初めての恋 01

 刀鍛冶の里での上弦との戦い。
 そこで負傷した時透無一郎は、蝶屋敷に運ばれてから丸二日程、昏睡している状態だった。
 その傍らには、摘んできた花を一輪挿しに生け、瞼を閉じている無一郎を見つめる人物がいた。


「時透くん……待ってるよ」


 今にも消え入りそうなその声に、一瞬だけ無一郎の瞼がピクリと動いた。
 だけど、彼女はそれには気づかず、無一郎の手を軽く握ると、静かに病室を後にした。
 甘い香りだけを残して。







 膝丈のスカートを靡かせ、それには似つかわしくない刀を腰に下げて歩いてる彼女は、鬼殺隊の隊士である。
 恐らくその格好をしていなければ、刃振って鬼と戦っているなど誰も思わない、それ程に大人しく可憐な少女であった。
 手に持っている一輪の花。
 それを大事そうに胸に抱いて蝶屋敷を訪ねると、庭で恋柱である蜜璃と鍛練をしている無一郎の姿を見つけ、思わず木の陰に身を隠した。
 意識、戻ったんだ。
 無一郎が生きている。動いている。
 それだけで彼女は嬉しく、その姿をもう一度見ると、彼に背中を向けた。
 無一郎とは、合同任務が重なりよく顔を合わせていた。
 だけど彼は記憶を留めておく事ができず、会う度に「誰?」と言われていた。
 それでも、話しかければ答えてくれ、邪険にされる事はなかった。


 無一郎はあっという間に柱という最高地位まで上り詰めてしまい、今では会う事すらなかったのだが、無一郎の危機を聞きつけ、見舞わずにはいられなかったのだ。
 ただ、それだけのこと。
 声を掛けたところで邪魔になるだけ。
 そう思い帰ろうとしたのだが、不意に肩に触れた手に足を止めた。


「居るなら声かけなよ、ハル」


 その声に、目頭が熱くなった。
 恐る恐る振り返ると、まだ痛々しい傷の手当が残る顔ではあったが、無一郎が真っ直ぐハルを見ていたのだ。
 視線が交わる事などあっただろうか。
 名前を呼ばれた事はあっただろうか。
 どうして、覚えているの。
 聞きたいことが一気に溢れてい喉につかえてしまう。


「なん、で……」
「記憶が戻ったんだ。だから君が誰かも思い出した……それに、病室に届けてくれてたの、ハルでしょ? その花」
「あの……えっと、」
「何? なんで挙動不審なの? ハル」
「おお、……お大事にっ!」


 ハルの名前を呼ぶ無一郎を振り切って、逃げるように走り出した。
 その必要はなかったのだが、ハルはとても混乱していたのだ。
 今までと違う無一郎の反応に。
 何度も名前を呼ばれ、記憶が戻ったという無一郎に取り乱してしまった。
 熱くなった頬を押さえた。
 高鳴る鼓動が鳴り止む気配はなく、密かに抱いていた無一郎への感情が溢れてしまったみたいだった。
 彼が触れた肩が、まだジンワリと熱を持っていた。


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