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さっそく荷物を置いて戻ってきた一行は初の温泉へと来ていた。

「いらっしゃい!温泉は初めてかい?」

アッシュが頷くと番頭は温泉について説明してくれる。
入り口は男女それぞれ1つずつだが、中は更にポケモン用と人間用で分かれているらしい。
初めてのポケモンの為にポケモンと一緒に入れるよう、ポケモンと共有のスペースもあるとのことだ。

イーブイとウパーだけにするのはとてもじゃないが心配過ぎる。
イーブイはあのバトル好き故に喧嘩になり易いし、ウパーはそもそも大人しく湯に入っていられるか怪しい。
下手をすれば何処かに一人で出かけてしまうかもしれない。
出かけるのはいいが、それで迷子になられたのでは探しようがない。
というわけでアッシュは穏便に共有スペースを選択した。
しかしもうそこからが大変であった。
先払いの代金を支払っている間にウパーが入り口へと飛び込んでいく。
慌てて追いかけると物珍しそうに脱衣スペースの端から端までキョロキョロしながら走り回っていた。
あまり混んでいないのが幸いであるが、人がいないわけではない。

「ウパー、勝手に入るなよ」

イーブイの首飾りが外れない事を確認しながらウパーに何とか脱衣スペースにいるよう声をかけ、手早く自身の用意をする。
ロッカーの鍵はゴムが通してあったのでそのまま手首に巻き、タオルだけを持って向かう。
早く早くとせがむウパーの前で脱衣所の扉を開けてやると早速そのままお湯に飛び込もうと突進していく。
駆け抜けようとするウパーがジャンプした所で慌ててその身体をキャッチして連行した。

「待て待て!まずは洗ってから」

そもそもウパーはお湯に入れていいのだろうか。自分で飛び込むくらいだから大丈夫なのだろうがやや心配である。
ついでにウパーの粘液のせいで手がピリピリと痛い。しかし離せば飛び込んでいくのは明確なためそのまま移動を開始した。
騒がしいアッシュ達の後ろからイーブイが呆れ顔でとことこと通り過ぎていく。
何度か風呂へ入れたことのあるイーブイは勝手が分かっている為、大人しく洗体スペースへちょこんと座った。むしろ早くしろと尻尾を床に叩きつけて催促している。
しかし今ここでイーブイを優先すればウパーはそのまま風呂に直行するに違いない。

「すまんイーブイ。ちょっと待っててくれ」
「ブイブイー!!」

なんで!と文句を言っているようだが仕方なかろう。ウパーは今もアッシュの手を振り払って湯へ入ろうと身体を捩らせている。
アッシュもアッシュでつるつる滑るウパーを捕まえておくのは容易ではない。
イーブイも最初は文句を言っていたが、自分の方にまで早行こうと騒ぐウパーに辟易したのか、さっさとしろとひと鳴きした。

「ありがとうな」

晴れてイーブイから許可が出たので、アッシュはウパーの洗いに取り掛かる。洗い場にはポケモン用のシャンプーも備え付けられていた。アッシュも買ったいわじめんタイプ以外に使える共通のそれを手に取ると、早速泡立てていく。
ちなみにいわじめんタイプには水のいらないシャンプーなるものがあるらしい。

ウパーの身体は粘液の為かあまり泡立たず、ぼとぼととシャンプーが落ちていく。
なので先に泡立ててそれを体に移すことで洗っていく。とはいえそれもすぐに落ちてしまうのでさっと終わりにし、よく洗い流すのに徹する。
洗った後で再び粘液に身体が包まれたのを確認すると、ようやくその身体を解放した。

「はしゃぎ過ぎるなよ」
「ウパー!」

はーいと元気な返事が聞こえたが、返事だけだろう。そんな気がする。と思ったらちょうどウパーがお湯に飛び込んだ。

「お待たせイーブイ」

ようやくかといった様子で待っていたイーブイを洗ってやる。
イーブイは洗われるのは慣れてきたが基本的にはドライヤーが好きなだけである。
途中、何度も身震いして泡を飛ばしてくるのでこちらまで泡だらけだ。それでも最初の時のように噛み付いたりしないだけマシだろう。

「ブイー!?」
「うわ!」

大人しく洗われていることに感慨深くなっていると、イーブイの尻尾目掛けてお湯が飛んでくる。
ウパーが温泉の湯を水鉄砲の要領で飛ばしてきたらしい。

「カーッ!!」

イーブイが威嚇して抗議するがそれもなんのその。ウパーはスイスイと温泉の中を楽しそうに泳いでいる。
洗い終わったイーブイがそのままお湯に近づくと、今度はそのまま尻尾を咥えてお湯へとダイブさせた。

「おいおい騒がしいからやめてくれ……って冷た!!」

間に入るが、はしゃいだウパーに水をかけられるだけであった。
その後もアッシュが自身の体を洗っている間に取っ組み合いが起こったり、水をかけられたり2匹は兎に角騒ぎに騒ぎまくった。

それを見た他のトレーナー達は大笑いしたものの、誰もイーブイ達を咎めることはしない。
むしろアッシュの方が気にして頭を下げたのだが、「うちの子達も初めての時はそうだったから気にするな」と肩を叩かれた。
一緒に温泉に入るようなトレーナーは皆寛容らしい。

体を拭くのにも一悶着あり、ワイワイしてようやく部屋へと戻ると2匹はご飯もそうそうにベッドで眠ってしまった。

「いやそれ俺のベッドなんだけどな」

うつ伏せになったウパーにのしかかられ、後ろ足でイーブイがその体を蹴っ飛ばすがごろりと仰向けに転がったまま起きる気配はない。
それを見ていたら何だかどうでも良くなってきたので、頭に掛けたままのタオルで髪を拭く。そのまま部屋にてヨモギから貰った資料に目を通し始めたのだった。


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