33 玉狛支部E


 訓練終了のブザーが鳴り響き、構えていた銃を下ろす。
 モニターに目を向けて、表示された結果に拳を握った。

「……やった」

 映し出された数字は今までで一、二を争うほど良いものだった。
 先週、先々週と、ギリギリC級の中で5位以内に入っている。今回も狙撃手のトップ15%に食い込めたようだ。つまり。

「夜坂さん、おめでとうございます!」
「わっ、ありがとう」

 押し寄せる様々な感情を噛み締め、モニターを凝視したまま微動だにしない俺に痺れを切らしたのだろう。隣のブースで訓練していた佐鳥くんが飛びついてきた。咄嗟のことでバランスを崩しかけたが何とかこらえる。

 残り期間約一ヶ月で、俺はようやくB級に昇格したのだ。

「ここ数週間で一気に伸びましたね。おめでとうございます」
「今度から時雨さんと任務に行けるかもしれないってことですよね。わたし楽しみにしてます!」
「荒船くんも茜ちゃんもありがとう。よろしくね」

 佐鳥くんを皮切りに、仲良くしてくれている隊員たちに囲まれて次々に祝いの言葉を述べる。今まで沢山の人に応援してもらっていたのだと実感した。
 
「夜坂、昇格おめでとう。話しているところ悪いが、林藤支部長が呼んでるみたいだぞ」
「あ、東さん。ありがとうございます。今向かいますね」

 スマホを確認すれば、つい先程連絡が入ったようだ。林藤さん会議室まで来いという旨のメッセージが届いていた。



 もう嫌というほど通った廊下。少し違うことといえば、今日は少しだけ足取りが軽いのだ。
 向かう先が会議室ということは、十中八九今回のB級昇格についてだろう。情報の速さに舌を巻いたが、迅の顔が浮かんで一人納得した。
 まさか取り消しなんてことにはならないだろうな、と案じながら足を進めていく。



「失礼します。夜坂です」

 戸を叩けば、ドアが自動で開く。中にはすでに人が集められている。部屋にはいつものメンバーの他に、林藤さんの隣に座る迅もいた。目が合うと手を振られたので軽く振り返す。迅が落ち着いた顔をしていると言うことは、今日の会議はそれほど深刻なものではないのだろう。

「まずは昇格おめでとう」
「あ……、ありがとうございます」

 開口一番はなんと祝いの言葉だった。失礼ながら城戸さんも褒めてくれるんだなと内心驚いた。
 話の内容は、以前約束した内容の確認であった。俺がボーダー隊員として貢献する代わりに、本部の方で俺の帰還方法を探すという約束である。それからいくつか注意事項を言い渡され解散となった。

「夜坂おめでとう。城戸さんに先を越されちゃったけど」
「やったな夜坂」

 迅と林藤さんに声をかけられ、少し照れくさくなる。

「迅にはこの未来は見えていたの?」
「実を言えば見えてたよ。けど、努力と実力で上がろうとしてる夜坂に伝えるほど野暮じゃないよ」
「それもそうか。ありがとう」
「夜坂、早めに支部に戻るぞ。車出すから着いてこい」

 スマホを見て、なぜか困ったように微笑む林藤さんに首を傾げつつ、三人で本部を後にした。

* * *


 支部に着くや否や、迅にぐいぐい背中を押されてリビングの前に着いた。中は誰もいないのかと言うほど静かである。
 中に入ろうとドアノブに手を伸ばすと、迅は俺の手を掴んで微笑んだ。

「おれがカウントダウンしたらドアを開けてね。ほら、さん、に、いち……」
「え、ちょっとまっ……わ!?」

 しぽん!
 ぜろ、の声で慌ててドアノブをひねると、部屋の中から気の抜けた破裂音がこだました。

「時雨さん、昇格おめでとうございます〜!」
「しぐれ、よくやったな!」

 部屋の中に入ると、宇佐美ちゃんと陽太郎くんがクラッカーを手にしているのが見えた。なるほど、先程の破裂音はこれか。

 奥のテーブルでは木崎さんやとりまるくんたちによって料理やお菓子が所狭しと並べられている。

 スマホを手にした小南ちゃんがキッチンからやってきた。

「ちょっとボス、遅かったじゃない!どうしたのよ」
「メッセージでも送っただろ。思ったより会議が長引いたんだよ。これでも急いだんだぞ」

 明らかにお祝いムードに包まれたリビングにぽかんと取り残される前に、あれよあれよと宇佐美ちゃんによって席に促された。

「改めまして、時雨さんおめでとうございます!」

 この集まりは俺のために開いてくれているようだ。みんなを見れば、俺を見て口々にお祝いの言葉を述べてくれている。
 すでに昇格したことが伝わっているのにも驚いたし、ここまで盛大に祝ってくれるとも思っていなかったので拍子抜けした。

「あ、ありがとう」
「これで時雨さんも堂々と任務に出られるわね。……でも、いいの?」
「……何が?」
「本当に隊員としてやっていくのかってことよ」

 小南ちゃんの言葉の意味が飲み込めず首を傾げる。小南ちゃんは眉間に皺を寄せ腕を組んだ。

「だって、正隊員になるってことは、ベイルアウトがあるとは言え危険な任務に出向くことになるのよ」
「……俺も何回も考えたけど、やっぱり自分が出来ることがあるならやってみたい。元の世界に戻るための手がかりも探さなきゃ」

 そう伝えれば、小南ちゃんは一つ息を吐いて微笑んだ。

「そう。なら大丈夫そうね。玉狛の隊員になったからにはこれまで以上に頑張ってね」
「玉狛にふさわしい隊員になれるよう努力するよ」
「玉狛の隊員といえば!」

 待ってましたとばかりに宇佐美ちゃんが声を上げ、俺の手に何かを握らせてくる。

「時雨さん!ぜひトリオン体になってみてください!」
「ここで?……トリガー起動!」

 バチバチいう音と共に、俺の体が閃光に包まれていく。

「これって……」
「時雨さん専用の隊服ですよ!」
「B級から自由なデザインが認められているんです」
「これ作るのにすんごい悩んだわ」

 とりまるくんの言葉に、なるほど、だから色々な隊服の隊員がいるのかと理解する。
 俺の体を見下ろしてみると、迅やとりまるくんと同じような隊服をベースに、少しずつ色やデザインが変更されている。そして腕や胸には玉狛のマークが入っており、輝いているように見えた。
 みんなで考えてくれた隊服なのだと思うとすぐに愛着が湧いた。

「ありがとう、とっても嬉しい。これからも頑張るよ」

 拳を握ってそういえば。みんなが笑顔で頷いてくれた。
 
 ここから元の世界へ帰る道を探す旅がようやく始まるのだ。


第二章 終

あとがき→




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