※高校生


 例えば今、私が突然姿を消したとして、必死に探してくれる人はどのくらいいるだろうか。そんなことを考えたくなるような雨だ(根暗だなあ)。なにせ、今日は花火大会だったのに、中止になってしまったのだ。おまけに道路はぬかるむし、ざあざあという音はうるさいし、いいことなんて、一つもない。

「花火大会。楽しみにしてたのにな」

 教室から外を眺めつつ、ふとそんな独り言を言ってみる。


 ……嘘、だ。

 楽しみになんかしてなかった。
 本当は、花火大会なんて消えちまえって、思ってた。
 花火大会の日に図ったように大雨で、みんなが落胆している中、一人大喜びしているだなんて、どう考えても根暗すぎて、楽しみにしていたフリをしてみたくなったのだ。楽しみにしていた人たちがどういう気持ちなのか、わかると思ったのだ(これっぽっちもわからなかった)。花火なんて、楽しいと思ったことが一度もない。首が痛くなったり人混みだったりと悪いことばっかりじゃないか。


「花火大会。潰れてラッキーだったな」

 ふと隣から聞こえてきた石田君のはちゃめちゃに根暗な言葉に、私はハッと振り返った。

「ミョウジ、貴様も本当はそう思っているのだろう?」
「そ、そんなこと、ない、もん。」
「何を今さらかわいこぶってる。本当は根暗のくせに」
「うるさい」

 石田君とは、ほとんど話したことがなかったが、なんでこの人は私が本当は根暗なことを知っているのか。

「雨はいいことがない。道路もぬかるむし、音はうるさいしな。だが、花火大会が中止になるなら話は変わってくる」

 石田君と話すのはほぼ初めてなのに彼は何でこんなにペラペラと喋っているのか、ていうか今自習なのに、石田君って意外と勉強せずにお喋りするキャラだったの? どうでもいいことだったが、もうそろそろ自習の時間は終わりの時間に近づいていた。課題のプリントはもう終わってるからどうでもいいんだけど。石田君は相変わらずペラペラ喋っていて(「だいたい花火大会なんてな、」)、ていうかほんと、なんでこの人私のことこんなに知ってるの? っていうか!


「雨、あがっちゃったね……」
「そうだな」

 いつのまにか、雨はあがり青空が顔を見せていた。今の時間に晴れていれば、花火大会は予定通り行われるだろう。キーンコーンと、タイミング良く授業終了の鐘が鳴った。石田君は当たり前だが話すのをやめ、ガタガタと次の授業の準備をはじめた。私ももちろんそうする。それ以来、石田君と話すことはほとんどない。その後数ヶ月して、席替えがあり、席も離れた上に廊下側になった。でも、この雨の日のことを、私は何故か忘れない。雨が降って、でも上がって、花火大会が中止にならなかった、日、それだけの話なんだけど。ただ、私がたまたま、石田君とお喋りしたっていう、それだけの話なんだけど。


Goodbye, rainyday
(110611/200424タイトル変更)afterwriting
→後日談的SS 指先ですらあつい