春の嵐の二人です。現パロ。

 初めてここに来てから1年程経つというのに、この部屋に来るのは未だに少し緊張すると言ったらクロロ先生は呆れるだろうか。変なコップに注がれた不味いコーヒーを啜って、ごちゃごちゃの部屋の中を眺めた。常勤とはいえ講師の部屋は教授のそれよりも大分狭いらしい。ところ狭しと置かれた、どこかの民族の坪やら人形やらタペストリーやらは、収集されたのちにこんな乱雑な部屋に置かれるとは思ってもいなかっただろう。

「そういえば」

 珍しくクロロ先生が口を開いた。珍しい、というのも、今までに何度かこの部屋を訪れたが、毎回黙ってコーヒー(不味い)を頂くだけだったのだ。普通に気まずいなと思っていたので、クロロ先生が何か話してくれるのは有難い。まあ、気まずいにも関わらず何度も足を運ぶ私も私なのだが。

「ゼミは決めたのか? そろそろ3年だろう。……俺のゼミにしてもいいんだぞ? 文化人類学は面白いぞ」
「嫌ですよ。文化人類学は好きですけど。クロロ先生の講義つまんないもん」
「そうか」

 そこで、ゴロゴロ! と、まるで相づちを打つみたいに、ちょうどよく外から雷鳴が聞こえてきて、二人揃って窓の外を見る。急激に空模様が怪しくなってきているようだった。このまま一雨来るのだろう。

「春の嵐だな」

 クロロ先生は少し微笑んで言った。部屋の隅に、綺麗に畳まれた真っ黒の傘が立てかけられている。

「雨が止むまでここで休んでけよ」

 私は黙って頷いた。雨音が近づいてくる。

春雨を帳にして
(210416 現パロ or 春の嵐の二人/リクエストありがとうございました〜!)
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