大人の階段 02

「実弥おにーちゃん! ハルと結婚して!」
「ハル…結婚っつーのは、好きな人とするもんだァ。分かってんのかァ?」
「ハルね、実弥おにーちゃん好きだよっ!」
「…そうかァ。じゃあハルが結婚できる歳になったら、考えてやるかァ」
「やったぁ! 約束ね!」





 淡い記憶を思い出しながら、今朝の重たい気持ちを引きずって歩いていると、背後から聞きなれた足音と私を呼ぶ声が聞こえてきた。
 思わず、溜め息が漏れる。足を止めることなく歩いていると、「ハルちゃああん」と如何にも泣きそうな声を上げて私の腕に絡みついた。


「なんで置いてくんだよぉ! 酷いよハルちゃん」
「善逸…そもそも一緒に行く約束してないし」
「え?! そうなの? 俺たち恋人同士なのに」
「なんでそうなる! ただの幼馴染でしょ! もう、離れてよー! 暑いんだってばぁ」


 私の名前をか細く呼ぶと、スっと手を離す善逸。いつもならそれでも執拗に引っ付いてくるのに。
 どうしたんだろ、と気になったけど…私自身も今日は気持ちが沈んでいた所為でそんな善逸を気に止める余裕はなかった。
 善逸は、道を挟んだ向に住む幼馴染だ。周りには割りと同級生が多くて、親同士が仲良かったりして善逸は昔から私の後をちょこまか動いていた気がする。
 それに対して私はというと、隣に住む幼馴染の玄弥のお兄ちゃんでもある彼に、ずっとずっとまとわりついていた。
 子供心に、好意を寄せていた。憧れかと思ったけど、その気持ちは変わることなく、むしろ昔よりも増して今も私の胸を打ってくる。
 これは、もう自分でどうこうできる話ではない。
 五歳も離れているからか、いつだって、今だって子供扱いをする実弥お兄ちゃんに相手にされてないことぐらい、分かってる。
 それでも、この気持ちを止められないんだから。


「ハルちゃん、今日なんか悲しんでるね。もしかして…元気ないのって、実弥のせい、」
「てめぇ、俺の兄貴を呼び捨ててんじゃねぇぞ!殺すぞッ!」
「ヒイイ! 玄弥っ、いつの間に! てか、ますます兄貴に似てきてじゃん! こえぇよマジで!」
「チッ」
「もう、玄弥も殴らないの! 善逸も怖いなら挑発すること言わないのー! あ、玄弥! 実弥お兄ちゃんって今日は大学?」
「…言わねぇ」
「ふぅん、大学休みなのね」
「おい、言ってねぇだろ!…さっきも殴られたんだから、いい加減にしてくれよハル」
「プププ、もっと殴られろー」
「てめぇ善逸!」


 二人のやり取りを無視して、落ちていた気持ちを奮い立たせようと深呼吸した。
 ダメで元々なのは承知してる。もっと実弥お兄ちゃんの目に映るように、心に入れるように…するには、どうしたらいいんだろうか。
 ずっと悩んでることを、もうすぐ誕生日だからと、一つ大人になるからといって解決する問題ではなかった。
 結局、その日はろくに授業も聞かずに、そんな事ばかり考えていて、お昼休みの時に善逸が持ってきてくれたたんぽぽの花も、教室に忘れてきてしまった。まぁ別にいっか。

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