過去の共有 弐
義勇は、出会った時のハルの様子を思い出していた。
未来から来たと言うことだけでなく、そのような過去があったのかと……それを今まで一人で抱えていたのかと思うと、なんと言えばいいか分からなかった。
この時代、義勇も含め周りの殆ど皆が、過去の傷に縛られてもがきながら生きている。ハルの生きていた時代がどのようなものだったにせよ、信頼できる親も友も居ないというのは辛いことだと彼は思った。
「死んでなどいない。ハルは今此処に生きているだろう」
「そうだったね……」
そう言いながら切なく笑うハルを、義勇は思わず抱き締めた。意図なんてなく、ただ……そんな風に笑ってなど欲しくないと思ったのだ。
「居場所がなかったのなら、作れば良い。此処には縛られる過去も何も無いのだろう。生きづらいかもしれないが、その分自由に生きていける。行く宛てが見つからなかったら、此処に居ればいい」
「義勇、さん……」
ハルの呼びかけに、彼女を抱き締める手に力が入った。少し呼吸を整えた義勇が、静かにその問いを言葉にした。
「……ハルがいた世には、鬼はいないのか?」
突然の問いかけに、ハルの肩に少し力が入った。
どう説明すればいいのかハルにも分からなかったので、その事には触れずにいたのだけど、ずっと黙っているのには彼女にとっても荷が重かったのだ。
「いない……鬼なんていないよっ…」
義勇は分かってくれていた。その上で自分の身を置いてくれていたのかと思ったら、涙が溢れてきた。なんて優しい人なんだろうと。少し体を離した義勇は、「そうか」と少し目を細めた。いつも無表情な彼が見せた小さな変化だった。
それから、義勇はハルの隣に座り、自分の身の上を少しだけ彼女に話した。
両親が死んで、姉が自分を守り鬼に殺されたこと。鬼を信じない親戚に病院へ連れていかれそうになったこと。そこから逃げて、鬼殺の師に出会い、友に出会い、友を失い、鬼殺隊になったこと。鬼が憎いということ…―――。
鬼の存在はまだハルにとっても信じられないものだったが、義勇がそんな思いで任務に行っていた事を初めて知った彼女の目には、また涙が溢れていた。
自分ではない、目の前にいる彼の痛みを知って、自然と胸が熱くなったのだ。義勇が淡々と話をするから余計に。
不幸を人と比べても意味がないのは分かっている。だけど、ハルは義勇の悲惨な過去に同情し胸を痛め、だからこそ彼は感情を見せないのかもしれないと思った。
過去の自分と重ね合わせ……彼の手をそっと握った。何も言葉にできなかったが、人の手の温もりから思いが伝わればいいと思った。義勇は、重なる彼女の手を見つめ、安堵したように目を伏せて小さく息を吐いた。
「……だから、ハルがいた時代に鬼がいないと聞いて安心した。この戦いに終わりがあると信じられる」
「わたしが未来から来たって、信じてくれるの?」
「信じるもなにも、ハルの持ち物や言動を見ていれば自ずと分かる。見たことがない物ばかりだからな」
「それも、そっか…」
「強くなれ、ハル。手助けは出来ても、此処で生きていくのはハル自身だ。もしかしたら元の世に帰る術があるかもしれないが、それまでは……此処で生きろ」
果たして未来に帰りたいのか。それは分からなかったが、ハルは義勇の言葉に首を縦に傾けた。
いつの間にか夜が明けて、朝日が差し込んでいた。