その腕で抱きしめて 01
キメツカンパニーの企画部は、顧客規模の違いによって第一、第二と分かれている。
天元は大企業向けの第一企画部に所属しており、地元中小向けの第二企画部は、少人数体制で様々な案件を掛け持ちしていた。
第二企画部のフロア。
定時過ぎに戻った藍沢ハルがその日の書類を纏めていると、誰かがバンと大きな音をたててフロアに入ってきた。
何事かと様子を伺っていると、舌打ちをしながら自分のデスクへと荷物を置く。
不機嫌丸出しの彼は、第二企画部のエースで、ハルの先輩でもある不死川実弥だった。
「実弥先輩、何かありましたか?」
「あのクソタヌキがまた企画練り直せとか言ってきやがったぞォ! しかも打ち合わせは飲みの席にしろだとよォ! ふざけんじゃねェ」
「クソタヌキ……あぁ、あの会社の。ワンマンな社長ですからね」
「悪いが藍沢、10日後の予定確認してくれ」
疲れた様子でネクタイを緩める姿を、チラリと見つつ、共有スケジュールを確認する。
10日後を指で数えていくと、その日はちょうどクリスマスイブだった。
なんでまたそんな日に接待なんて、と思いながらもその日の予定を見ると、他の人も接待が入っていたり別の仕事が入っていた。
接待は最低でも二人以上は同社から出なければならないという決まりがある。
これはきっと、そういう運命なんだろう。
ハルはそのまま実弥にスケジュールを伝えた。
「空いてるのわたしだけなので、実弥先輩の接待に同行しますね!」
「あぁ、助かる。で、いつだァ?」
「24日、クリスマスイブです」
その言葉に、実弥の手が止まりピクリと眉が動いた。
もしかしたら予定があったのだろうか。
そういう相手がいるのだろうか。
不安な気持ちを抑えきれずに、「実弥先輩……予定あったんですか?」と聞くと、その視線が飛んできた。
「いや、ねェんだが……藍沢、お前の他で出れる奴はいねェのか?」
「え……わたしじゃ、ダメって事ですか?」
「ダメっつーより、お前こそ予定ねェのかよ。その日」
「え?」
「いいのかよ、アイツと……付き合ってんじゃねェのか、錆兎と」
なんの冗談かと思ったハルだったが、少し顔を赤くし照れ隠しなのか指で頬を掻きながらそう聞いてくる実弥を見て、なんとも言えない気持ちになった。
自分のことを気にしてくれているのかという期待と、同期の錆兎との仲を勘違いされていたのかという悲しさ。
実弥の元についてから、ずっと想いを寄せていた。
その想いを伝えた事はなかったけど、隠してるわけでもなかった。だから他の人に比べて自分は実弥に気に入られてるという自覚があった。
ずっと想いを寄せていたいのは実弥だけだというのに。
「やだなぁ実弥先輩! 錆兎はただの同期です。それに、仕事ですから予定があってもなくても同行しますよ。どこへでもついて行きます、実弥先輩に!」
「どこへでもは……言い過ぎだろォ」
そう言った実弥は、心無しか安心した表情をして見えたが、「頼んだァ」と頭にポンと手を置かれた所為で、彼の表情を見る余裕がなくなってしまった。