碧は机で筆を走らせながら、ふっと紫煙を吐いた。
彼女は自宅で診療所を営んでいる、所謂町医者だ。

「鬼の副長さんともあろう方が風邪とはなぁ」
「オイ、その呼び方」
「前総悟くんが言ってた」
「あいつ・・・」

土方は診察台に座ったまま煙草に火をつける。

「あのぉ、病人が煙草吸うとかあり得なくないですか?」
「てめぇこそ、病人の前で煙草吸ってんじゃねぇよ」
「ここ私の家だもん」

碧はくるりと椅子を回し、土方に向き直る。悪びれた風も無くニコリと微笑んだ顔は端正で美しい。

「で、どうなんだ」
「ちょっと変わった病原体だった。そんなすぐには治らないよ。大人しく寝てるつもりはないんでしょう?」

怒る風でも無く、淡々と告げる碧は他の医者と違い、煩くなくて良いと土方は思う。それに相まってこいつの出す薬がよく効くということもあり、大きな病院よりここに足を運ぶことが多い。たまに屯所にも診察に来てくれていた。

「手足の痺れはどう?刀握れる?」
「あぁ、ぎりぎりな」
「薬三種類ね。これ飲んだら痺れはすぐ取れるだろうけど、ちょっと強い薬でね。吐き気があるだろうけど、吐くなよ。緩和剤出しとくけどさ。あと解熱剤」