とりあえず迷った時は道を聞け


「イーブイ、そう怒るなよ」

足元でイライラとした様子のイーブイにそう言うと、不機嫌さを隠しもせずプイとそっぽを向いている。
それにやれやれと肩をすくめ、正直困ったなとそのまま空を見上げて見たが、目に入るのは茜色の空が木々に縁取られた姿だけだった。


マツバに電話を入れた後、早速ウバメの森へ漢方薬の材料となる薬草やキノコを取りに来たアッシュ達だったが、あまり森に慣れていないアッシュとイーブイはすっかり迷子になってしまったのだ。
何とか目当ての薬草とキノコは手に入れたものの、その後森を出ようにも出られず延々歩き回っている状況である。
こんな事ならラッタを借りてくるんだったなぁとアッシュはぼやいてみたが後の祭である。
こうなったら野生のポケモン達に聞いてみようと意を決してはみたが、どうやらアッシュには漢方の匂いが染み付き始めているらしく殆どポケモンが寄ってこなくなっていた。

それでも野生ポケモンを探しているうちにかれこれもう一時間近くウロウロと歩き回っていた為、すっかり体力を奪われてしまっていた上に、あまり気が長くないイーブイは苛々を周りにぶつけ始めていた。
ダンダンと後ろ足を地面に叩きつけるように踏み鳴らす様子にアッシュはため息をつく。

「とりあえずあの湖のそばで一度休もうか」

このままではまずいだろうと思い数メートル先に見えた湖を指差すと、イーブイはプイとそっぽを向きながらも湖の方へと歩いていく。
静かに水を飲み始めたイーブイに習ってアッシュも湖畔に片膝をつくと、湖の冷たい水をすくって飲んでみる。
思いの外バテていた身体ではひんやりとした水が喉を通っているのがはっきりと分かり、その爽快感でやっと一心地ついたような気持ちだった。

そのまま、さてこれからどうしたものかと考えていると、水面にゆらゆらポケモンの影が見えるのに気がつく。

「ウパ?ウパパ!」
「あ、お前遺跡の……ぶわっ!!」

何だろうかと身を乗り出してみると、ひょっこり顔を出したそれは遺跡でみたあのポケモンで、驚いたアッシュとは対照的にポケモンは水鉄砲をしかけてきたのだった。

びっくりして顔を拭くアッシュを見て、悪戯が成功したポケモンの方はやったやったと嬉しそうに水中を泳いでいる。

「ブイブイブイ!」

騒ぎに気づいたイーブイが寄ってきて件のポケモンに文句を言うが、ポケモンの方は寄ってきたイーブイに喜んで陸に上がってくるとイーブイを追いかけ始めた。
どうやら前回の続きをするつもりらしく、遊んで遊んでとせがんているのがかろうじて分かる。

「お前なんでこんな所にいるんだ?」

疑問に思ったアッシュがそう問うと、イーブイを追いかけるのを一旦止めたポケモンは暫くした後、「ウパー!」と答えた。
どうやら散歩と答えたらしい。

その後は、くるくるとイーブイとアッシュの周りを走り回ってはあれやこれやと何やら話しかけてくるがすべては聞き取れない。
このポケモン自体がみなこんなに懐っこいのかは分からないが、この個体はかなり誰かと触れ合うのが好きなようだ。
それにしても散歩でこんなに遠くへとやってくるとは、ポケモンって恐ろしいなとアッシュが驚いていると、アッシュにまとわりついていた筈のポケモンがいつの間にかまたイーブイを追いかけ回していた。

「ホント自由だなこいつ…」

思わず呟いたが、追いかけっこをしているポケモンは勿論のこと、追いかけられているイーブイも聞いている様子はない。

「あいつの種族名なんだろう…」

明らかに水タイプらしいことは分かるが、見たことがない為名前がわからない。
そんな事を考えているうちにイーブイとポケモンの追いかけっこは激しくなり、とうとうブチ切れたイーブイがポケモンに噛み付こうと飛びついて行く。
噛みつかれたものの、すぐに体勢を立て直したポケモンも嬉しそうに水鉄砲をお見舞いしてきた。

どこまで行ってもこのポケモンにとっては遊びの延長のようだ。

「おいおい、お前たちそろそろ止め……あーぁ…」

次第に激しくなる攻防にどんどん周りの野生ポケモン達が逃げて行き、流石に止めなければとアッシュが声をかけた時にはイーブイの突進がポケモンに決まり、二匹とも背後の木に激突するところだった。



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