エドガワディビジョンの潮騒(6)

「ああ、いたいた。彼らですね」

 駐⾞場に戻ってすぐ、その集団は⽬に⼊った。集団と⾔っても、たった5⼈だけの⼩集団だ。不良然とした雰囲気ではなく、むしろ育ちの良い好⻘年たちのようにも⾒えた。平⽇の真っ昼間でなければ、彼らが学校をサボっているだなんて思いもしなかったに違いない。

「あのう。ちょっといいですか」
「……誰。俺ら別に悪いことしてないッスよ」
「いえ。ちょっと伺いたいことがあるだけです」
「なんスか」

 少年達に近づいてみてみると、あどけなさを残した顔⽴ちの中にも⼤⼈びた雰囲気もあり、中学⽣ではなく⾼校⽣だろうと想像がついた。縁⽯のあたりに座り込み、おのおのがスマホをいじったり、ゲームをしたり、菓⼦パンを⾷べたりしている。

「きみたち、いつもここにいるの?」
「まぁたまに?」
「⼀昨⽇はいましたか?」
「あー、今いる全員じゃねーけど。俺は⼀⽇ここにいたよ。あと何⼈か」
「ちょっと⼈捜しをしてるんだけど。⼥の⼈を⾒なかった?」

 そうして、幻太郎さんが遠藤さんの特徴をいくつか伝えた。と⾔っても、遠藤さんは普通の社会⼈だ。特別な特徴があるわけでもなく、⾚みの茶髪でウェーブの掛かったロングヘア、背は160cmくらい、細⾝、服装はリゾートっぽい感じ、と抽象的なものを並べるにとどまった。案の定、少年達は⾸をひねり、「んー、⾒たような⾒てないような」と⾔うだけだった。期待外れですらなかった。私たちは適当にお礼を⾔い、その場を去る。

「他にも聞いてみましょう。近隣のコンビニとか……」

 公園の敷地を出て、数歩踏み出した所だった。

「——あ、あのっ!」
「あれ、きみは……」

 声をかけてきたのは、先ほどの少年達のうちの⼀⼈だった。先ほどはあまり発⾔していなかった、少し影の薄い感じの⼦だ。さらさらの⿊髪と、泣きぼくろが可愛い。⾛って追いかけてきたのか、息が切れている。「すいません、俺やっぱり、⾒かけた気がして」

「えっ、本当?」
「あいつらずっとゲームしてて周りなんて⾒てないから。俺もいつも周りなんて⾒てないけど……⼀昨⽇たまたま⾒回した時に、それっぽい⼈を⾒かけた気がするんだ」
「それはそれは。果たして有⼒情報かもしれませんね」

 それから少年は、その⼥性は背中にリボンの付いたオレンジ⾊のワンピースを着ていたこと、時間はお昼前くらいだったことを教えてくれた。そして最後に、「……あと、俺の⾒間違いかも知れないんだけど」と前置きした上で、「何か、怪しげなオッサンと⼀緒に歩いてたように⾒えた」と⾔う。

「怪しげなオッサン、ですか」
「うん。なんか、妙に⾦持ちっぽいっていうか。いかにも筋物って感じの」
「その、怪しげなオッサンの特徴、他に何か覚えてる?」
「う、うん……」

 少年によると、そのオッサンはストライプのスーツを着てハットを被っており、マフラーのようなものを⾸から垂らし、遠藤さんらしき⼈を連れて7777ナンバーのメルセデスSクラスに乗り込んだらしい。……さすがにコテコテすぎない? と思わなくもない。でも、今はこの情報しかないのでとりあえず信じる他なかった。
 お礼を⾔うと、泣きぼくろの少年は人懐っこい笑顔でにこっと笑った。笑うと⽬尻がくしゃっとなって、泣きぼくろが隠れるくらいだった。(……あれ? この顔、どっかで⾒たような……?)

「とりあえず、新情報ですね。そして、遠藤さんが⼀昨⽇ここにきていたことがほとんど確定した」
「うーん、まだその情報の⼥性が遠藤さんとは限らないんじゃ?」
「夏にもならないこの時期にそんな派⼿なワンピースを着る⼥性はあまり多くないんじゃないですか。それに、ちょうどそういうワンピースを来ている所を⼩⽣も⾒かけたことがあります」
「なるほど……」

 というわけで、私たちの当座の次の⽬標は、そのコテコテの怪しいオッサンということになった。これは、⼈に頼ることにした。幻太郎さんの知り合いの知り合いの探偵さんに依頼するか、幻太郎さんの知り合いの知り合いのマジモンのヤクザさんに聞いてみるか、幻太郎さんの知り合いの知り合いの警察に聞いてみるか、と驚きの⼈脈の数々が出てきたが、最終的には値段や関係性の兼ね合いで、これまた幻太郎さんの知り合いの知り合いの⼭⽥さんという何でも屋さんに調べてもらうことに落ち着いた。もともとは、乱数くんの友達らしいが、今乱数くんは絶賛修羅場中のはずなので、幻太郎さんが直接依頼の連絡を⼊れる。

「まあ、とても特徴的なヤクザなので、すぐ⾒つかるだろうとのことでした。乱数が⾔うには優秀な何でも屋さんだそうですので、我々は果報を寝て待ちましょう」

 ということで、とりあえず⼆⼈で喫茶店で時間を潰すことにした。⼀⽇で⼆度⽬の、⼆⼈での喫茶店だ。私は不思議な落ち着きを感じていた。

(260815)