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「ほうれ、今日はこれを頼むぞい」

あの日、まぁ良いかと騙されてしまった人の良さそうな笑みを浮かべた爺さん、カンポウはたくさんの袋を此方へ手渡してくる。
結局その後腰が痛いだ何だと言いつつ毎回アッシュを頼るカンポウはとうとうバイト先にまで訪ねてきては荷物持ちをさせてくるようになった。
それを見た店長は心配するどころか
「君は本当に性根が優しいんだね」とアッシュの行いを褒め称えるせいでカンポウもまた「本当に良い青年に出会いましたよ」なんて調子よく言うものだから断るに断れぬ事態に陥ってしまった。
しかもその行いに感動したからだとかでアッシュの時給を上げた店長にレアコイルも流石に苦笑を隠せない様子を見せていた。
自身も勿論なのだが、店長の行く末もまた心配になったアッシュである。
とはいえ、そこはパートナーであるレアコイルがどうにかしてくれる事だろう。

手渡された腕の動きに合わせて袋からふわりと漂ってくるのはツンと鼻腔を抜けていく苦味を帯びた香りだ。
昔は日曜日にしかやってなかった漢方屋だが、アッシュが手伝うようになった今ではその日以外にもこうして得意先に薬を運べるようになって馴染み客にも評判が良い。
それまでフリーターとしてぶらぶらしていた自分が行く先々で感謝される…それもまたアッシュが辞めるとなかなか言い出せない理由でもあった。
運搬のボランティアをしている方が気分転換にもなるし、喜ばれるのは素直に嬉しいと気づいてしまうと辞める理由らしいものが見つからないのである。
そんなわけで今日も今日とてカンポウの手伝いをしていたアッシュであったが、その日渡されたリストはコガネシティ内のお得意さんに運ぶ見慣れた住所とは違っていた。

「なぁ、爺さん。これ、ヒワダタウンの住所?」

ヒワダタウンは34番道路の先にあるウバメの森を更に通り抜けた先にある小さな職人町だ。

ポケモンと人が共に仲良く暮らす町

という看板がある通り、ポケモン…特に水タイプのヤドンが多く生息している。
ヤドンの井戸なんて呼ばれる澄んだ水があるそこは居心地が良いのかもしれない。
人とポケモンが仲良くするのは好ましい事だから勿論構わないのだが、問題はその手前にあるウバメの森にある。

「俺、ポケモン持ってないんだけど」

草むらに入れば野生のポケモンが飛び出してくる、なんていうのは小さな子供でも知っている当たり前の事だ。
道路は草が刈ってある場所もあるので構わないのだが、木々が生い茂る森の中はそうもいかない。
いつポケモンが飛び出してくるか分からないのでポケモンを持つ所謂ポケモントレーナーしか入ることが出来ないのだ。
それでも森を抜けたい人のために一緒に森を抜ける事を生業にしている人達もいるにはいるが、金はかかるし何より森を抜けるのに最低でも半日は潰れてしまうためあまり行きたくはない。

するとそれが顔に出たのか、

「あぁ、金は出さんで大丈夫じゃよ。ワシのポケモンを貸してやろう」

なんて有難いような、有難くないような申し出をしてくれた。
いや、そもそもあんたがお使いを頼まなければいい話なんだがと思いつつそのシワの寄った笑みに騙されたフリをしてアッシュは今日も荷物とポケモンを受け取ってしまった。




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