「ね、シリウス。わたし、未来予知能力があるの」
「へえ」

 ナマエは、たまにこういうアホみたいなことを言って俺の気を向かせようとする。だから俺は、努めて興味のないフリをして、羽ペンを手放すことなく、課題の方が大切なんだ、中断するつもりはないんだ、というポーズをとる。(まあたいていは伝わらないのだが。)

「まず1つ目。わたし、今度の期末でシリウスよりいい成績をとる」
「未来って……そんな喫緊の話かよ」
「まあまて若者よ。まだまだあるんだから」

 わざと余裕たっぷりに話すナマエに、苛立ちそうになる自分を慌てて抑える。ここで俺がムキになってどうするのだ。オーケー、相手は子どもだ(と、思うことにする)。俺はまだ羽ペンを置かない姿勢を崩さず、あくまでも、ナマエの話を聞いてやる態度を変えずに頷いた。

「そんで次に、学校を卒業したあと、ジェームズとリリーは結婚する」
「……そんなこと誰でもわかる」
「幸せな家庭……ああッ! 見える! リリーが手料理を作って、ジェームズと子どもたちが頬張る。子どもは二人ね。お兄ちゃんと妹」

 勝手にしてくれ。未来予知なんかではなく、ただの妄想だ。別に未来予知を期待していたわけではないが、もう少しマシなことを言ってもいいものだ。

「それにね。シリウスとリーマスとピーターとわたしは、いつまでも仲良しで。今みたいな感じで。シリウスがリーマスのお菓子を勝手に食べて怒られたり、」
「おい」
「とにかく、平和なんだよ。私には見えるのさ。へへへッ」

 誇らしげに笑うナマエだが、そんなものは未来予知でもなんでもない、妄想だ。未来への過信だ。これが本当に未来予知なら、俺だって大歓迎だが。(そんなにうまくいくはずがないと、卑屈な俺の心が譲らないのだ)

「未来でも、私たちは一緒にいるね。きっとそう。おじいちゃんとおばあちゃんになったら、ニシンのパイを焼きながら、学生時代はよかったね、なんつって」
「俺、ニシン苦手だけど」
「いいの! おじいちゃんになっても好き嫌い言うつもり?」
「あーはいはい」

 適当に頷くと、ナマエはたいそう満足そうな顔をした。俺は密かに安堵する。大丈夫、俺はナマエの未来の中にいるみたいだ。おじいちゃんとおばあちゃんになっても一緒にいるのを想像する。悪くない。

「そんな未来がくるといいなあ」
「やっぱ結局は予知じゃなくて妄想じゃねえか」
「違うもん! 予知だもんね」
「はいはい」

 これからいくつもある未来の中に、今ナマエが言った未来も含まれるだろう。俺たちは、選択すればいい。きっと叶う。それはきっと現実になる。

それがきっと未来になる。
(110521)afterwriting