知らないことは案外多い


一度通ったことがある為、同じようにバトルをしつつも35番道路は難なく通過する。
再会した塾帰りの少年に手を振りつつ、アッシュとイーブイはあのウソッキーがいる分岐点へと案外早く到着した。

するとアッシュの顔が見えるや否や、ウソッキーはビクリと体を揺らし―――次の瞬間にはサッと身体を仰け反らせ、道をアッシュへと譲る動作をした。
何事かとその場で立ち止まり瞬きを繰り返すが、ウソッキーは動かない。
イーブイはというと、大きくため息を吐いていた。
これは通ってもいいということだろう。とはいえ、なんだか申し訳ない。
つい目元を覗き込むがウソッキーと目線が合わなかった。微動だにしていないのに目線だけは明後日の方向をキープしている。
表情から読み取る必要もない――さっさと行ってくれという事だろう。

どうやらあのおいしい水作戦は水の苦手なウソッキーにとって相当なプレッシャーだったらしい。
しかし、よくよく考えてみれば一歩も引かない辺りにこの場所は譲らないぞというウソッキーの強い意志も感じる。
この場所の何がそんなにウソッキー達を引寄せるのかいまいち分からないが、それぞれポケモンたちには好ましい場所があるのだろうと思考を完結させる。
何よりウソッキーの態度が必死だ。決してポケモンいじめをしようとしたわけではないと誰に言うでもなく言い訳をする。

「……なんか、ごめんな」

さすがにここまで嫌がられてしまうと楽だと思うよりも先に申し訳なさが先に立ってしまう。
アッシュはそっと声をかけると、微動だにしないウソッキーの複雑そうな視線を背中に感じながらイーブイを連れて東の方へと抜けることにした。




見晴らしの良い道路に出て歩いて行くと、暫くは広い林の様な道をただ歩いているだけだったが、そのうち右側に何やら看板が見え始めた。近寄ってみると「アルフの遺跡 北側入り口」と書いてあるのが目に入る。
近くにいた男性に聞いてみると、出土品なども発見されていて結構有名な所らしかった。そういえば雑誌か何かで見た事があるような気がする。
遺跡など見た事がないアッシュはついついそちらに心惹かれたが、キキョウシティはこの先だという事なので渋々諦めることにした。
そのままそこを後にしようとすると、先ほどまで話していた男が突然何かを押し付けてくる。

「中身は必殺いわくだき!キキョウジムのジムバッジがあればこのいわくだきで、ヒビだらけの石っコロなんぞ粉々でごわすよ!」
「……ど、どうも」

渡されたものはポケモンに使う技マシンだったらしい。技マシンはテレビで何度も見たことがあるので知っている。本当に不思議な話だが、ポケモンにかざすとその技をポケモンが覚えるという。
一体どういう仕組みなのかさっぱりだが、覚えさせたい技があるトレーナーにとってはとても都合が良いだろう。
しかしアッシュは今のところ特に必要としていない。
どうやらこうしてキキョウシティを目指すトレーナー達に技マシンを配るのが彼の日課らしい。つまりはジムに挑戦するトレーナーと間違えられたわけなのだが、いちいち訂正するのも面倒なので有難く貰い受けることにする。
最後に技マシンの注意書きを長々言っていたが、それも面倒になったアッシュは礼を言って無理やり切り上げその場を後にした。
要はジムバッジがないのに使っちゃダメだよということらしい。なら配るなよと思わんでもないのだが、もらった手前そんなことは言わない。
それでも男は気を悪くする事もなく気をつけて行けよー!と手を振って来た為アッシュも頭を下げてから先に進んで行った。




「やっと、やっとついたか!」

あれからただひたすら真っ直ぐに進んで行くと途中から日も暮れ始め、キキョウシティに続くゲートを抜ける頃には真っ暗になっていた。
ウソッキーのいる分岐点から考えれば恐らくエンジュと同じくらいの道のりだったのだろうが、代わり映えのない一本道をただひたすらに歩くのは体力は勿論だがそれよりも精神力が削れていく。
とはいえ何とか野宿する事なくキキョウシティに到着することが出来た。
紫の屋根瓦が特徴的なキキョウシティはエンジュとはまた違う古風な雰囲気が漂っている。
暗くて良くは見えないが水独特の匂いがするのですぐ近くに湖でもあるのだろうか。
しかしクタクタに疲れきったアッシュ達はキキョウシティ探索をする元気もなく、そのまま一目散にポケモンセンターへと直行した。


イーブイをキキョウシティのジョーイに預け、回復している間にアッシュも食事をしたいと覗いてみたがあいにくと食堂は既に閉まっていた。
仕方なくアッシュは部屋で大人しく持ってきた携帯食を食べる羽目になる。
空腹時に味気ない携帯食では腹は満たされても気持ちは満たされない。食べた気にならないと思いつつも我慢していたのだが、その後戻ってきたイーブイはすっかり回復した上にジョーイに貰ったらしいフーズでお腹もいっぱいになっていた。
腹が膨れれば眠くなるもので、例に漏れず眠くなったイーブイはアッシュが用意したイーブイ用のタオルケットに包まるとさっさと眠ってしまった。
何だかんだでイーブイも大分家以外で眠ることに慣れてきたという事だろう。
良かったと安堵しつつ、お腹いっぱいで眠るイーブイを羨ましくも思いながらアッシュも就寝することにしたのだった。


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