稀有な血 壱
稀血。
通常の血液よりも型が稀な血の事を稀血と言う。
それは鬼にとって稀有な存在とされ、その血を持つ人間を喰うことで強くなると、鬼達は稀血を探し己の体内に取り込んだ。だから、稀血を持つ一般の人間に、鬼殺隊は藤の花の香り袋を持たせ、少しでもその被害を抑えようとしてきたのだ。
実弥もまた稀血。
それは鬼を退治している最中に、自分の血によって鬼が酩酊する様子を見て知った事実だった。強い鬼ほど稀血による影響は大きいと聞く。だがそれは、稀血の中でも珍しく、鬼に影響を与える程の力がすべての稀血に備わっているわけではないのだ。
「鬼が稀血と言ったという話を聞いて、ハルさんの血液を調べました。彼女の血がどう影響するのか、それは憶測でしかありませんが…恐らくハルさんの稀血は、鬼の力を弱め、殺傷することもできると思われます」
「ハァ? そんな事、あり得ねェ」
「私も同感です。信じがたい事実です。でも冨岡さんの話によると、鬼は頸を斬られることなく絶命したと言うこと。これは紛れも無い事実なのです」
「あん時、ハルを見つけることができたのは、ハルの血を舐めた鬼の血鬼術の力が弱まったって事かァ?」
「恐らく。美味しいと言って自ら舐めていたと」
それがどれ程凄い事なのか、ハルには全てを理解することは出来なかったが、自分の血のお陰で実弥が自分を見つけることができ、鬼に切られた事によって鬼を倒す事ができたのだ。未来から来たことが関係してるのかもしれないと、しのぶが続ける。
「この血は治癒の力も持っている可能性があります。これも憶測ですが、ハルさんの傷は相当深かったと思います。でも処置をする時にはそうではなかった……つまり、傷の回復が速まったということです」
「そんな、凄い血なの? わたし」
「ええ。でもこれは他言無用です。お館様…私達の当主と限られた者にだけ情報を共有します」
「どうして?」
「まだ詳しく調べますが、もしそんな万能なものだと知られれば、皆がハルさんの血を頼りにします。でも血には限りがある。ハルさんが死んでしまいますよ」
「そっか…」
「それに、鬼がハルさんを狙うかもしれません。その可能性が高いと、私は考えてます」
しのぶの話を黙って聞いていた実弥の視線がハルを捉える。不安が顔に出ていたのだろう。実弥が繋いだ手を強く握り、「心配すんなァ」と力の籠もった目を向け答えた。
「何があってもお前を護る。俺が側にいる。二度と鬼と合うような事もさせねェ! 指一本も触れさせねェ!」
「実弥さん…」
「私達も全力で護りますよ。あなたは私にとっても大切な仲間ですから」
ハルは、胸が熱くなり泣きそうになった。誰かに大事にされる事も、誰かを大事に思うことも、この世界に来て初めて経験することだった。
ハルにとっても、この人達は大切でかけがえの無い存在だった。この場所が、ハルにとって唯一無二だと思えた。だから帰ってきたのだ。自分が生まれ育った場所ではなく、実弥のいるこの世界へ。
生きてて欲しい。誰も死んでほしくない。ハルは顔を上げると、「しのぶさん、お願いがあるの!」と自分の思いを伝えた。
◇
「そう、彼女は強い子なんだね」
「そうですね。私も驚きました。もちろん不死川さんは反対してましたけども」
「彼女の力を頼るつもりはないよ。でも彼女が役に立ちたいと言ってくれた事は私達の強みになるからね。それに、実弥を変えてくれた彼女に、私は感謝しているよ。しのぶもありがとう」
産屋敷邸で、耀哉に報告に来たしのぶは下げていた頭を更に沈めた。
鬼のいない未来は確実にある。その事実だけでも、鬼殺隊にとっては闇夜に輝く月のように、強い光となるものだった。