一体何が間違っていて、何がそうでなかったのか、全く見当がつかなかった。ただ、何かが間違っていたと言うことだけは、自信を持って言える。
 私が闇の魔術を学び始めたのは、卒業してからだった。かなり遅い方ではあった。その所為でセブルス・スネイプには散々馬鹿にされたが、実際私に才能があったのか、魔法の技術は上々だった。学校の成績とはあてにならないものだ。そうして私はあのお方の信頼を得ることに成功した。様々な、難しく、かつ信用されていないとこなせないようなミッションをやり遂げた。これが、私の人生だと思っていた。だから、今になるまで何かが間違っていることさえわからなかったのだ。だが今私がいる場所は、決して最高の終着点ではないといということは、容易にわかった。

「はは、なんで、こうなったんだろうね」
「わからない」
「笑うしかないな。ハハ、 ナマエもそう思うだろ?」
「わ、笑わないで、こんな時に」
「真面目だなあ」

 私が真面目と言うより、ポッターが不謹慎すぎるのだ。昔からそうだった。周りのみんなが真面目になるほど、それを嘲笑うかのように彼の行動だけがどんどん軽率になっていった。そんな彼のことが大嫌いだった。今も昔も。

「あーあ。キミのこと、嫌いじゃなかったんだけどな」
「私は、あなたのことが大嫌いだった」
「褒め言葉だね」

 ポッターは、楽しそうに、笑みを絶やさない。たまに首をクイッと傾げたりして、まるでダンスを踊っているようにも見えた。

「楽しくいこうよ ナマエ。人はいつか絶対死ぬのさ。人生、楽しんだ方が勝ちだよ。そんなに堅くなってもしょうがないんだから」
「う、うるさい!」

 叫びながら、唇がかたかたと揺れる。怖いのだ。当たり前だ、怖いに決まってる。

「ねえ、 ナマエ。怖い?」
「こ…………怖いに、決まってる」
「僕のこと、さっき嫌いって言ったけど。ねえ、僕のこと憎んでる?」
「当たり前でしょう」

 先ほどからずっと、右手をピンと伸ばしてこちらに向けている。かなりの時間が経ったと思うのだが、彼に疲れた様子はなく、寧ろ微笑んでいるようだった。

「何か言い残すことは?」
「……あんたなんか、大嫌い」
「それは知ってるよぉ」

 ちらと、ポッターはもの悲しい顔をした。何故かこちらまで不安になるようで、それを振り払うように私は首を左右に振る。余計なことを考えずに済むように。

「……ポッター」
「ん? なんだい?」
「私、あなたのこと嫌いじゃなかった」
「お。光栄だね」
「憎くて憎くてたまらなかった。でも、それと同時に、少し好きだったのかもしれない。私はスリザリン。あなたはグリフィンドール。自分と同じじゃないあなたが憎くて仕方がなかった」
「……そりゃあ、大層な遺言だなあ」

 彼は思いっきり顔を顰め、苦虫を噛み潰したような表情をした。こんなときになって、初めて色んな表情を見たと思う。おかしな話だ。笑えるのも今更ながらに頷けた。

「なら、僕からも、冥土の土産があるよ」
「……な、なによ」
「うん。大したことじゃないんだけどね」

 ポッターは相変わらず苦い顔をしている。そろそろ腕が疲れたのだろうか、杖を持ち直すことも多くなってきている。

「ナマエ」
「愛してるよ」

 さようなら、そう思うのと、光が弾けるのは同時だった。

アルカイック・スマイルの残滓
(110728)afterwriting