連絡は一方通行でも何とかなる



あれからどうにかこうにか苦戦しながらもなんとかカンポウの旧字体を読めるようになった時には既に数週間が経過していた。

「ふぅ…おーわりっと!」

今日の課題としていたカンポウの薬草帖の写しを終了すると、ぐっと伸びをしてからすっかりぬるくなってしまった甘いコーヒーを飲み干す。
そういえばイーブイは何処に行ったのだろうと辺りを見回して見ると、何やら奥の棚をゴソゴソと漁っていた。
たまに部屋の中をゴソゴソと嗅ぎ回るのを見るが、イーブイがやると周囲がぐちゃぐちゃになっていくのが多い。今も、前足で色々とものを引きずり出しては後ろ足でぺいっと蹴って邪魔な物をどかしている。

「あーあ、あんまり汚すなよー」

イーブイのそばへ行き、出したもの達を一つずつ拾い上げていくとその中に探していた物が混じっていた。

「あ、これ」

見覚えのあるそれは少し古くなったポケギアだった。
しまい込んでいたせいか、所々埃を被っている。

「……あー、すっかり忘れてた」

そういえば最初に一度探したものの、なかなか見つけることが出来ずそのまま諦めてしまったのだ。
イーブイもアッシュが横でポケギアを弄り始めたのを見て気がそれたのか、手を止めるとグイッと体を伸ばした。
そうしてそのまま毛繕いを始めると、その首元では薄緑色を帯びた丸い石がちらちらと揺れた。
先日虫捕り大会の景品で手に入れたそれをアッシュは考えていた通りネックレスにしてイーブイに渡したのだった。
何の石なのかはよく分かっていなかったが、イーブイはそれからかなりご機嫌なのでよしとしようと思う。
この穴掘りの様な行動は頂けないが何度言っても無視されるので諦めた。

それはともかく、とりあえず起動してみるかとアッシュはポケギアの電源を入れてみた。

「……うわー」

かれこれ二年近くはほったらかしにしていたポケギアにはたくさんの着歴が残っているが、その殆どが弟分二人組からだ。
実の母親よりも多いとは一体どういうことなのだろうかと思ったが、そもそも母親自体気がつくとあちこち出歩く性分だったため、息子が連絡を寄越さなくてもあまり気にしないのだろう。
以前半年程音信不通になったと思ったらゴーリキーを連れてシンオウ地方へと旅に出ていた事があったくらいだ。

しかしとりあえず連絡は入れておくべきだろうと思い電話をかけてみたが、どうやら留守らしく誰も出なかった。
また何処かへ行っているのだろうと思い、あまり気にせず留守電でそのうち帰る旨を伝えると電話を切る。
さて残るは弟分二人組…故郷であるマサラタウンでは有名な二人組であるグリーンとレッドなのだが、アッシュはどうしたものかと暫し考え込んだ。
グリーンの方は今電話を入れると母親以上に何をしてんたんだ今すぐ帰って来いと色々うるさい気がしたので何もせず、レッドにだけ電話を入れてみることにした。
登録された名前にかけてみて、暫く待った後にようやくポケギアが繋がった。

「……?」
「レッドか?」
「…い……どこ……るの?」
「え?何?聞こえないんだけど」

とりあえず繋がったものの、やたらと電波が悪いところにいるらしく、雑音ばかりでレッドの声は殆ど聞こえない。

「俺は元気だよ。そのうちそっちにも顔出すから。とりあえずまた掛けるな」
「……まっ……!……っ!!」

何やらまだ叫んでいるようだったが、一応生きているようだしまぁいいかと思い、アッシュは電話を切ってしまった。
そのうち帰ろうと思っているのもあり、アッシュ自身はあまり気にしていなかった。

その後、カンポウとマツバの番号を登録し、マツバにも電話を入れるとこちらはすぐに電話が繋がる。

「…もしもし?」
「あ、もしもし?マツバか?」

アッシュがそう尋ねると、アッシュ君かい?と返ってきたのでそうだと伝えると向こう側で相手がクスリと笑ったのが伝わってきた。

「随分遅いから忘れらてれしまったのかと思ったよ」
「……悪い。ポケギアがなかなか見つからなくて」

イーブイが見つけ出すまですっかり忘れていたとは言えず苦し紛れにそういうと、「嘘だよ。気にしていないから」と笑われてしまい、なんだがいたたまれなくなってしまう。
後ろではゴースが話を嗅ぎつけたらしく、誰だ誰だと寄ってきている声がする。
それをに対しマツバが「アッシュ君だよ」と伝えるとゴースは嬉しそうな声を上げた。
我がことながら何故そんなに好かれているのかよく分からない。

「これからまたバイトかい?」

それに気づいたのか、マツバがそう話題を切り替えてくれたのでアッシュは肯定の意を返した。

「あぁ。これからウバメの森にキノコと薬草を取りに行ってくる予定だ」
「そうか。じゃあ、気をつけてね」

またエンジュに来る時は連絡してよと言われたので分かったと伝えるとそこで電話は切れた。
これでやっておかなければならないことは終わった為、アッシュはもう一度伸びをすると未だ向かい側で毛繕いしていたイーブイを見やった。

「じゃあ、そろそろ行こうか」

そう言うと、フンと鼻を鳴らしたイーブイがアッシュの横を通って玄関へと歩いて行く。
アッシュもまたいつもの鞄を持つと、ウバメの森へと向かう為玄関へと向かったのだった。


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