
大人の階段 03
日中は暑くても、夜になるどひんやりする。
お風呂上がり、自分の部屋の窓を少し開けて星空を眺める。ただ住宅街から綺麗な星空なんて見えなくて、私の溜め息が儚く消えていくだけ。
窓の向かいは、明かりが消えていた。微妙にカーテンの隙間から見えるその部屋は、実弥お兄ちゃんの部屋である。
恐らく、夜勤のバイトなんだろう。
会いたいな、実弥お兄ちゃん。もっとちゃんと、私の話を聞いてくれないかな。
――少しなら、いいよね。
自分の部屋の窓を全開にすると、私はそこに足を掛けた。昔はよく、こうして実弥お兄ちゃんの部屋にベランダ伝いに忍び込んでイタズラしていた。でもそれも、実弥お兄ちゃんが中学生になってから、こっぴどく怒られるようになって自然とやめるようになった。
この久しぶりの胸の高鳴りを抑えようとしたけど、そっと忍び込んだ部屋に踏み入れた瞬間、抑えるどころかドキドキが増していく。やっぱり鍵は掛かっていなかった。
――お兄ちゃんの、部屋。
そこはあまり昔とは変わっていなかった。勉強机に本棚、シングルベッド。シーツとカーテンが、柄物からシンプルな色合いに変わったくらいであとは昔と変わらない。
でもどこか、大人の匂いがして…淋しくなる。
私が歳を重ねても、その分実弥お兄ちゃんも歳を重ねて、当たり前だけどその差はいつまでも埋まらない。
実弥お兄ちゃんのベッドにゆっくり座る。ギシッと音を立てながら、そっと体を横に倒した。途端に鼻を掠める柔軟剤でもない匂いに、心がギュッと掴まれた感覚になる。
どうしたら、本気にしてくれるだろうか。
どうしたら、私を見てくれるだろうか。
どうしたら―――
「実弥…お兄ちゃん……」
まるで、実弥お兄ちゃんに抱きしめられてるんじゃないかって錯覚した。匂いだけじゃなくて、なんとなく温かかったから。
ハル。
そう呼ばれたような気がしたけど、瞼が重たくて私は動けなかった。
次の日、私はいつも通り自分の部屋で目覚まし時計によって起こされた。だから、実弥お兄ちゃんの部屋に行ったのは、単なる妄想からの夢だったのだろう。
それでも嬉しくて、朝からドキドキしていた。