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怒られるウパーを笑って見守るカンポウは話を続ける。

「自然のものなので警戒心が強い野生のポケモンの保護にも活躍出来ること、そして戦闘において重要な復活が出来ることじゃな」
「復活って?」
「ポケモンは戦えなくなると瀕死という状態になるのは知っているな?」
アッシュはコクリと頷く。
「戦闘不能というヤツじゃ。その状態で回復する術はポケモンセンターに行くこと以外に3つある。元気のかたまり、または元気のかけらという道具を使うこと。そしてふっかつ草という漢方薬を使うことじゃ」

「もともとあったふっかつ草を元に作ったのが元気のかたまりと元気のかけらじゃ。とはいえ、これらは元の苦味成分を省いて作るのに苦労してのぅ。気付け薬の効果としてすぐ開発されたのが元気のかけらじゃ。厄介なのは元気のかたまりでの。これは瀕死状態から一気に全回復する代物なんじゃがなかなか難しいらしくてほとんど売っとらん」
「じゃあ買えないんですか?」
「あぁ。ごく稀に拾ったとか譲ってもらったとかいう話も聞くが貴重でおいそれとは使えんじゃろ」

キズ薬ですらアッシュには万能なものに映ったというのに、世の中にはそれを上回る凄い発明があるらしい。
驚くアッシュにカンポウも頷いてみせる。

「漢方薬の効果は大きい。じゃが同時に色々ついてまわるデメリットもあることを忘れてはいけない。特にポケモン達にとってあまり好かれるものじゃないからのぅ」

カンポウはそう言いつつ薬草にまつわることや薬について色々と講義をしてくれた。
そんな始まりを経て座学からポケモン漢方について学ぶことおよそ半年。アッシュはカンポウの店の手伝いや調達の仕事をしつつ、ポケモン漢方について学ぶ日々を送ることとなったのだった。






―――そして半年後



「アッシュや、半年前のことを覚えているかのぅ。そろそろお前さんには基礎を卒業して次に行ってもらおうと思っておる。もちろん勉強も続けられるようサポートしよう。その為の人材もあちこち頼んである」
「人材って?」

カンポウ曰く、漢方屋はそれぞれの地方に店を構えているが、ポケモン協会と同じように漢方協会としてひとつのネットワークで繋がっているらしい。だからこそ偽物を掴まされることなく一定ラインの薬を漢方薬として提供出来ているのだそうだ。
勿論それには免許もいる為、ドクターとはまた違った漢方薬に関する免許取得が必要との事だった。
そしてその免許取得の為、漢方屋は弟子入りした者の勉強の為にと協力体制を取ることとなっている。
特に最近ではポケモンが嫌がるからと漢方からの若者離れが深刻となっている。免許取得には協会も力を入れているらしい。

「というわけじゃから例に漏れずアッシュにも同じように勉学に勤しんでもらおうと思ってのぅ。あちこち声をかけておいたんじゃよ」
「……今更だけど爺さんって何者なんだ」

アッシュが驚いて尋ねると、カンポウは茶目っ気たっぷりの笑顔で「何、わしも伊達に年老いてるわけではないからの」と宣った。

「その為にまずアッシュにはホウエン地方へと行ってもらう」

「ホウエン地方?」
「そうじゃ。ホウエン地方にはたくさんの薬草が根付いておるし、勉強にはもってこいじゃ。ホウエン地方へ行ったらまず、フエンタウンへと向かってほしい」

フエンタウンにはホウエン地方で1番大きな漢方屋があるんじゃよ。そこの者に話は通してあるからまずはそこに向かいなされとカンポウは続けた。

「分かった。準備が出来たらフエンタウンに向かうよ」

話を一通り聞いたアッシュは一緒に話を聞いていたイーブイとウパーにも目配せをしつつ、2匹が頷いたのを見てアッシュもまたカンポウに頷いたのだった。



とりあえずコガネを離れることになっていの一番に連絡したのは普段から色々話を聞いてもらっているマツバだった。
通信で近況を報告しつつ、早速その旨も告げる。

「成る程ね。それでほか地方に行くというわけだね?」
「あぁ、ホウエン地方へ行く事になった。アサギから船に乗るから行く前に寄ってこうと思うんだけど」
「僕はジムからあまり離れられないからね。是非寄ってくれると嬉しいよ」

ゴースも待ってるとマツバが付け足すと、遊びに来るのか?とはしゃいでいるゴースの声が聞こえた。
どうやら待っているのは本当らしい。

「ジムに来る時は連絡をしてくれ」
「分かった、じゃあまた後日寄らせてもらうよ」


約束取り付けると、アッシュはそのまま通信を切ったのだった。
そして次にレッドとグリーンにも一応コガネを離れる旨の通信を入れる事にする。
あいにくどちらもすぐには取れなかったようなのでそのまま通信を切った。

そのあとバイト先だった店長の所へも挨拶しておこうと直接行ったが、また表に臨時休業の張り紙が貼られていた。

半年前にパーツ探しに出ていった店長はその後一月くらいでようやく帰ってきた。それからもちょくちょく工場に突撃しては帰ってくるを繰り返しているようだった。
コガネにほぼ定着していたアッシュはたまに鍵を預かることもあったが、ここ数ヶ月は落ち着いていたので頃合いだったのだろう。
そういえば最後に会った際にまた新しいパーツを見つけたとかなんとか言っていた気がする。
仕方がないので旅立つ旨を書いた手紙をポストに入れておくことにした。そのうち帰ってきたときにでも――いや、帰ってきて一通り自転車作りが落ち着いたらレアコイルが見つけてくれることだろう。

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