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時間は掛かったものの何とか無事にウソッキーの横を通過したアッシュ達は歩みを進めていく。
その際、ウソッキーはこれでもかと言うほど嫌そうな顔をしていた。
その後はそれまで鬱蒼と生い茂っていた木々が少しずつ減っていき、開けた先には双子の女の子トレーナーが待ち受けていた。
しかしアッシュが一匹しかポケモンを持っていないと分かると、特にバトルする事もなく大人しく引いてくれた。どうやら2人でバトルする事に拘りを持っているらしい。
良かった良かったと安堵したその矢先、女性トレーナーにバトルを挑まれイーブイ一匹で何とかバトルを行う事になる。
「貴方って……将来なんて待たないでも良さそうね」
「……」
「貴方みたいに腕のいい人って久しぶりだわ」
「……どうも」
普通ならポケモンを二匹も持っていないトレーナーには挑んで来ることはないらしいが、この二人はわざわざシングルでバトルを挑んで来た。
そしてバトルが終わると獲物を見つけたかのような視線を寄越す女性トレーナー達を何とか誤魔化しアッシュは如何にか草むらへと入り込む。
逃がさないとばかりに向けられる視線に学生時代のトラウマが蘇る。
「…ブイ?」
そんなアッシュの様子を察したのか、普段はあまり話しかけて来ないイーブイがどうしたんだと疑問符を投げかけてきた。
「いや、ちょっと昔色々あってな…」
アッシュは旅に出ず進学する道を選んだが、当時進学といえばジョーイやジュンサーに憧れる女の子達ばかりでアッシュの様に男で進学の道を選ぶ者はあまりいなかった。
そのせいか所謂女の恐ろしい面とやらをアッシュや極一部に該当した男子達は嫌でも知る事になったのだ。
それ以来、アッシュにとって女性の視線は嬉しいものではなく寧ろ恐ろしいもので…要するにやや女性恐怖症気味なのだ。
そんな訳でアッシュはそそくさと逃げる様にして先を進む事にした。
足早に進んだ草むらの中には掲示板が立てられており、それによればこの草むらを抜けた先には目的地であるエンジュシティがあるらしい。
「……もう少しかぁ」
あと一息だと小さく息を吐き、一歩踏み出したところに突然何かが飛び込んでくる。
咄嗟に一歩下がると、体当たりする勢いで出てきたそれは踏ん張りを効かせて砂煙を立てながら止まると勢いよく吠え出した。
「ワウン!」
「おぉ、ガーディだ」
久しぶりに見たその姿に懐かしさを覚えて思わず種族名を漏らすと、向こうは更に身を低くして臨戦態勢に移行する。
どうやらここはこのガーディの縄張りらしく、ガーディは誰だとか出ていけとかそんな感じの事をまくし立てている。
ちらりとその先を見やれば、遠くに独特な瓦屋根が見えた。どうやら彼処がエンジュシティらしい。
あと少し、五分もしない距離に見える街並みを見てしまうと怖さよりも面倒臭さが先に立ってしまう。
出ていけと言っていることだし、このまま突っ切ってしまいたい、いけるだろうかと思案していると実にタイミングの悪いことにイーブイが勝手に飛び出してきた。
出ていけと吼えるガーディに対し、喧嘩を売られた事が分かったらしくぎりぎりと歯軋りするように唸りながら身を屈めるイーブイを見たアッシュの反応は早かった。
「用があるのはこの先だからな!」
戻しても出て来てしまうだろうと踏んだアッシュは今にも突進でも仕掛けそうなイーブイを問答無用で小脇に抱えると、ガーディの横をダッシュで駆け抜けたのだ。
言葉の意味を正しく理解したのか、はたまた立ち去って行く事が分かったからか、警戒は解かずともガーディが追いかけて来る事はなかった。
何とか草むらを抜け、無事にエンジュシティに入ったことを確認すると、アッシュは大きくため息を吐いた。
「何とかなった……っいで!」
余裕が出たことで小脇に抱えた存在がやたら固まっているなということに気づいたと同時に、今まで大人しく抱っこされていたイーブイがアッシュの腕を引っ掻き、思わず手の力を緩めるとひょいと隣へと着地する。
どうやらさっきまで大人しかったのはいきなり抱っこされて驚いていただけらしい。
今になってイーブイは全身の毛が逆立っている。
「悪かったよ。とりあえずポケモンセンターに行こうか」
そう告げると面白くなさそうな表情をしながらもちょこんとその場に座った為肯定と受け取り、イーブイをボールへと戻すとすぐ近くのポケモンセンターへと向かった。
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