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イーブイは最初からそれに参加する気はないらしく、適当にその辺の草むらをザクザクと進んでいる。
「あんまり遠くへ行くなよ」と言うと、はいはいとかそんな乱雑さたっぷりの返答が再び返ってきた。
適当ではあるがまだ返事をしてくれるようになっただけマシであろう。それに新しいところへ来るといつもとは違うポケモン達のにおいがするらしく、それを確かめている最中のようだ。
ポケモンにとって人間や他のポケモンのことを知ることは自分の身を守る上で大切なことだ。なるべくなら刺激せず好きにさせてやりたい気持ちもあるにはある。なのでイーブイのことはひとまず置いておいて、アッシュの方も薬草探しに専念することにした。
 
暫くは目的の薬草を探して岩肌を覗き込んでは似たような植物を探し、写真と見比べることを続ける。すると苔状のものがそんなになかったのもあり、すぐに見つけることが出来た。別種の可能性は少ないらしいのでほぼこれで間違いないだろうと思い、幾つか摘み取ると鞄へと仕舞う。
立ち上がり膝の土を払い落とすと、イーブイは何処へ行っただろうかと見渡すが草木に隠れてしまったのか茶色い身体は見当たらない。
 
「おーい!イーブイ!……いないなぁ」
 
すぐ近くにいるだろうと声をあげて探してみるが返事はない。その辺りの岩陰や長い草むらの中をガサガサと歩き回り探すが、いくら探しても見つからない。
足を伸ばし、念のため洞窟管理の人にもイーブイを見かけなかったか声を掛けるが首を横に振られた。もし通ったら教えてほしい旨を伝え、その後も探し続けたがやはり見つからない。
これは完全にはぐれたのかと思わずため息をついたところで件のイーブイがひょこひょこと帰ってきた。
 
「こら、遠くへ行くなって言ったろ」
 
するとイーブイはぴたっと立ち止まり一瞬だけ驚いたような顔を見せたが、すぐにプイとそっぽを向いて背中をかき始める。
やれやれと思いながらよくよくイーブイの身体を観察すると何やら所々傷が出来ていることに気づいた。
 
「イーブイ、その傷どうしたんだ?」
「ブイブイブイ!」
 
聞かれたイーブイはふふんと胸元のクリーム色の毛を膨らませると何やら得意げに鳴いた。よく分からなかったが勝ったと言ったのは理解出来たので野生のポケモンとバトルしていたらしい。
そんな音全くしなかったのにこいつは一体何処まで行ってたんだと呆れつつ、カバンを一度下ろして傷薬スプレーを探した。
 
「凄いな。でも危ないからあまり離れるな。見つからないと心配する」ともう一度注意しながら見つかった傷薬スプレーを体全体にかけてやった。するとあっという間にイーブイの傷は治っていく。いつ見ても不思議な光景だ。
それに対してイーブイはちょっとだけ不満そうだったが、今度は驚いた顔も不満そうな顔もしていないので心配していることは理解して貰えたようだ。
指摘するとまた騒ぎになるので何も言わずにいそいそと使い終わったスプレーを鞄へと仕舞い、さて戻るかと立ち上がったところで道に看板があることに気がついた。
どうやら行く時に見たアルフの遺跡の東口ゲートがあるらしい。
 
 
「イーブイ、遺跡に寄ってみよう!」
「ブイー?」
 
遺跡に後ろ髪引かれていたアッシュは今がチャンスとばかりにうきうきとイーブイを振り返ったが、えぇー?とか何とかとても嫌そうな顔をされる。
そんなイーブイに気づく事なくアッシュがゲートへと向かうと諦めたのかトテトテと後ろからついて来た。
 
 
 
遺跡はアッシュが思ていたよりもしっかりとした形で残っており、静かに佇んでいた。人が住んでいる気配のない建物というのはこうも静かで重苦しい気配があるものなのか。初めての経験に思わず目が輝く。
しかも所々に池があり、それがまた遺跡の神聖さを醸し出していた。
 
「凄いな」
 
イーブイはそれに対してはあまり同意出来ないらしく、何も言わずにくぁっと大きなあくびをしている。
所々に設置された看板を読みつつ遺跡内をあちこち歩き回った後、アッシュは出土品を見せてもらえないかと研究所と銘打ったところへと入って行く。
まさかそこまで行くとは思っていなかったイーブイはこれは長くなりそうだとしかめっ面をしていたが夢中なアッシュにはそんなもの見えていない。
スタッフ達もまた若者が自分達の研究に興味を示してくれたと喜んでアッシュに出土品を見せながらその詳細を教えてくれる。
その中でスタッフの一人がふと思い出したように尋ねた。
 
「ところでアッシュ君はアンノーンを知っていますか?」
「アンノーン?」
 
壁画に描かれた絵と同じポケモンなんですよと言いながら、スタッフはファイルを取り出すと写真を見せてくれる。そこに写っていたのは何やら形の違うたくさんの黒いポケモン達だった。
 
「とある少年が何匹もアンノーンを捕まえてくれたおかげで、アンノーンには幾つかの種類があることが分かっています。それがおそらく古代文字として使われたらしいんです」
「どういった形で古代文字として使われ始めたのかも調べたいところです」
「僕は儀式用に使われたのが始まりではないかと踏んでいます。ポケモンとは一部神聖なものとして扱われていましたからね。神のお告げに使われていたのではと」
 
スタッフ達は遺跡についてやアンノーンについて入れ代わり立ち代り自分達の推論を教えてくれた。
一つ一つにうんうんと頷いていると、飽きたイーブイがボールへ入れろと催促してくる。
 
「ブイブイ」
「あぁ、ごめんな。ありがとう、ゆっくり休め」
 
帰りたいと言わないあたりにイーブイの優しさを感じる。イーブイをボールへと戻すとイーブイの好意に甘えてその後も彼等の話を聞くに徹したアッシュは非常に充実した時間を過ごすこととなったのだった。

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