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放課後、巴たち三人は木工室でおじょし様の落書きを消していた。
クレヨンで書かれていて、何回も擦らないと落ない。

「ああいう時のまなか、ほんとに頑固だよね。
…っとに、なかなか落ないな。」

要の言う通りああいう時のまなかは頑固で何を言っても聞かない。

「まなかって可愛い。怖がりだけど、意志が強くて、華奢な体でクリッとした目でいつも一生懸命」

まなかのことを羨ましそうに語るちさきの顔は少し寂しげだった。
ちさきにはちさきの良い所があるのだが、たまに自分とまなかを比べてしまうことがある。
それは云わずもがな光の影響だろう。

「ちさきは大きいからね」
「要、ストレートすぎ」

会話に入らない巴は、黙々と落書きを擦る。

「それに私も大きくなるなら…せめて妃みたいにもっと…その…」

巴はそこでやっと顔を上げて、ちさきの方を見た。
何故かちさきの頬が赤いのが気になるらしい。
しかし、そんなちさきに変わって要が代弁した。

「あぁ、つまり妃みたいなナイスバディになりたいってこと?」
「えぇ!?要っそんなストレートに!?」
「…変態」

巴は呆れたような表情で要を見る。
確かに巴は自他ともに認めるほど凄い、中学生らしからぬプロポーションだ。
胸も一般の子より数段大きく、お腹のくびれもはっきり出ている。

「いや違うから。うろこ様は、それを触ったりいやらしく見てくるでしょ?」
「同じようなものよ。でも、うろこ様が言ってたわ、ちさき。
あんまり痩せてない方が中年男は好きだと」
「巴、それはフォローにならないから」

そういったちさきに「素直に喜べばいいのに」と要がちさきを見る。

「ほんとそうだね、まなかみたいに素直になれたら良いのに」

ちさきが少し俯きがちに言う。

「…さゆ、さんじょうって」
「さゆ?」
「要、知っているの?」

おじょし様の後頭部辺りに緑のクレヨンで“さゆ三じょう"と書いてあった。
漢字が違うことはあえて突っ込まないでおく。

「ああ、光に因縁つけてた謎の小学生たち。あからさまな犯行声明文だね」
「ということは…江川くん達がやったんじゃないんだ」

巴がそう言うと、ちさきは急にゴシゴシと落書きを擦り始めた。

「この事は黙ってよ。私と巴と要、三人だけの秘密にしよ?」

「…どうして?」
「この事がみんなに知られちゃったら光が悪者になっちゃう!光がこれ以上傷つくのを私見てられない!」

一気に捲し立てるちさき。その目にはうっすら涙が溜まっていた。
つよく歯を食い縛る彼女に巴が何かを言おうと口を開きかけたその時、巴よりも前に扉の方から声が飛んできた。

「悪者もなにも誤解したのは事実だろ。
嘘つくのはきっと良くない、どんどん孤立することになる」

ちさきの数歩離れた所まで紡が入ってくる。
そんな紡を見て、ちさきは思わず立ち上がった。

「違う!私達が作ったものを、生臭いって言うような人達なんだよ!?」
「みんな本当は悪い奴じゃない」
「ちらし寿司わざとこぼすような人達が!?
…良い人がだって思ってたけど、やっぱり紡くんも地上の人なんだね」

持っていたおじょしさまの頭を要に渡し、ちさきは走って木工室を出て行ってしまった。

「追い掛けなくていいのか?」
「…私には無理。今のちさきに掛けてあげられる言葉なんて、一生浮かばないと思うわ」

***

そして事件は意外にも早く解決したのだ。
翌朝、教室に着いた光は後ろの黒板で遊ぶ江川と狭山を見つけると、真剣な顔で二人に声を掛けた。
昨日の騒ぎもあって、教室中の視線が彼らに集まる。
まさか、また殴ったりするのだろうか。
そんな不安が籠った視線だ。一気に教室の中は静まり返り、江川と狭山も不機嫌そうに光を見る。
光は息を吐き出すと、床に膝と手をついた。

「すいません、でした!!」

光の思わぬ行動に、シシオの四人も江川と狭山もクラスの皆も驚いたように目を丸くした。

「俺が間違ってました!お前ら…いや、そっちがおじょし様、めちゃくちゃにしたと思い込んでっ」
「や、やめなよ、光…」

ちさきが眉を寄せて光を止める。自分の席に座っていたまなかも、
少し辛そうな顔をしていたが、その顔をきっと引き締めると、光の隣に並んで同じように頭を下げた。

「お願いします!」
「まなか…」
「ひぃくん、凄く反省してます!許して下さい!お願い!」

やはり少し上擦った声で、まなかは叫ぶように言った。
まなかが土下座までする必要は全くないのだが、光とまなかが並んで頭を下げるのを見て、江川と狭山も何と返したら良いのか分からない様子だ。

「もう許してやれよ」
「紡…」
「自分たちだって、ちらし寿司のことあるだろ。お互い様だ」

そんな彼らの間を取り持つように入ってきたのが紡だった。
この件で両者のことを考えて、一番冷静に物事を見てるのはきっと彼だ。
いつもは口数の少ない紡に言わると何故だかとても説得力がある。
しかし、江川と狭山が何かを口にする前に、光は勢いよく立ち上がった。

「お互い様じゃねえ!お前らはちらし寿司ぶん撒けた。
でも俺は…お前らに罪をおっ被せて、ついでにチェストくらわせた!」
「え?」
「許してくれ。そんでもって……来いっ!」

大きく両腕を広げて、光は身構えた。
さすがに戸惑う江川に、光はもう一度「来い!」と叫ぶ。
すると、江川は意を決したように叫びながら光に突進していった。
あまりの勢いに後ろにあった扉まで外れてしまう。
ざわつく教室を他所に、江川は立ち上がる。
そして、下敷きにしていた光に手を差し出したのだ。

「もういい。面倒臭え…許した!」

江川の言葉に、少しだけ時間を空けて、光は笑みを浮かべてその手を取った。
どうにかこうにか、和解したようだ。

「和解したのはいいけれど…このドアどうするつもり?」
「えっ、ああー…」

教室の中から巴が光と江川に声を掛ける。
見事に二枚とも外れたドアを見て、光も江川も溜め息を吐いた。

「な、直せばいいんだろ!」
「狭山、お前も手伝えよ」
「ん?ああ…」
「俺もやるよ」

光と江川と狭山と紡。四人で扉を再び枠に嵌め込む。これが意外と難しいのだ。
二人で一枚ずつ扉を持ってガタガタと音を立てながら嵌め込む。
特に二枚目に苦戦しながらも、ドアは元通りに嵌まった。

「ご苦労様」
「おう。にしても、ガラスじゃなくて良かったぜ」

ぐるぐると肩を回す光。中学生男子ではあの扉は重かったらしい。
そんな光に、要が声を掛けた。どうやら光に会いたい人がいるとのこと。
そう言う要に連れられてシシオの面々は校舎裏に向かった。
そこにいたのは赤いランドセルを背負ったツインテールの少女だった。

「もっ、もも、申し訳ございませんでした!!」

顔を真っ赤にして頭を下げる少女。この少女がおじょしさまを壊した少女───さゆらしい。
少しだけ府に落ちないような表情をした光だったが、その考えを振り切ると、さゆの前に屈んだ。

「あーあ、だっせえな。鼻水出てんじゃねーか、お前」
「う、うっせーこのタコ! ───タコ様ぁ!」
「様つけりゃいいってもんじゃねえんだよ!」

目を吊り上げて、さゆの鼻を摘まむ。それから逃れようともがくさゆ。
そんな二人の姿を見て、要もまなかも笑った。
しかし、一人だけ、ちさきだけは笑うこともせず、一歩後ろで寂しげに皆を見ていた。

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