生きる覚悟 壱
涙が出たのは、いつ以来だっただろうか。途切れかけたそれを拭いながら、ハルは改めて部屋を見渡した。
義勇に手を引かれ家の中に連れられたハルは、導かれるがまま腰を下ろし、一人そこで泣いていた。少し落ち着きを取り戻したハルが義勇の姿を探しても何処にも居らず、むしろ家の中は誰もいなかった。
「…嘘でしょ……放置プレイ!?」
思わず、そんな言葉を吐き出した。
そこまで広くないこの家は、どう見ても今までハルがいた時代よりも古いものだった。まだこの事態を信じられていないハルは、家中を散策し始めたが心は半信半疑のままだった。
実は生死をさ迷っていて夢を見ているのでは。そう何度も言い聞かせるようにハルは考えていたが、こんなにリアルな夢なんて見たことはなく、お腹も空いてきた所為で何も考えられなくなっていた。
ふとその存在を思い出し、制服のブレザーを捲り左手首に着けていた時計を見る。ハルが着けていたデジタル時計は、止まること無く時を刻んでおり、それが余計にこれが夢なのではと思わざるを得なかった。
自由に生きる為にと、ハルが必要最低限のものを詰め込んだリュックが部屋の隅に置かれていた。義勇はそれを確認することなく、そこに置いておいたのだ。
ハルは中身を確認し、身につけていたもの全部が一緒にこの場所にあることに少し安心した。食べ物なんて少ししか入っていない。お金は沢山持ってきたけど、使えるのか。携帯は……電源は点いても、ネットどころか電話も掛けることさえできない。
リュックに入れて置いた非常用のカップ麺が目に留まり、とりあえず空腹を満たそうとハルは台所らしき場所へと向かった。
そして、当然といえば当然なのだが、ハルの知る姿形をしていないそこに愕然とした。ポットなんて当たり前に無ければ、お湯を沸かすのにもどうやって火を出せばいいのかも分からない。蛇口もなく、どうやって水を手に入れたらいいのだろう。時代劇とまではいかなくとも、それに近い古さを感じた。
――こんな所で、生きていけない。
まだ現実を受け入れられてない状態で更なる仕打ちを受けたハルが項垂れると、下がった視線の先に、お握りが二つ置かれているのが目に付いた。
そこには置き手紙も何も無かったが、義勇がハルの為に用意したのだと理解し、鼻の奥が熱くなった。
義勇は鬼殺隊の任務に出ていた。得体の知れないハルを一人残して出てもいいか迷ったが、何故あんなにも泣いていたのかが分からず、とりあえず腹の足しにと握り飯を用意し、任務に出掛けたのだ。
その説明を一言伝えてから、もしくは置き手紙でもしていればその優しさが伝わるものの、義勇のという男は、そういう男なのだ。
周りから、協調性がないだとか何を考えてるのか分からないと幾ら言われようとも、それが自分のそういう態度が原因だとも思っていない。
その所為で、同じ柱達と頻繁に衝突していると言うことも分からないような男だった。そんな男が、ハルの気持ちなど計り知れるはずなどないのだ。ましてや、未来からきたという事実も、義勇は知らないのだから。
義勇がその家に戻ったのは、次の日の朝だった。