生きる覚悟 参

 馬鹿と言われても、ハルが外に飛び出して行こうとも、義勇の表情は変わらなかった。
 だが、心の中では少し動揺していた。
 何か事情がある事は分かっていたし、だからこそあの時、行く宛てがないと言った時に引き止めた。任務から帰った時にハルが居ることは予想していたが、言い訳をした彼女に思わず過去の不甲斐ない自分と重ねて強い言葉を吐いてしまったのだ。
 まさか、馬鹿と言われるとは。


「……これは…」


 義勇の周りに散乱した、先程ハルが投げつけてきた荷物に目をやる。
 考えがなかった訳ではない。だが、義勇にとって信じ難い出来事だったために早々にその考えを捨てたのだが、目の前にあるハルの持ち物に、珍しく義勇の顔が歪んだ。
 見たこともない奇妙な物ばかり。例え生活が質素でも、任務のために上流階級の人間を見ることがあった義勇だったが、それでもこれまでの品物は見たこともなかった。
 ハルの服装、言動…すべてにおいて、その考えが正しければ筋が通る。
 到底信じられるものではなかったが、ハルが「使い方が分からない」と説明したのも納得がいくような気がした。帰る場所なんてどこにもないと、泣いた理由も。
 暫く考えた後、義勇は素早くその場を駆け出した。





 家を飛び出したはいいものの、体力の限界だったハルが遠くへ行けるはずもなく、竹林の中にあった大きいな岩場の所に膝を抱えて座っていた。
 先程まであった感情は落ち着きを取り戻したけど、義勇の言葉が木霊して別の涙が流れ落ちる。
 私は甘えていたんだろうか。
 最初に助けてもらえたからきっとまた助けてもらえると心のどこかで思っていたのかもしれない。もし、彼が悪人だったら襲われたり殺されたりしていたかもしれないのに。私は泣くばかりで、何もしていない。こんなんだったらきっと、あのまま事故に遭わなくたって生きてはいけなかったかもしれない。

 竹林の中はとても静かで、だからこそハルは自分の気持ちと落ち着いて向き合えた。これが、夢なのか現実なのか分からない。だけど醒めるまで生きていかなければならないのなら、自分で何とかするしかないのだと強く心に言い聞かせた。
 葉を踏む音がして顔をあげると、義勇が目の前に立っていた。
 あ、とハルの声が漏れたが、義勇は何も言わずにハルが座る岩場の近くに、そっと腰を下ろした。
 微かな距離があるものの、何となくハルは嬉しいと思った。相変わらず表情は変わらず、目の色も冷めたように思えるが、それでも同じ場所にいてくれることが何より安心できた。


「さっきはごめんなさい。それから、最初に言わなきゃいけなかった……助けてくれてありがとうございました!」
「…あぁ」
「あの、わたし実は…」
「ハル、と言ったか」
「え、あ、はい」
「分からない事があれば聞くといい。それから俺は任務があって家を空ける事が多い。身の振りが決まるまではあそこを使うといい」
「…い、いいんですか!?」


 義勇の方を向くと、彼は視線を竹林に真っ直ぐ向けたままだったが小さく頭を下げて頷いた。
 咄嗟に立ち上がったハルは、義勇の側に寄り思わず抱き締めた。
 突然の事に目を見開いた義勇だが、抱きついているハルにはその表情が変わったことに気づかない。
 それからすぐに体を離したハルは、義勇の前に膝をつくとそこが落ち葉の上だろうが何だろうが関係なく頭を下げた。


「不束者ですが、よろしくお願いします!」


 ハルは、自分が生きて良いと言われてるようで胸が熱くなった。
 この先どうなるかは分からない。だけど、死ぬ寸前に生きたかったと思ったハルは、この場所で生きる意味を探そうと決めた。

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