの勢いで彼に向かってタックルしていった。
男子生徒は背中から思いっきり後ろのロッカーへとぶつかる。
突然の出来事に、周りからは悲鳴が上がった。

「光!」
「ああ…」

一足遅かった。光の行動に、シシオの四人もそうだが、教室にいた巴にもこの現状の問題は目に見えており、ただ息を呑むだけだった。

当然だが、問題の当事者と関係者であるシシオ四人と、男子生徒二人は校長室へと呼び出されることとなった。
校長の前に横一列で立っている。巴も現場の状況は目撃していないが、一応シシオの者として来ていた。

「いくら、おじょしさまを壊されたからと言ってもねえ」
「俺たちやってないですよ」
「ふざけんな!だったら誰がやったって言うんだよ!」

また殴り掛かりそうになる光をすぐ隣にいたまなかが押さえる。
今の光は何も信じていなくて、誰の話にも耳を傾けようとはしていない。

「今日は興奮してて、無理かもしれないね。明日、詳しい話を聞きましょう」
「はい…。光、とりあえず帰りな」

宥めるように担任が光にそう告げる。
しかし、それが光だけということに、彼の怒りは収まろうとはしなかった。

「俺だけ帰れって言うんですか。俺だけ悪者ですか」
「光…」
「どうも失礼しました!」

音を立てて、勢いよく扉を閉める。
それだけでも光の興奮や怒りが伝わってくるようだった。

「──私も帰る」
「まなか?」
「ええ、ダメだよ。まだ四時間目があるから…」
「帰りたいから、帰ります!」
「そ、そう…」

そう言ってまなかも校長室から出て行ってしまった。
きっと、まなかは光と一緒に帰るのだろう。
ちさきが二人が出て行った扉を何とも言えない表情で見つめていた。

「…江川くんに、狭山くんよね?」

そんな微妙な空気の中で、巴が口を開いた。
二人だけでなく、ちさきや要、先生たちも巴の方に目を向けた。
しかし、巴は誰も見ていない。

「おじょしさまのことは確証がないから何とも言えないけど…
ちらし寿司といい…あなた達の今までの言動を見れば、疑われて当然よ。

今の自分達が本当に潔白だと思っていたら……大間違いだ」

言い終わってから、巴はじっと二人を見つめた。
気まずいのか二人は目を逸らしているが、そんなことを気にするでもなく、巴は続けた。

「でも、それとは関係なく、私は海とか陸とか、ほんの些細なことだと思ってる。
お互いに近づけたらいい…だからまなかも歩み寄ろうとしたんじゃないかしら。
それだけは知っておいてね」

そう言い切ると、巴は一礼して一人で校長室を出て行った。

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