08
「さぶっ!」
『3月が近づいているとは思えないね』
「卒業まであと8日かー」
『…うん』
「言わないの?」
『言いたいけど―』
「○○なら上手くいくって!」
伝えなくちゃ
あの時から変わらないこの気持ちを―
「日誌書くの手伝えなくてゴメンね!また明日!」
『うん、また明日』
日直としての仕事が多いことにうんざりする―早く帰ってくれなきゃ戸締まりできないんだけど
ワラワラと群れる女の子たちに苛立ちを感じながら、日誌を書き上げる
『…こんなもんかな』
職員室から戻ったら、ちゃんと帰っていますように―そう願って、教室を出た
「うん、ちゃんと書けているね、お疲れ様」
『いえ…さようなら』
「はい、さようなら」
ちょっと寄り道して戻ろうと、中庭に足を運ぶ
「美味しいか?」
微かに声がした、聞き覚えのある声―気付かれないように、ゆっくりと近づく
「はは、くすぐったいよ」
「ぴぃーか」
レッド君と、ピカチュウ
この学校ではポケモンバトルが授業の一環として行われている―でも、基本的には人が通う学校なので、滅多に学校内でポケモンを出すことはない
「ポフィンはもう無いよ」
凄く仲が良さそうだな―聞いた話では、レッド君とグリーン君は格好良いうえに
ポケモンバトルも上手いらしく、モテ要素満載
とてもじゃないけれど、やっぱりどこか距離を感じる
「またポフィン作ってやるから…どんな味が良い?」
笑ってる―レッド君が、満面の笑みを浮かべている
何か上手く言えないけれど
ちょっと…ドキっとした
「!………ぴか?」
「ん?あ、○○…さん」
『うぁっ!あの、別に覗き見てたんじゃなくて、たまたま通りかかって―』
しどろもどろする私に向かって、レッド君は手招き
少し悩んだ末、駆け寄る
『…レッド君のパートナーって、ピカチュウなんだ』
「昔からずっと一緒にいるんだ」
『ずっと?』
「うん、ずっと」
ピカチュウを撫でるレッド君の横顔は穏やかで優しげ
「撫でる?」
『へっ?!』
「大丈夫だよ、みんな感電するとか言ってるけど―」
スっとレッド君の手が伸びてきて、私の手をとり、ピカチュウの頭に置く
「ぴぃー」
『わ…気持ちいい』
毛並みは思っていたよりも柔らかくて、ビリっと電気も感じなかった
「○○さんは特別みたいだな」
『?』
「こいつ結構警戒心強いからさ、俺最初に感電したんだ」
『えっ、じゃあ、もしかしたら私も―』
「良かったね」
なんてチャレンジャーなんだ、レッド君の性格はいまいち掴めないよ
現に、さっき掴まれた手が未だに離されていない
『あの…レッド君、手が』
「…あぁ、ゴメンね」
『ううん、ありがとう』
笑ってみせるとレッド君は急に地面に視線を落とした
『えっ、どうしたの?』
「何も…ない」
『そう?』
髪先で表情がよく見えないけれど、気分悪そうじゃないから一安心
「ぴかっ!」
『あはは、くすぐったい』
飛び付いてきたピカチュウを抱き上げて、さっきと同じように優しく撫でる
「…名前さ、やっぱり呼び捨てで良い?」
『うん、…良いよ』
ちょっと恥ずかしいけど、そっちの方がもっとレッド君と仲良くなれる気がした
「じゃあ…○○」
『うん』
心がくすぐったい、とっても嬉しいって言っているみたい
あ、そうだ
入学式のときの《不思議》
この気持ちと一緒だ
そっか、《好き》って
こういうことなんだ
一目見た時に思ったんだ
この人の事
好きになりそうだって
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