運命のひと 02

 生まれた時からよく鼻が利くと思っていた。
 でも記憶が蘇ってからは、それが前世でも同じだった事には驚いた。
 夢で見る炭治郎は、匂いから感情を読み取っていたけど、ハルの心はあまり分かっていないようだった。
 向かい合い目の前に座って日誌を書き進めるハルを見つめ、そんな事を考えていると、ふと視線を上げたハルと目があった。
 カァと顔に熱が集中し、「ハルは字が上手いなぁ」なんて取って繕った言葉を言った炭治郎だったが、ハルは恥ずかしそうに、「ありがとう」と微笑んだ。


「黒板に予定書いてるのってハルだろう? 上手いなって思ってたんだ。それに、いつも花の水やりもしてて凄いなって……花、好きなのか?」
「うん…だから水やりは好きなの」
「そうかそうか! 確か好きなのって、桔梗だったか?」
「え?……私、そんな話、したかな」
「あ! えっと……そうかなって思ったんだ。当たってた?」
「うん」
「……」
「竈門くんは優しいね。私、クラスの人と話すの苦手で、頑張って目を上げて話す時でも目は合わないの。私が遅いからなんだけど。それでもいつも、竈門くんはどんな時でも視線が合う。真っ直ぐ見てくれる。だからいつも、優しいなって、思ってた」


 いつも返事だけがほとんどだったハルが、自分の想いを言葉で紡ぐ。
 ハルから緊張の匂いがして、その言葉も頑張って届けてくれたのだと思うと、炭治郎は心の底から嬉しく思った。
 前世の記憶があったから、彼女を気にしていたのもある。でもそれだけじゃなく、いま目の前にいるハルを見て、胸が高鳴っているのだと確信した。
 彼女の事をもっと知りたいと思う。前世で成しえなかったことを、今世で一緒にしたいと思う。


「優しいのとは違うかもしれない」
「え?」
「気になるんだ、ハルの事が。だからつい見ちゃって……好き、なんだ」


 最後の言葉を口にした時、ハルの匂いも全く分からないほどに緊張していた。
 やっと言えた「好き」という言葉。
 それを伝えた瞬間、何故だか涙が溢れそうになった。前世の炭治郎の感情なのかもしれない。
 やっと伝えられた、そんな声が聞こえた気がした。

novel top / top