旧3周年リク


3周年記念リクエスト作品
リクエスト内容:マツバがホモっぽい話

※BL&偽物注意





以前配達に行った際にご馳走になった婆さんのところへ薬を届ける為、アッシュ達は再びエンジュシティへと訪れた。
ついでにマツバに挨拶でもしてこようと思い立ち、配達終わりにポケモンジムへと顔を出すと丁度マツバとミナキが一緒にジムから出てくるところに出くわす。
先頭を歩いていたマツバが声を掛けるよりも先にアッシュへ気づき、やや嬉しそうにこちらを見た。

「アッシュ君!久しぶりだね」
「おお!アッシュか!」

その声で気付いたらしいミナキもまた笑みを浮かべてこちらへ向けて片手を上げてみせる。
ミナキとはあの妙なスイクン不足時に会ったきりであったがどうやらきちんと覚えていてくれたらしい。
バンバンと力任せに肩を叩いて元気か?と尋ねてくるので頷くと、ミナキは「そうか!」満足そうな様子であった。
スイクンが関わらなければこんな感じなのかと思いつつ、顔を見にきたのだと告げるとマツバ宅へと誘われる。
二人はこれから酒盛りするとのことだったので、近況報告がてらそのままお邪魔させてもらうことにした。

2人共それなりに嗜むらしく、買い出しに行くとかなりの量の酒を購入していたが、ミナキはそれを結構なペースで消費していく。
マツバとアッシュは自身のペースを崩さないのでそれは顕著に現れ、気がつくとすっかりミナキは出来上がっていた。
それでも最初は普通にそれぞれスイクンやらジムやら配達やらの近況報告をしていたのだが、いつの間にかミナキのスイクン語り独壇場となっていた。

「でな、その時のスイクンと言ったら本当にもう神々しいの一言でな!俺はその時本当衝撃を受けてもう俺はスイクンを追い掛ける為に生まれたんだって思ってーーー」

しかももう一時間近く話しているのにも関わらずまだスイクンとの初めての出会いについて話している。
流石に飽きてきたアッシュは助けを求めてマツバの方を見るが、そちらはそちらで過去に描かれたのであろうホウオウの姿絵を肴にニコニコしながら清酒を飲んでいた。
「あ、これダメなヤツだ」と思わず呟くくらいには怪しい光景である。

「……俺が言うのも何だけどさ、いい年した野郎が女の話一つしないっていうのはどうなんだろうな」

隣はスイクン語り、前方ではホウオウ鑑賞という何とも華のない光景に思わず零したアッシュだったが、自身も浮いた話があるわけではない。しかし何時間もこの状態では精神的に疲れそうだと思ったのだ。
現にイーブイやガーディ達はフーズを食べた後暫くは遊んで居たのだが、ゲンガー達に誘われて別室へと移って行った。
何処かの部屋で遊んでいるか、あてがわれた部屋でのんびり過ごしているのだろうと思うととても羨ましい。
そんなわけでついつい嫌味の一つでも言いたくなったのが本音である。
それを聞いて、飲み干してしまったことに気づかずコップを煽ろうとしたミナキが無いことに気付いて手を止めつつ、からかうようにアッシュを見やった。

「あー?アッシュはあるのかよそういう話」
「ない」


案の定振られた話題に清々しい程きっぱりと答えると、やっぱりなと笑って背中を叩かれる。

「なーんかあんま女の好みとかアッシュのは思いつかないんだよなぁ。で、実際どうなのよ?」
「は?」
「女の話」

振ったのはアッシュだろうと言ってミナキがハイボールのお代わりをコップに注ぎつつ話を続けると、「あ、それ僕も気になるなぁ」と言ってマツバが便乗してきた。

「何で俺?」
「えー、だからアッシュのは思いつかないんだよ。普通何と無く、年上が好きそうだとか年下が合いそうだとか分かるじゃんか」

そういうものだろうか、よく分からないんだがと内心同意しかねているとマツバがミナキの好みを暴露し始める。

「そうそう。ちなみにミナキ君は守備範囲が広いからこれといって年齢は関係なさそうだよ」
「おい、その言い方だと節操なしみたいだからやめてくれ」

片手を前に突き出し、待ったのポーズをしつつミナキが告げると、マツバはおかしそうに笑い始めた。

「えー、前にトレーナーの少年を追っかけ回してたじゃないか。12、3歳くらいだったかな」
「……へー、ソウナンデスカ」

ここでは10歳になれば大人と同じ扱いである為どうこう言うつもりはないが、12歳の少年とミナキでは絵面はやや危ない気もする。

「違うだろー!あれはスイクンを追いかけてたんだ!アッシュも胡乱げなものを見るような目をするな!」

全く、と言いつつ野菜の煮浸しに箸をつけるミナキをマツバはおかしそうに笑っている。
それに釣られてアッシュも煮浸しに箸を伸ばしていると、ミナキが「で?」と続きを促した。

「結局アッシュの好みはどんなんだ?」

あ、またその話に戻るのかと思いつつ、自身の好みを考えてはみたが改めて聞かれると特に何も思いつかない。

「特には……ないな」
「なんだよつまらないな」
「そんなこと言われてもなぁ。あー、でも強いて言うなら背筋がピンとした子が好きだな」

あと指先の動きが綺麗な子と告げると何だそりゃとミナキに爆笑される。
特に意味はないのだが、動きが綺麗な人には目が行くような気がするのでそう言ったのだが、ミナキ的には大分的外れな答えであったらしい。

「てかそれだと男でも女でもいいみたいじゃんか。あ、そうだ。俺とマツバならどっちと付き合うよ?」
「……なんでそんな話になるんだよ」
「えー、だってアッシュが微妙なこと言うからさぁ。いいじゃんか、答えるだけだし!」

何だそれは意味わからんと思ったものの、結構な量を飲んでいるので酔っ払いの戯言だからと流すことにしてアッシュも僅かに残った清酒を飲み干す。

しかし興味津々といった様子のマツバがやや乗り上げ気味で「えー、なんか気になるなぁ」「僕とミナキ君ならどっちがいい?」「ねぇねぇ」としつこく聞いてくる。
面倒くさいなと思いつつ、アッシュもまた程よく酔いが回っていた為、普段なら考えないそれを真面目に考えてみることにした。
とりあえず隣に目を向けると、ミナキは飲み干したコップにビールを新しくつぐところであった。



ミナキは見ての通り、スイクン推しのスイクン追っかけをしている為、付き合うと言っても意味合いが違ってくる気がする。
「ミナキと付き合う」というより「ミナキに付き合ってスイクンを追いかける」になるに違いない。
その場合そのまま一緒に追っかけをしなきゃいけなくなるなんでそんな面倒くさいなどと、普段ならばどうでもいいと思うことをこの時ばかりはぼうっと考え続ける。
すると黙ったまま見つめるアッシュに何やら勘違いしたらしく、ミナキがふっと笑って肩をすくめてみせると、

「すまんなアッシュ!俺はスイクンが好きなんだ!今はスイクン一筋だ!スイクーン!!!」

と言ってすぐ隣にある窓の方を見て、ちょうどそこから覗いていた月に向って吠え始める。
とても近所迷惑に違いない。

「あれ、俺告白もしてないのにフラれたんだけど」

別にミナキをそういう目で見たことは全くもってなかったが、思ってもいないのにはっきりきっぱり否定されると何やら腹立だしいものを感じるのは何故だろうか。
とりあえずご近所への騒音が心配だとアッシュが密かに心配していると、マツバがスイクンのことが書かれた本をミナキに渡して開けられていた窓を閉めていた。
その対応の速さはさすが幼馴染みである。
やれやれと肩を竦め、アッシュもそろそろ軽いものに変えようとサワー系の缶を漁っていると、隣に来たマツバが爆弾を落とした。

「えー、僕はアッシュ君ならいけるけどなぁ」
「……は?」

思わず袋を漁っていた手を止めてマツバを見やるが、本人はビールの缶を片手に「ん?」と不思議そうな顔をして首を傾げている。

「えーと、マツバさんや、今なんと?」
聞き間違いかと思い再度尋ねてみると、

「いや、だからねー、ミナキ君はお断りだけどアッシュ君なら僕いけるなぁと思って」

顔は酔いのせいで赤いものの、いつも通りの穏やかな表情でいつもとはかけ離れたことを言い出すマツバにアッシュの思考がついて来ない。

「……そうか」

まぁしかし、酒の席だしな、酔っ払ってるんだろう。俺も結構酔ってるし聞かなかったことにしてやろう、というか何だか物凄いことを聞いてしまったという謎の焦りを感じたアッシュは話を流すことにした。
しかしそれが不満だったらしく、マツバは面白くなさ気に眉を寄せている。

「えー、本当のことなのに」
「いやいや、ないだろ」

不貞腐れたような表情をするマツバにあー、こいつ酔ってんだなと再認識したアッシュは幾分か冷静になってツッコミを返した。
しかし酔ったマツバはそんなアッシュの態度を気にした様子もなく、

「そんなことないよー。身体骨張ってるけどアッシュ君可愛い顔してるし、性格も何だかんだ面倒見いいしー」
と、何故かアッシュの好みな所を次々と上げ始めた。
それに対してやはり酔っているアッシュもまた、骨張ってるのは女じゃないんだから当たり前だろう。誰が可愛いだよ、要するに男らしくないと言いたいのかこの野郎とややズレたことを思って缶を傾ける。
すると突然、アッシュの顔をがっしりと掴んだマツバが、

「でも特にこの目とか好きだなぁ。角度で濃淡がついて綺麗だよね」

と、アッシュの目を覗き込むようにして顔を近づけてきた。
そこでようやくなんでこんなに距離が近いんだろうかと気づいたアッシュだったが、缶を挟んですぐのところにあるマツバに動揺して冷や汗が出始める。

「おーい、マツバさん。近い近い近い!!」

零れるだろう!と怒鳴るが聞いているのかいないのか、へらへらと笑っていてあまり理解していない様子だ。
いっそのこと蹴飛ばしてしまおうかと悩んでいると、缶を軽く噛んでいた歯に物凄い衝撃が加わった。

ガヂンッという硬物がぶつかり合う音と共に前歯が折れそうな程痛み、思わず「うっ!!」といううめき声と共に口を抑え込む。
そこにマツバが覆いかぶさってきたが、悶絶ものの痛みに気を取られてアッシュはそんなことを気にする暇もなかった。
ようやく痛みが引いてマツバが伸びていることに気づいたアッシュが向かい側を見ると、イーブイが物凄い形相でこちらを睨みつけていた。
どうやらこれはイーブイがマツバに突進した結果らしい。

背中を強打したマツバは最初こそ呻いていたが、そのまま気絶してしまったらしく動く様子がない。
すっかり酔いの覚めたアッシュがどうしたものかと途方に暮れていると、ゲンガーやゴースト達が慣れた様子で毛布やら枕やらを運んできた。
ゴースによると、2人はよく酔いつぶれるらしい。

「ゲンガー…お前も大変だな」
「ゲンガッ!」

いつものことだとはなかなか男らしいゲンガーである。
見ればミナキもスイクン本を片手にすっかり眠りこけている。
結局その日はそこでお開きしてマツバ達の世話はゲンガーに任せ、アッシュ自身はゴース達に台所の場所を聞いて適当に洗い物を済ませると自分もさっさと寝ることにした。





翌日、2人が昨日のことをすっかり忘れケロッとした顔で起きてきたことに安心したような、自分だけ気苦労した様でムカつくような微妙な思いを抱いたのはまた別の話である。




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