私の役割は明瞭で、加藤清正ら武断派による石田三成強襲の補佐をすることだ。殿は表だって武断派に手を貸すことはできない。だから、忍を遣わしたのだ。必要があれば、石田三成を手ずから討つよう命じられていた。何故、殿が私に石田三成を討つよう命じたのか、そこに理由があるのか、ないのか、もう確かめる術はない。
 私は殿が好きだ。泰平の世のためというお言葉も好きだ。ずっとお側で聞いてきた。泰平の世のため。泰平の世のため。心の中でそう呟きながら、敵を探す。大阪城に石田三成はおらず、佐竹邸からも姿を消したらしい。伏見に向かっていると睨み、行軍を探す。崖を登り、森を抜け、伏見に向かう石田三成を探して目を凝らす。
 複数の人の気配がして、大木の後ろに身を隠した。“大一大万大吉”の旗が踊るのが目に入る。獅子のような兜の奥にある、燃えるような朱い瞳と、視線がかち合う。

「……!」

 一瞬、隙があったと、自分でもわかる。気付けばいくつもの矢が右、左、両方から打ち込まれ、喉元に扇子を突きつけられていた。先ほど身を隠してくれた大木が、今度は背後から逃げ道を奪っている。痛い、なんて、もう今更思わないけど、流れ出る血の量から、任務に失敗したことを思い知る。

「お久しゅう、ございます。三成様」
「秀吉様が死んでから一度も姿を見せなくなった奴が、こうしてのこのこと現れるとはな」
「……あの時は、味方同士、でしたね、三成様」

 微笑んで見せたかったが、そんな余力、体中のどこを探しても見つからなかった。石田三成は苦虫を噛み潰したように表情を歪めた。

「……馬鹿め。先ほど、俺を殺せただろう」
「……あはは。……そーですね。……確かに」
「貴様が来ると、わかっていた。だが、来ないでくれと願っていた」

 血が流れ出る。意識が遠のく。

「みつ、三成様、わたし、泰平の世、のため、って」
「……わかった。喋るな」
「あは、は。三成さま、変なの。敵、の忍、討ち取っ、たのに。そんな顔、して」
「俺は四奉行に数えられる武将だぞ。たかが忍一人討ち取ったくらいで、はしゃいでたまるか」
「……あは……それも……そーですね……でも……」

 でも、なんで泣いているんですか? なんで、涙を流しているのですか? その疑問を、実際口にできたのか、できなかったのか。泰平の世が、結局来たのか、来なかったのか。かつて愛した者の手にかけられて死ぬことを選んだ私には、もう知るよしもないのだ。

君の手が与え賜うた
(210508 石田三成/リクエストありがとうございました!)
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Goodbye, rainydayの二人です。現パロ。

 郵便受けからいくつかの郵便物を乱雑に取り出して、中身を検める。ほとんどが父宛か、母宛か、誰宛てでもないチラシだ。その中に一つ、自分宛てのものを見つけた。ドキッとする。もちろん、マイナス方向のドキッだ。
 『〜〇〇市成人式 縮小開催のお知らせ〜』

「う、嘘だーーーー!!!!」

 時は2020年、世界中は新型ウイルスによって未曾有の大混乱に陥っている。思いがけず強いられる外出自粛生活の中で、人類の99%が辟易しているだろう。だが私はその数少ない1%の人間だった。ソーシャルディスタンス万歳。自粛生活万歳。リモート授業万歳。20歳にもなって、この暗い性格が全く変わっていない自分に辟易するばかりだが、とどのつまり根っから根暗ということが証明されたにすぎないので特段驚きはしない。そんな私の目下の懸案事項は、あの古き悪しき通過儀礼、成人式である。不謹慎だとはわかっているが、ウィルス様のお陰様で、奇しくも今年度の成人式は絶対中止! だと、思ってたのに……!

「縮小で開催だなんて……」

 ふと、スマホの通知が光っているのに気がついた。仕方なく見てみる。うげぇ、最悪。早速Facebookで中学校の同窓会のお知らせが来ていた。もちろん、今更会いたいなんて思う中高の友達なんていない……と思いかけて、一人だけ高校の同級生の顔が思い浮かんだ。と言っても、一度言葉を交わしただけの男の子だけれど……

「……石田くん?」

 たった一言、『成人式。潰れなくて残念だったな』と個人のメッセが入っていた。送信元の名前を二度見、三度見する。何度見ても、石田三成、なんていう名前は見まごうはずがない。2年前、『花火大会。潰れてラッキーだったな』と言ったのと全く同じ温度感で。表示されている名前とデフォルトのアイコンを凝視する。

「あはは、石田くんも、私も、相変わらず根暗……」

 暗い独り言を呟きながら、石田くんのホームを見に行く。チャット画面を、開いては消し、開いては消し、石田くんに何て返そうか、赤い顔して必死に考えている。

指先ですらあつい
(210508 石田三成/リクエストありがとうございました!)
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