聖夜の温もり 02
杏寿郎と付き合い始めたのは半年程前のことだった。
仕事を下ろしてくる営業部の杏寿郎とは面識はあったし、社内でも目立つ存在の彼の事は元々知っていた。
杏寿郎の人となりを仕事を通して知り、杏寿郎に惹かれていたわたしは、慰労会として開かれた飲み会で酔いに任せてその想いを伝えた。というより、つい声に出てしまったのだ。
感情を言葉にすることが得意でないわたしにとって、アルコールの勢いに身を任せた言葉だったし、社内でも人気がある彼が、わたしの告白を受け入れてくれるとは思ってもいなかった。
だから杏寿郎から返ってきた言葉に、驚いて暫く放心状態だったことを今でも覚えている。
「そんなに顔を緩ませてどうした?」
「仕事、無事に終わらせればクリスマスだなぁと思って! ほら、お店の飾り付けもキラキラしてるし! 杏寿郎さんと一緒に過ごせる初めてのクリスマスだから」
「うむ、そうだな」
「一緒に、過ごしてくれますか?」
「当然だろう。去年までは家族と過ごしていたが、今年からはハルがいるからな。俺も楽しみにしている」
目を細めて笑い、大きな手で頭を撫でてくれる。
その温もりも何もかも、わたしの心を締めつけて熱くさせてくれる。
彼と言葉を交わす度、視線を合わせる度、好きだという想いが強くなっていく。
御手洗を済ませて出ると、すでに会計を終えていた杏寿郎が店の外にいた。急いで向かった先、杏寿郎の前には何処ぞの女子が二人、彼に話し掛けていて思わず柱に隠れてしまう。
隠れる必要なんてない。
だけど、一瞬見ただけでも分かる手入れされた髪や綺麗な服装を身に纏う彼女達の前に、出ていくことに気が引けてしまったのだ。
残業続きで手入れを怠っているネイルに、簡単にしか纏めていない髪。服装なんて接客がないからと華やかさの欠けらも無い。
風に乗って、会話が耳に届いてきた。
「煉獄さん、今度一緒に食事でもどうですかぁ? 営業部の宇髄さんも一緒に!」
「断る! すまないが俺は君たちのことを知らないし、食事に行く仲でもないだろう」
「あの、この子が煉獄さんの事好きで、」
「悪いが、俺には愛する人がいる。何事にも懸命で素敵な人だ。俺は彼女以外は興味がない!」
端から聞いていたら、杏寿郎はヒドイ男だと思う人がいるかもしれない。
だけど、わたしにとっては泣きそうになる程の言葉だった。
彼と付き合い始めてから、たくさんの言葉をもらってきたし、わたしも自分なりに伝えるように努力をしてきた。
だけど日々溢れていく気持ちのすべてを伝えることは出来ていなくて、それがもどかしいとも思う。
こんな風に別の人からのアプローチがあったらどうしようと、不安のない愛を与えてもらいながらも、自分の弱さからくる不安を拭いきれずにいるのも事実だった。
好きって言葉じゃ、足りない。
どうしたらわたしのすべてを見てもらえるんだろうか。
「……ハル? どうしたこんな所に立って」
柱にしがみつく様にして立っていたわたしの元へやって来た彼。穏やかな表情はいつもと何も変わらないのに、自分だけがドキドキして恥ずかしい。
それでもキラキラと眩しい彼を見上げ、「ありがとうございます」と言葉を繋げた。
「ん? 何のお礼だ?」
「すみません、さっきの聞こえてて……というか、隠れてしまいまして」
「よもや、何故隠れる必要があったのだ」
「なんか……比べてしまって、」
自分でも馬鹿だなと思う。
杏寿郎はそんな事気にしてないし、ちゃんとわたしを好きでいてくれてるって分かってるのに、勝手に不安になって馬鹿みたい。
フッと笑う声が聞こえ、両頬が温もりに包まれた。
そのままグッと顔を上にあげられると、わたしを見つめ笑っている杏寿郎と目が合う。
「もう一度言うぞ。俺は見た目で君に惹かれたのではない。仕事への姿勢や懸命な姿、強気な所も実は弱い部分も、その自信なさげな君の弱い所も全部、俺の好きなところだ。だからもっと自信を持って良いのだぞ」
「…はい、でも……外で恥ずかしいです」
「ハハ! そうやって恥じらう所も好きだな」
「杏寿郎さん……」
笑いながら少し身体をずらして柱に隠れるように立つと、「恥じらいついでだ」と顔を近づけ、小さく唇を寄せた。
杏寿郎の言葉ひとつひとつが、わたしを照らして導いてくれるのだ。