いただきます。




任務に行って、呪霊を払って報告書を提出して、また任務にいく。毎日同じ繰り返しでルーティーンが出来てるけれど、体も呪力も使うから疲労感は確実に積み重なってくる。明日は待ちに待ったなんの予定もないお休みだ。
戦いのせいで埃まみれの真っ黒な服を脱ぎ捨てれば、側からみれば私もそこら辺を何も怖い物を知らずに生きている一般市民の仲間入りをする。高専を出て疲れた体を慰めてくれる缶ビールを何本か買って帰路につく。駅近マンションの我が家について鍵をカバンの中から見つけ出し鍵を回すけど、逆にカチャリと閉まる音がした。普通だったら、泥棒とかを疑うが私は一人の顔が脳裏に過ぎる。私がかけ忘れることはよくあるけど、彼がそんなことをするのは珍しい。

「ただいまー」

扉を開けると廊下は暗いが先にあるリビングの電気はついてる。パンプスを脱ぎながら中に向かって声をかけるけど返事はなくて、寝てるのかなと思いながらリビングへ向かった。

「う、わ……」

そこには、確かに寝てるけど机に死んだように崩れ落ちてる潔高くんがいた。彼の傍には丼の中で汁を吸いきって太く伸びているラーメン、らしきものがある。潔高さんの片手にはかろうじて箸が握られていて、構えた片手をそのままに額を机に押し付けるような、なんとも言えない体制でピクリとも動かない。

「潔高くん、」
「んがっ…」

溜息を吐き上着を脱いでから彼の肩を揺すると、ビクンと肩を震わせる。ゆっくりと顔を上げるその目は焦点が合ってないようで、口元にヨダレを少し垂らした状態で此方を見ている。もう一度、息を吐くとやっと覚醒してきたのか口端を拭った。

「あー……おかえりなさい。」

私の顔と壁にかけられた時計と伸びきったラーメンを見てやっと理解出来たようで小さく呟くと、潔高くんは目を擦ってにへりと力のない苦笑いを浮かべて行き場のなかった箸を持ち直して丼に手を伸ばす。

「こら、」
「あいたっ」

その手を軽くペシっと叩くと、キョトンとした様子で此方をまだ寝ぼけ眼で見上げてくる。そんな様子にまた溜息が喉まで出てくるけど、どうにか飲み込んでその丼を奪い取ってキッチンへと向かった。

「今回はこれはもう廃棄しましょ、何か作るから潔高くんはお風呂入ってきてください」
「…まだ食べれますよ、」
「早く 風呂に 入ってきてください。」

名残惜しそうに箸を片手に呆けているので、キッチンから顔を覗かせてわざと笑顔で語句を強調しながら再度声をかければ諦めたのか渋々立ち上がった。このラーメンには申し訳ないけど、塩分を吸いきったこれを疲れた彼に食べさせるほど私は鬼じゃない。

「何食べたい?」
「……あったかいものを、」

冷蔵庫の有り合わせを引っ張り出して、着替えを持っていそいそと風呂へと向かう彼の背中に声をかければゆるりと振り返ってそれだけ呟いた。そんな事を言われたら、疲れた体を癒してくれるような暖かいものを作るしかない。小さく よしっと声を出して気合いをいれた。

物持ちが良いからつい沢山買ってしまう玉ねぎを切って、ついでに今回はしめじも余っていたから入れてみた。鶏肉を一口サイズにしてみんな一緒にめんつゆで煮込んでいくと、キッチンに優しい匂いが広がっていく。煮立って味が染みたら卵を溶かして流し入れていると、ちょうど清隆くんがお風呂を終えて戻ってきた。

「あと少しだから、髪乾かしてきたらどう?」
「いや、そうすると寝ちゃいそうなので」

濡れた髪を小さいタオルでガシガシと気怠そうに拭いている潔高くんに声をかけるけど、首を振られてしまったので苦笑いした。風邪をひかないか心配だけど、また寝落ちされてご飯が冷めるのも困るので食後にまだ濡れていればドライヤーしてあげよう。丼に早炊きしてどうにか間に合ったご飯をよそって、卵が半熟になってきた時に火を止めて白米の上に乗せる。湯気が立ってる熱い丼を両手に持って、二人の食卓の机に運んだ。

「はい、どうぞ」

即席だけど完成した親子丼を置けば、潔高くんが小さく歓喜の声を漏らす。眠たそうな目は丼に釘付けで、アニメならヨダレが垂れていそうなその光景に可愛くて思わず笑ってしまった。これ以上待てするのも可哀想なので、冷蔵庫から冷やしていたビールと二つコップを持ってきて向かい側に座って、コップに注ぐと一緒に手を合わせた。

「いただきます。」

お互いに声を合わせてスプーンに手を伸ばす。出来立てだから口に運ぶと熱くて、ちょっと涙が出そうになるけどほんのり口内に広がる味は濃い過ぎないでちょうどいい。うむ、よかった。ふと顔を上げると、潔高くん熱そうにハフハフしながらも食べる手を止めていなかった。

「美味しい?」
「はい、貴女の作るものはなんでも美味しいですよ」

問いかければごくんと飲み込んで頷いてくれる。普段忙しすぎてそんなに食に執着がない人だから、こういう素直な反応や言葉を聞くと純粋に嬉しくなる。

「お米が沁みる…」
「それはよかった。」

きっと、忙しい彼は栄養補給のできる簡易食品ばかりなんだろう。目を細めてしみじみと味わってる様子を見て頬が緩まる。本当、自分も同職だけど、早くあんな忙しい仕事辞めてしまえばいいのに。冷えたビールを喉に流し込むと独特の味が広がって、疲れた体に染み渡る感覚が広がる。やはり、仕事終わりの一杯は最高だ。

「あぁ、そうだ。」

私も余韻に浸っていると、ふと潔高くんが思い出したようにあんなに動かしていたスプーンを机に置く。どうしたのだろうかと首を傾げると、ぱちりと潔高くんと視線が絡む。

「いつもありがとう、今日もお疲れ様です。」

小さく、でも真っ直ぐに頭を下げてお礼を述べる潔高くんに、ぐっと息やら言葉やらを飲み込む。そんなに今日は大変な1日だったわけじゃないけど、そう言ってもらえると喜びだったりが胸いっぱいに広がって肩の力が抜ける気がした。

「潔高くんも、お疲れ様です。いつもありがと」

私も頭を小さく下げて、感謝を伝える。顔を上げれば、こちらを見つめている潔高くんと目があった。暫く見つめあっていて、どちらともなく吹き出して笑う。今日が終われば明日がきて、また忙しい日々が待っているかもしれないけれど、またこうやって食卓を囲んで一緒に眠りに落ちれるなら悪くないのかもしれない。


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