新月の夜 壱
昼も夜も人気がなく静かなこの場所は、千年竹林と呼ばれている。
誰も居ないはずなのに、竹を切るような音が時折聞こえたり、地を割るような低音が響くことから、その場所は人に恐れられ近づく者はいなかった。
実の所、一軒の小さな家があり、そこに人が住んでいるなんて誰も思わない。
この家主の男にとってはそれが好都合だったのだ。
ただその噂については敢えて否定をしていないと言うより、この男の耳に入っていないだけだった。
この男はあまり周りを気にせず、人の意見も聞かず、常に表情を崩さない……周りからは何を考えているのか分からないと言われるような男だった。
彼の名は、冨岡義勇。
政府非公認の鬼殺隊に所属する鬼狩りで、その上位に君臨する柱だった。
ある日の夜。いつ任務が下りてもいいように家の中で待機をしていた義勇は、家の外から聞こえた物音に咄嗟に日輪刀を手に取った。
自分以外の者がこの辺りに来ることはまずない。
来訪がない事もないが、あったとしても同じ鬼殺隊の隊員で、事前に鴉がそれを知らせてくれる。
だが、鴉は何も言わない。
鬼の気配もなく、不思議に思った義勇は、刀を腰に差してから音静かに戸口へ行き、思い切り戸を開いた。
いつもと変わらない景色に、首を傾げる。
物音の出所を探ろうと一歩外へ出た瞬間、頭上からガタガタと連続した物音がして何かが落ちてきた。
普段、戦闘の場に身を置いている義勇にとって、その"何か"が物なのか鬼なのか、はたまた人なのかを一瞬で認知することは造作もない事だった。
だからこそ避けること無く手を伸ばし、地面に落ちる前に抱き留めた。
義勇の手中には、奇妙な格好をした女がいた。
子供ではないが大人とも言えない、自分よりも年下であろう女が、何故屋根から落ちてきたのか義勇は瞬時に理解出来なかった。服装も、見た事ながないから奇妙としか言えない。
鬼殺隊の女隊士が着ている物に似てなくもないが、やはり少し違う。背負っている荷物も妙な違和感を感じた。
どうしたものか。
その女を抱えたまま突っ立っていた義勇だが、夜に女を外に放置する訳にもいかず、一旦自分の家へと運んだ。