蝶屋敷 参
ハルは数日に一度、義勇の家へと帰っていた。自分の荷物を蝶屋敷へは持っていけないからと言うのもあったが、義勇の様子が気になっていたのだ。
彼が蝶屋敷へ顔を出すことはなかった。しのぶから、彼が任務から帰る事やまた別の任務へ行くということを聞いていたくらいだった。
当たり前に携帯などないこの時代は、簡単に連絡など取れない。鬼殺隊の人間は、鴉で連絡のやり取りをしていると教えてもらったが、義勇の鴉はおじいちゃん鴉だからよく伝達を間違えるとしのぶが教えてくれた。
ハルがこうして帰っている事を義勇は知らないだろう。今まで鉢会う事がなかったのだ。しのぶに手紙を書いては、と提案されたが何を書けばいいのか分からずに断った。それに口下手な義勇が手紙の返事をくれるとも思わなかった。
正直、義勇の家に帰っても一人だとする事は何も無く、ハルは久しぶりに町を訪れた。何も変わらないこの風景も、陰ながら鬼から義勇達がその平和を守っているのだろうと思いながら、ハルは町を散策していた。
もし蝶屋敷を出て一人で生きていくとなれば、バイトのようにしてどこかのお店で働くのだろうか。住み込みになるんだろうかと、考えながら歩いていると、ふと見覚えのある場所で足を止めた。
そこは、いつぞやの甘味処だった。おはぎの味というより、それを頬張る人が最初に頭に浮かんだ。銀髪で顔に幾つもの傷を持つ彼を。
◇
柱になると、それぞれの担当地区に屋敷が与えられ、そこを拠点に任務へ向かう事になっていた。
実家のある者は仮住まいのようなものになるが、家のない者は柱邸を住家としており、任務で不在の間は、隠と呼ばれる鬼殺隊の部隊が出入りし、最低限の管理を行っている。
山間にある風柱邸。
直に風柱である不死川実弥が帰還するという知らせを受けて、隠が食料調達しに向かっていた。
隠の中でも、風柱邸や蛇柱邸は任務に当たりたくないと有名で、ヘマをしまらキレられたりネチネチ嫌味を言われるからとほぼ全員が任務を押し付けあっていた。
今回不運にも風柱邸に向かう隠が、米俵を抱えて山道を歩いていた。しかも二回連続の風柱。どうか、鉢合わせしないようにと願うばかりだった。
門をくぐった所で屋敷の入口に立つ人影を見た彼は、歩いていた足を止めた。着物姿の女性が、「実弥さーん!」と何ともラフな呼びかけで風柱を呼んでいるではないか。
有り得ない有り得ない!と思わず米俵を落としてしまいそうになった。まさかあの風柱を訪ねる女性がいるのも有り得ないし、気安く名を呼ぶのも信じられない。
だか、これは思いもよらない風柱の一面が見れたりするのかもしれないと……彼は意を決して入口に近づくと、それに気づいた彼女が走って近づいてきた。
「あの! 実弥さんは、出掛けてますか?」
「えっと……あなた様は、その…風柱様とどのような…」
「風柱……?」
「オィィィ! そこで何してんだァ?! テメェら」
背後から聞こえた声に隠は数メートル飛び上がるくらいに驚いた。でもその後に続いた言葉に、別の意味で飛び跳ねそうになった。
「あぁ?!……ハルか?」
「実弥さん! ちょうど良かった!」
彼女を気安く呼び、怒りの表情が和らいだ風柱に目を丸くしてると、「さっさと運べえェ! 殺すぞォ」とすぐさま理不尽な言葉を投げかけられて慌てて倉庫へ米俵を運んだ。
「何しに来たァ」
「おはぎ一緒に食べようと思って!」
「何で俺がそんな事しなきゃいけねぇんだァ?! 一人で食えばいいだろォが!」
「だって、一人は寂しいから……いいでしょ? 実弥さんと食べたいと思って買ってきたんだから!」
「チッ……着替えてくる。茶ぐらい入れろォ」
「わーい! 任せて! もう失敗しないから」
二人で玄関へと入っていく姿を、隠は白目を向きながら見ていた。後日、隠の間でこの話が広まったのは言うまでも無い。