生きる覚悟 弍
義勇が帰ると家の中が荒れていた。物取りか鬼か、とすぐさまハルを探そうとするが、その必要がないと少し動いた足を止めた。
ハルの荷物が置いてあった側で、彼女はうつ伏せになって倒れていた。着ている服が少し汚れてはいたものの、遠目から見ても息があると分かったため、義勇はそのまま部屋に入り刀を置いた。その音でハルが目を開け義勇の姿を見つけると、さらに目を見開いた。
「え! いつの間に……足音聞こえなかった! 」
「……」
「あ、おかえりなさい」
「……物取りでも入ったのか? この家は」
義勇が視線を向けると、ハルは申し訳なさそうに肩を狭くして座った。
ハルは単に眠っていたのではなく、打ちのめされて心が折れていたのだ。お握りだけでは満たされない空腹に、何かないかとお金を持って外に出てみたはいいが、周りには竹や山が見えるばかりで何も無く、歩いても歩いても、それらしき場所になんて出ることが出来なかったのだ。
想像を超えるトイレも体験し、風呂も入れず、お湯を沸かそうと挑戦はしたものの上手くできずに、体力だけが消耗していった。せめて使い方なりを教えてくれたら。
だけどそうなると未来から来たことを話さなくてはならないけど、それはいいのだろうか。ハルは動き回りながらも色々と考えを張り巡らせていた所為で、まるで電池が切れたみたいに横たわっていたのだ。片付ける余裕さえなかった。そもそも、何か一言、何か一言でも言って出掛けてくれたらと義勇に怒りさえ覚えていた。
それなのに、義勇に向けられた冷めた視線に、余計に心が打ちのめされる。確実に、物取りなんて入っていないとわかった上で聞いていると分かっていたから。
「使い方が分からなくて…お腹も空いて動けなくなって片付けられなかったの。ご飯を買いに行こうにも何処に行けばいいのかも分からなくて、どうすればいいのか分からなくて……ごめんなさい」
ハルがそう言い終わると、深い溜め息が落ちてきた。
人目を気にして生きてきたハルにとって、それが悪い意味であると瞬時に理解できた。思わずハルの手に力が入り、自分の服を強く掴んだ。
「…お前は今まで、甘えて生きてきたのだな」
予想もしていなかった言葉に、ハルは「え?」と言葉を返したが、そんな言葉など聞いてもいない義勇は、表情を変えずに淡々と続けた。
「分からないから何も出来なかった? 違うだろう。何もしなかったのだろう。結果として出来ていなければ、その努力が足りなかった…そうは思わないのか? 今まで周りが手を差し伸べてくれたから、今回も誰かが助けてくれると思っていたんじゃないか。だからこの家から出て行くこともなかった。そうだろう」
義勇の言葉は、ハルの心の傷を抉るように深く刺さった。怒りなのか悲しみなのか、なんの感情か分からないものが込み上げてきて、ハルの目からはまた涙が溢れていた。
思わず側に置いていた携帯を義勇に投げつける。物を投げられて驚きはした義勇だが、それも表情に出ることなく、簡単に避けた。
壁に当たって落ちた携帯の画面は、見事にヒビ割れたがハルにとってはそれもどうでもよかった。
義勇の言うことが間違っているとは思わないが、それを受け入れられないハルは次々と物を義勇へと投げつけた。
そんな言い方しなくていいじゃない。甘えた事なんて一度もない。甘えさせてくれる場所なんてどこにもなかった。それなのに…それなのに……。
「冨岡義勇のバカ!!!!」
手当り次第に物を投げ終えたハルは、そう捨て台詞を吐いて外へと飛び出した。