「轟君も雄英受けるんだって?一緒にがんばろう」

そう言ってみょうじが能天気とも言えるような緩い笑顔を浮かべて手を差し出して来たのは中学3年の夏前だった。「も」ってことは、こいつも雄英受けるのか。倍率わかってるのかこいつ。一緒にとかふざけている。轟はその薄く綺麗な手を一瞥し「あぁ」と素っ気なく返事をしただけだった。
みょうじは違うクラスだったが、翌日の放課後どっさりと本や紙類を抱えて轟のクラスにやって来た。

「これ、入試の過去問。使う?」
「あぁ・・・悪い」
「ん、先生からの借り物だから、書き込むならこれに」
「わかった」

渡されたのは問題をコピーしたプリントで、轟はそれを受け取り黙々とペンを走らせ、みょうじは隣でパラパラとページを捲る。先ほどから紙の擦れる音しかしないので、少し気になって轟は顔を上げて、隣を見やる。視線に気付いてみょうじは「ん?」と首を傾げた。

「もしかしてこれ、みょうじ用だったのか」

轟は自分が書き込んでいる途中のコピー用紙を軽く持ち上げて見せる。みょうじの机の上に、プリントは無い。というか筆記用具すらない。この頃の轟は荒んでいたとは言え、相手の気遣いを無碍にする程冷たい人間でも無かった。他人が使うはずの物を譲ってもらっているということに関して申し訳無さは感じていた。

「いや轟君用だよ」
「みょうじのは」
「私は頭の中で解いてるから、気にしないでいいよ」
「そうか・・」

それから2人はよく放課後一緒に勉強するようになった。
たまに轟が暫く停止していれば「難しいところがあるの?」と声をかけきて、「ここから計算し直してみたら」とか「轟君が詰まる所はこっちも勉強になる」とか、みょうじが穏やかに言葉を発するので、轟もそれなりに心を開きつつあった。
夏休みに入る前、帰り支度をするみょうじに轟は言った。

「みょうじ、実技どうするんだ」
「実技?」
「・・雄英受けるんだろ。個性使った実技あるだろ、何かやってんのか」

学校や公の場での個性使用は基本制限されているから、どうしているのかと気になった。多少なりとも勉強を教えてもらっている借りはあるし、夏休みなら昼に家の道場を使っても問題は無いと思ってのことだった。けれどみょうじはきょとんとした表情で。

「ヒーロー科でしょ?私は普通科受けるから無いよ」
「・・・そうか」

ヒーロー志望じゃないのか。それで、一緒にがんばろう、と。

「轟君は思ったよりいい奴だね」
「そうか?」
「気に掛けてくれたんでしょ?」
「まぁ、勉強教えてもらった借りがあるしな」
「教えたって程でも無いよ。