新たな人生 壱

「俺んとこに、来ねぇか」
「え?」
「俺はハルと残りの人生、添い遂げたいと思ってる。まぁ正式にってことは無理だろうが…そんな事は大した事じゃねぇ。妻として側にいてほしい」
「いいの? わたしでいいの?」
「馬ァ鹿…ハルじゃなけりゃ、俺は一人でいい。ハルがいいんだよ」
「実弥さぁぁぁん」
「簪の意味、胡蝶に聞いたんだろォがァ……泣くんじゃァねェ!ちょ、そんな顔擦りつけんなァ」





 夕暮れ時、橙色に染まった病室で荷物を纏めていたハルの元に、任務へと向かう義勇が訪ねてきた。いつもはハルの顔を見て二言三言交わすだけで帰ってしまう義勇を、ハルは少し寂しいと思っていた。だが、彼の想いに応えられないのだから仕方がないと思っていた。これ以上、求めてはいけないと。


「傷は痛むか?」
「うん、少し…でも薬をしのぶさんが持たせてくれたから大丈夫!」
「そうか」


 元々、義勇の口数は少ない。だからハルが義勇の気持ちを考え過ぎてぎこち無くなってしまった事で、極端に会話が減ってしまったのだ。
 義勇は然程気にしていなかったのだが、ハルはそれを物寂しく思っていた。


「不死川の所に行くと聞いた。良かったな。蝶屋敷での仕事も続けるのだろう」
「……」
「ハル?」
「寂しい…って思うなんて勝手だと思う。だけど、わたし義勇さんと前みたいに話したい。義勇さんはわたしにとってお兄ちゃんみたいだったから」
「兄、か……」


 義勇はハルに近づくと、その頭に手を置き優しく撫でる。
 ハルは義勇にそうされるのが心地よかった。そんな事は知らない義勇だったが、嬉しそうにするハルを前に、自然と顔が綻んだ。
 そんな顔もするんだとハルは思ったが、それを言ったらもう見れなくなるかもしれないと思ってそっと心の中に仕舞い込んだ。


「言っただろう、頼って構わないと。こんなに可愛げのある妹ができるのなら喜んで受け入れる。ハルの笑顔をまた見られて心から嬉しいと思う。不死川と喧嘩でもしたらまたうちに、」
「その必要はねェぞォ!」
「実弥さん!」
「……ハルは俺を兄のようだと言ったのだ。妹を守るのは兄の役目でもあるだろう。な?ハル」
「いらねェってんだよォ! 女房を守るのは夫の役目だァ」
「そうか」


 義勇は少しばかり嬉しそうだった。ハルはまだ聞き慣れない言葉に顔を赤くし、またそんな反応をしてるハルを見て、実弥もまた照れを隠しきれない。
 皆が、こんな温かな時間がずっと続けばいいと思っていた。大切な人の幸せを願うだけでなく、それを側で見守る事のできる世になって欲しいと。

novel top / top