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一通りの踊りが終了したらしく、見ていた人達に舞妓がぺこりと礼をしたところでアッシュは本題に移る事にした。話を聞いた老婆は目を見開く。

「あんれまぁ、漢方屋さんだったのかぃ。そりゃあ悪いことしたねぇ」

気にしないで下さいとアッシュは続けたが、のんびりとした様子で老婆はお代を取りに行くついでにお茶でもと誘って来る。
初めは断っていたが、実際家へと着いていくと玄関先で「婆さんの独り言に付き合っておくれ」と言われてしまい、そのままお茶会の席へと腰を下ろす。
あれ食べるかいこれ食べるかいと言われているうちにそのままずるずると居座ることになり、お茶どころか夕飯もご馳走になってしまった。

すっかり真っ暗になってしまった中、アッシュは足早にポケモンセンターへと戻る。中にいる人は疎らでカウンターでジョーイがパソコンを打つ音や、ラッキーが治療道具を持って行き来する音だけがやたらと大きく聞こえていた。
扉が開いた事でアッシュにすぐ気づいたらしいジョーイが挨拶だけ交わしてイーブイを連れて来る。ボールを乗せる盆にはボールから出たイーブイがどっかりと腰を下ろしていた。
その顔は物凄く不機嫌で、丸い筈の瞳は吊り上がり口許は力を入れているからか歪んでいる。とはいえ、このイーブイは元々良くいえばつり目、言い換えれば目付きが悪かった。が、今はそういう問題ではないのは重々承知である。

「すまんイーブイ。遅くなった」

明らかに怒っているらしい様子に一言声をかけるが、ぷいとそっぽを向いてしまいこちらを見もしない。
しかし怒っている事は主張したいらしく、ボールを掴むアッシュの手を尻尾でビシビシと容赦なく叩く。フサフサした毛自体はあまり痛くはないが、何度もされると手の甲が変にむず痒い。
それが分かっているのか、へっ!とあざ笑うかのようなあくどい笑みを浮かべてひたすらアッシュの手に攻撃をし掛けている。
地味に嫌な攻撃だなと思いつつも、避けると怒るので仕方なくそのままボールをかざす。しかしボールには入りたくないらしく、さっきからボールを向けるとすかさず尻尾でそれをはたき落とそうとする。
何度かトライするもその繰り返しでなかなか戻す事が出来ない。その攻防戦を見兼ねたジョーイがクスクスと笑いながらやんわりと止めに入った。

「お部屋ではポケモンを出しても大丈夫ですから、そのまま連れて行ったらどうかしら?」
「いいんですか?」
「えぇ」

流石に大きいポケモンは無理だけど、その子はまだ小さいから大丈夫ですよと告げられる。そういえば歌舞練場でもポケモンを出している人がいたなと思い出す。
ならばとイーブイを抱いて行こうとするとすかさず噛み付いてくるので慌ててその手を離すと、イーブイは空中で器用に身体を真横に捻る。しなる様にして半回転するとカーペットが敷かれた床へ華麗に着地した。

「あら!」

その様子に思わずといった様子でジョーイが呟くのとほぼ同じくして、アッシュも相変わらずの様子に小さくため息を吐いた。
とはいえまだ最初の頃に比べれば全然マシな方である。そう思うとよく感情表現してくれる様になったなぁと何だか感慨深い。
その後も相変わらずそっぽを向くイーブイと、疲れた様子のアッシュを見比べていたジョーイは思いついたように手を打った。

「あぁ!もしかして、漢方屋さんの方?」
「……まぁ、はい」

頷きながらも、何故今分かったのだろうかと疑問に思ったのが顔に出たらしく、ジョーイがにっこりと笑って見せた。

「親戚の…コガネシティのジョーイからよく聞いていたんですよ。漢方屋のお爺さんにイーブイを連れたお弟子さんが出来たって」

さも当たり前の事のように告げられ一瞬アッシュは疑問符を浮かべてしまったが、弟子になった覚えはないので慌ててやんわりと否定しにかかる。

「配達はしてますよ。でも、弟子になった覚えはないです。これもボランティアみたいなもんですし」

弟子ではないが、言われる理由など容易に想像つく。
歳を重ねた高齢のカンポウの所で、無償有償問わず働く若者が居れば後継者候補と思うのも自然な事だ。
実際、カンポウの目論見にそんなものが見え隠れする気がするのだ。
とはいえ、その気のないアッシュにとってそれは置いておいても良い問題である。それに関しては後で考えようと記憶の隅へと追いやった。

「あら、そうだったの?」

でも、トレーナーなら色々な薬草を知る事もこれからきっと為になるわよとジョーイはにっこり微笑んだ。
それにそうですねと当たり障りない言葉を返すと、「そうそう、遅い時間だったのでフーズあげています。もしまだ空いているようだったらまたあげてください」と思い出したように告げられた。
アッシュは回復とフーズの礼を言ってから、取っておいた部屋へと引き上げる事にした。
しかし抱っこさせてくれない為そのまま後ろからイーブイがトテトテとついて来る事となった。
これはこれで可愛い気がするがなんとも複雑である。

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