15話 ブルーアワーにキスをして
鏡の中に映る自分の髪にヘアアイロンを当て、暫く経って毛束を離せばそこはくるくると柔らかいカールがかかる。気付けば髪が伸びてから暫く経って、最近ではお手入れもスタイリングも慣れてきた。
今日は髪の毛もふわふわにスタイリングして、メイクも普段の日焼け止めと眉毛を整える仕事使用より時間をかけて丁寧に顔を作り上げた。でも最後に服がイマイチ決まらなくて、着ては脱いでを繰り返してベッドとクローゼットの周りは服で山が出来ている。
「うーん……無難にこれでいいか…」
少し前にかったコラインワンピースはロング丈だけどシフォン生地で透け感もあるからあんまり重たくなく涼しげだ。あんまり露出し過ぎず、でも女性らしく。鏡に映る私は今日のテーマをきちんと守れている優等生で、ハレンチヘレンチとすぐ叫ぶ男のことを思い出すと花丸ものだろうと苦笑いが溢れた。
まさかの形で私達の関係性がバレてしまったあの日。みんなの気遣いもあり一日中本社の方で書類整理のお手伝いをさせてもらった。帰りがけにカリファさんに助かったわとお礼を言われてクッキーのお土産までいただいて、助けていただいたのは私の方なのに気まで使わせてしまい逆に申し訳ない。仕事も気配りも出来て、流石アイスパーグさんの優秀な美人秘書だとあの1日で物凄く痛感した。
帰って食べようとルンルンてクッキーを抱き締めて本社を出ると、見慣れた姿が壁にもたれて立っていた。
「……すまん!」
私が立ち止まって声をかけようと口を開くそれより前に、パウリーが勢いよく頭を下げた。旋毛を通り越して襟足まで見える深い謝罪は、きっと私たちが今朝気付いた過ちについてだろう。
「やり直しさせてくれ!…お、おれと、デートしてくれ…!」
好きと言葉を交わしヤる事ヤったが、肝心の“付き合う“約束をしていなかった私達。パウリーが今日一日考えた結果が謝罪とデートの申し込みだったようで、頭を下げたままバッと勢いよく私に向かって真っ直ぐ手を伸ばしてくる。微かに震える手の甲に、恐る恐る手を差し出して重ねるとすぐに力強く繋がれる。
「ッ…次の日休みに、家で待っててくれ。迎えにいく。」
額を上げたパウリーは夕日に負けないくらい真つ赤な顔で真っ直ぐと私を見つめて、少し早口でそう言えば、それじゃ!と踵を返して走って行ってしまった。
本当に、不器用で真っ直ぐな男だなぁ。
「…ふふっ、デートかぁ…楽しみだなー…」
一瞬繋いでいた手はまだほんのり熱くて、ニヤついてしまう頬を噛み締めて耐えながら自分も帰路に着く。
次の休みまで1週間ちょっと。その間って一体どうなるのかな…?と思っていたけれど、真面目なパウリーはその期間、体を重ねまでしたあの日の出来事が嘘みたいに。恋人同士。の触れ合いは全くしてこなかった。
折角想いが通じ合ったのになんとも言えないもので、色んな意味で早く初デートの日が来いと切実に願い続けてこの長い長い1週間を過ごしたものだ。
トントントン。
この間の出来事を思い返していると、自分の家の木の扉がリズム良く叩かれる。
「やば…!はーい!」
時計を見ると約束の時間の10分前で、慌てて返事をしてとりあえず玄関先から視界に入らないように服の山を部屋の端に寄せる。織になるだろうけど、また今度アイロンしてあげよう。小さなカバンに財布と家の鍵とリップだけ詰めて、一度玄関の前で深呼吸する。気持ちが整ってから鍵を開けて、ゆっくりとドアノブを回した。
「……わぁ!」
「……ん。これ、お前に。」
一番最初に目の前に飛び込んできたのはパウリーの金髪、じゃなくて、同じように黄色の向日葵の花束だった。夏らしい向日葵を中心にオレンジや白の花弁の多い花、小さな青い花達などがそれぞれの良きを引き立て合って華やかに咲いている。そんな花束を抱いていたパウリーはいつもとの服装で、それが余計に花との組み合わせが違和感しかなくて 不思議な気分だ。
私が驚いている反応が悪いものじゃないのに安心したようで、パウリーは小さく肩を下ろして照れくさそうにグイッと花束を押し付けてきた。
「い、いらねーかもだけど…一応……」
自分でも似合わない事をしているのが自覚があるのか、そうやって付け加えるところが兎に角もう愛おしすぎて、つい吹き出してしまった。
「あははっ、ありがとう!すっごく嬉しいよ!!ちょっと待ってね、一回お花に水あげてくるから!」
花束が嬉しいのもあるけど、1番は私なんかの為に慣れない事をしてくれているって事が嬉しくてつい大きな声で笑ってしまう。花束を大事に両手で抱えて部屋の中へ戻ると、パウリーは何とも照れ臭そうな顔をして一人で頬をかいていた。
「じゃあ、今日はなにしようか?」
花瓶にお花を生けてから、改めて2人で外に出る。デートまでの一週間、飲みに行ったり家に行ったりとしないとなると、職場では今までと同じ同僚の距離感だからデートは どこに行くー?とか、そういうプランは決めてなかった。今日の服装はワンピースとサンダルだし、危ない道以外ならありがたいなぁと思いながら隣を歩くパウリーに聞いかけると、彼ははやたら自信満々な顔をして胸を張っていた。
「買い物に行こうぜ。お前が好きなモン、なんでも買ってやる!」
本人はどうだ!と言わんばかりの顔をしているけど、私の中ではピンとこなくて思わず立ち止まってしまった。
「…パウリー、借金あるのに?ブルーノさんの店にまだツケ残ってるのにぃ?」
「う…うるせェ!今度のヤガラレースで取り返すからいいんだよ!」
私が怪訝そうにそう問いかけると、パウリーは言葉に詰まって気まずそうに目を逸らす。…今日のパウリーの言動を見て、何となくわかった。多分彼はこの一週間、色んな人にデートとは!という質問して、オススメされたデートプランを参考にしたんだろう。 女は花を贈れば喜ぶ、服や宝石を買ってやれば喜ばない女はいない!…とかとか。みんなに囲まれて恥を忍んで真面目にメモをとっているパウリーの姿が容易に想像つく。
「別にいいよ。自分で欲しいものくらい、自分で買えるし。」
花は自分で買う事が少ないし、何よりパウリーが選んだ花を買って、それをウチの家まで持って街を歩く気恥ずかしさよりも私に贈りたいという気持ちが嬉しかった。だけど、別に私は服とか宝石を買ってもらってもそんなに嬉しくない。服はともかく宝右って、少なくとも私は使うところないし…。しかもパウリーの事だから、それを買うために借金を増やしそうでそっちの方が恐ろしい。
「でもよぉ…」
パウリーなりの良い作戦だったのか、バッサリ切り捨てられてどうしていいか悩ましそうに頭を掻いている。うーん、買い物デートがなくなると、他にする事ないしな…。いきなりノープランになってしまって作戦を考える為に2人で立ち止まると、隣の水路でヤガラブルのヤガラがニーニーとご機嫌に鳴いて通り過ぎていった。
「…あ!私、ヤガラレース行きたい!」
そうだ、いい事思いついた!それこそパウリーとしか出来ないことだ!両手を叩いてそう言えば、パウリーは苦虫を十匹くらい噛み潰した顔を浮かべた。
「あんなんのにかァ?!」
「その“あんなん“が好きなのはパウリーでしょ?」
私がそういえば、言い返す事が出来ずにパウリーは押し黙ってしまう。しかし暫くすれば、でもよぉ…と躊躇いがちな呟くので、ニッと笑いながらバウリーの手を取って走り出した。
「一回行ってみたかったんだよね、パウリーがそんなにハマっちゃうとこ!」
勝った負けたとか、次は絶対コイツか優勝する!とか熱く語っているのを今まで散々聞いていると、最初はキャンブルに呆れていたけどどんどん気になり始めていた。前まではただの好奇心だったけど、今ではパウリーが好きなものをもっと知りたいと純粋に思っている。念押しでお願い!と言えば、パウリーはいつだって優しいから結局深く溜息を吐き出してから渋々付き合ってくれる。
「まぁ、賭けは任せろ。今アツい奴を教えてやるよ!」
行くと決まればいきなり先輩風吹かし始めたパウリーに笑ってしまう。どうやらもうすぐ賭けのレートがいいレースが始まるようで、意気揚々とロープを取り出すとすぐに私を抱き抱える。
ちょっと待って、私今日の服装ワンピースなんだけど…?!
そう叫ぶ為に開いた口は、パウリーが予告なく橋の下に飛び降りるので舌を噛まないようにすぐに閉じた。
無事にレース場には間に合ったが、私がスカートの時はロープ移動禁止と叱りつけておいた。
「いやー、楽しかったー!」
「くそ、あとちょっとだったのに…!」
レースの結果は、私はちょっとだけ勝った!そしてパウリーは案の定負けだけど。
終わった今でもまだ半分くらいしかルールとか手順を理解してないし、走ってしまうとどれがどのヤガラかわかんなくなっちゃったりしたけど、でもあの会場が一体になるような空気感が面白かった。
会場に着いたらまずパウリーがレースの見方とか予想した順位の書き方とか、色んな事を手取り足取り教えてくれた。その後はパウリーの大予想大会を長々と力説された。意気揚々とその予想順位を書いてるバウリーを横目に、私はその反対を参考にしながらヤガラ達の顔を見てなんとなくで決めた。そしたらやっぱりパウリーは全敗で、これは毎回彼の反対で私が賭ければ借金がすぐ無くなるんじゃ⋯?とすら思ってしまった。
まぁ兎も角、私とパウリーのでプラマイゼロでトントン、ちょっとだけプラスくらい。
初心者にしたら上出来、じゃないかな?一先ず私の好奇心でこれ以上彼の借金が増えなくてよかった。
「昼飯は行くところは決めてンだよ!」
レース場を出て、今度はロープではなくてヤガラブルをきちんと借りて水路を走る。
そう言って胸を張り自信満々なパウリーがヤガラを繋ぐ組を持っているのを見て、レース場から続くなーんか続く、不安?が胸にそわそわと潜んでいるのを感じる。…まぁでもただの気にしすぎかも。勝負事で神経が敏感になり過ぎているのかもしれない。そう思いながら水路の水にそろりと手を伸ばすと、水温はいつもよりぬるいけどデートで心弾んでいる体温には気持ちよかった。
「マジかよ……!」
私の胸のそわそわは大的中していたようで、パウリーが膝をつき項垂れる先には、定休日と大きく赤文字で書かれた看板だった。
パウリーが連れてきてくれたのは、今ウォーターセブンの女性の中でもちょっと話題になってるカフェバーだった。お酒や紅茶の種類が豊富で、20分に一回違った種類の飲み物を運んできてくれる。食事も甘いケーキやガッツリと主食からおつまみまで種類が豊富で、味覚が違う友人や恋人でもみんなが楽しめるをコンセプトにしているらしい。確かにここは気になっていたから連れてきて貰えて嬉しい反面、人気店だか正直営業日でも予約なしでは入れなかったんじゃ⋯と考えが過ぎる。でも立て続けの出来事であまりにも落ち込んでるパウリーの姿を見たら、それは死んでも口に出せなかった。
「……あ、そうだ。ねぇねぇ、パウリー。お腹減った?」
「あ?あぁ……腹減ったけどよ…」
腹が減ったが店がやってないと言いたげな死んだ目をしたパウリーに苦笑いを溢しながら、いつまでも地面とお友達なパウリーの手を引いて歩き出す。
「お、おい!どこ行くんだよ!」
「確かこの辺に……あ!あった!」
そういえば、前にこの辺で美味しい移動式屋台が出ているって聞いたのを思い出して、ずんずんと歩きながら辺りを見渡す。ランチタイムしかやってないらしくて、でもガレーラからだとお昼休憩で買いにくるにはちょっと遠い。いつか食べたいなとずっと思っていたのを不意に思い出したのだ。聞いた話だと黄色の乗り物でわかりやすいって聞いたんだけど⋯⋯薄らと残る記憶を辿りにしていると、ふといい匂いが鼻腔を擽った。
「うっわ、めっちゃいい匂い!」
「…水水肉サンド?」
噂通り目印になる黄色の乗り物の屋台には大きくサンドイッチのイラストが描かれた旗が下がっていて、もう既にら組くらい並んでいた。毎日その日の朝に焼きたての白パンに、ジューシーさの残る水水肉と新鮮な野菜が挟まっていて、トマトベースのテリソースが格別らしい。お昼に買ったら昼休み終わる前にもう一個食べたくなる!って噂になっていた目玉商品だ。
パウリーはガッツリ食べる気分だったのか、サンドイッチかぁーって空気が全身で溢れてる。だけど私は美味しい噂を知ってるから、得意げに最後尾に並ぶべく彼の手を引く。
噂が本当ならきっとバウリーは二つ食べるから、水水肉チリサンド三つと、あとポテトも一つ頼もうかな。せつかくの休みだしドリンクもジュースじゃなくてビールにコースアップしよう。並ぶ時間も楽しくてルンルンと無意識に肩を揺らしていると隣に立ってるバウリーの肩にとんっとぶつかっちゃった。謝ろうと思って顔を上げたがあまりにもパウリーが凄く優しい顔で私を見下ろしてて、言いかけた言葉をひゅっと呼吸に溶けていって音にならなかった。
「うっっっま!!」
「ん〜!美味し〜!」
屋台の横にあるテーブルと椅子だけの簡易テラス席がちょうど空いたので、昼間からどールで乾杯して期待の水水肉サンドに齧り付く。ふわっふわの白パンはまだほんのり暖かくて、水水肉の肉汁も吸って甘みと旨みがすごい。美味しさに頬が緩んでテーブルの下で足をバタつかせていると、パウリーはガツガツと大きな口でどんどん食べ進めていく。ビールを煽って、くぅ〜ッと全ての旨味を噛み締めている様子は見ていてこっちも気持ちがいい。
「悪ィ……全然格好つかなくてよォ……」
一個目を早々に食べ終わったパウリーは物欲しそうに残りの一つを見てたから、パウリーの分だよと言うと申し訳なさそうに、でも嬉しそうにサンドイッチを手に取った。天気のいい日に外でランチを食べて、しかもまだ太陽が高い位置の時間からお酒を飲んでる。
私に取っては最高な1日だけど、食事が終わったパウリーは目を伏せてもごもごと言葉を漏らした。
「……私、別にいつもの情けなくてガサツなパウリーが好きだよ?」
「……それ褒めてんのか……?」
拗ねたように唇を尖らせながら、ちょっと照れくさそうに呟く低い声が可愛らしい。
また笑っちゃうとそろそろ本当に落ち込んじゃいそうだから、言葉を探しながらテーブルの下でパウリーの足にツンッと足先で触れた。
「うーんとね、今日のデートで色々考えてくれたのは嬉しいんだよ?きっと私を喜ばせる為に色々考えてくれたんだなー…って。」
きっと沢山の人に色々教わって、その中から私が何が嬉しいのかっていっぱい考えてくれたんだろうなって言うのが今日一日で伝わってきた。お花も可愛かったし、また別の機会でさっきのお店に行ければなとも勿論思う。
「でも、私たちは私たちだし、そんなに無理しないで今までみたいに自然でいいのかなーとも思うんだよね。ほら、ヤガラレースも楽しかったし、私酒場で一緒にお酒飲むのも好きだよ!…でも、借金はほどほどにね?」
だけどどちらかの為に片方が頑張りすぎちゃうと、その人は疲れてもう嫌になっちゃいそうだから。それなら背伸びしないで私たちらしく生きて、大好きって気持ちだけで生きていきたい。
最後に借金のことを付け加えると、パウリーの目は一気に泳ぎ始めてじとりと睨みつける。その内降参するように両手を上げ始め、視線が絡むと2人で吹き出して笑った。
「最後に、連れて行きてェところがあるんだよ」
お腹も満たされてトレイを店に帰し終わると、パウリーがそう言うので振り返る。もうそんなに無理しなくていいのに、と思ったけど、今回のパウリーはさっきまでの取ってつけたような自信じゃなくて、いつもみたいに悪戯っ子のような笑顔を浮かべていた。
「絶対後悔しないから、安心しろって」
そういうと、パウリーはさり気なく私の手を取りしっかりと繋いで歩き出した。さっきから行きたい場所へ走っていく時は咄嗟に私がパウリーの手を引きていたけど、あちらから繋がれるのは初めてでドキドキする。パウリーって、恋人になるとこうやって昼間でも手を繋いでくれるんだ…。
いつも酔っ払えば肩を抱いて送り届けている時の方が距離が近いのに、今はたったこれだけでその時よりもときめくなんて不思議だ。なんだか今日一日でお互いの手が自然に馴染んでいったいるような気がして、緩む頬が止められないまま隣に並んで歩いた。
辿り着いたお店は裏通りにあって、初めて来る通りだった。建物自体が古いその店は、看板が出ていない代わりに表の大きな硝子窓に色々な動物の人形達が音楽が奏でている。
「わぁ……!」
「ここ、前たまたま見つけてよ。お前好きそうだなって思ってたんだよ」
パウリーが連れてきてくれたのは、アンティークのミニチュアショップだった。本当に指先に乗るほど小さいものから、大体30センチくらいの人形がお茶会するのにちょうど良さそうなサイズ感まで沢山ある。木製の机と椅子、高級ソファーをそのままミニチュアサイズにしたような上質な布感、きっとこのレースは布を切って縫って…などではなく、このサイズに一から編んでるんだ。
昔からこういう人形で遊んだりその子達に紙や古布でお洋服を作ってあげたりなど細かい作業が好きで、今の仕事も趣味の延長線上に近くて大好きだ。こういう木の椅子なら頑張れば私でも作れるだろうけど、陶器やレースなどは専門外過ぎて興味がそそられる。お店にご迷惑おかけしないように小さく歓喜の声を漏らしながらあちこち見て回ってると、パウリーは照れ隠しで鼻先を擦りながらも自信満々にそうやって胸を張っていた。
「うん、ありがとう!パウリー、凄い好き!」
「……おぅ」
このお店を見て私を思い出してくれたということ自体も光栄だし、喜びそうって覚えててくれたのが今日1番嬉しくて満面の笑みで何回も頷いてみせる。嬉しくて、心がボカボカしているのがわかる。
この店が好きって意味で返事したけど、パウリーはぐっと息を飲むと徐々に彼の頬に赤みが増してくる。パウリーはそれを誤魔化すように素っ気なく返事を返して、同じようにミニチュアを手に取って上下左右色んな角度で眺め始めた。
お店に来てからもう暫く歓喜を漏らしながら亡霊のようにお店を彷徨っていて、気付けば結構時間が経ってしまった。こんな素晴らしい出会いをしたのだから何か買って帰らねばと謎の使命感に駆られて、本格的に気合を入れて商品を手に取った。
「はぁー……買っちゃった…結局、ヤガラレースの分マイナスになっちゃった…」
お店を出る頃には、すっかり日は沈みかけて辺りはオレンジに染まっていた。
色々悩みに悩んで、パーツの参考にしたくて手乗りサイズくらいの椅子と机のセット、あとは新しく挑戦してみたくて硝子細工と、自分の家用にアンティークで可愛い人間サイズのティーカップ2個、上品なレースがあしらわれたクッションカバー。ティーカップはちゃんと対で人間用とミニチュア用があって、もし我が家にお人形さんがいたら絶対にお揃いにしてた。ちなみにティーカップはパウリーが買うと言って譲らなくて、今後俺も一緒に使うからと最後言われてしまったら断る事が出来なかった。
レースに勝って気持ちがデカくなってしまったのか、このお買い物で賞金はすっからかんになってしまった。今なら勝った後にブルーノの酒場でツケを返さずに散財するバウリーの気持ちがちょっとわかる。お金は無くなったけど、それでも心の満腹感の方が大きいから全く悲しくない。
「パウリー、今日は1日ありがとね!すっごく楽しかった!」
繋いだ手をゆらゆらと揺らし、買ったものをホクホクと抱き締めながらパウリーにお礼を言うと、重たいティーカップが入った紙袋を持ってくれていたパウリーは道の途中で立ち止まる。静かに私の名前を呼ばれて、繋いだ手の力がぎゅっと強まった。
「初デートも上手くいかねェし、いつも情けないかもしれねェけど……お前のこと、大切にしたいと思ってんだ。」
太陽は徐々に沈み始めて、パウリーの金髪がオレンジ色に輝いている。真っ直ぐに私を見つめる瞳はいつだって眩しい。触れ合う手のひらにはお互いにしっとりと汗が浮かび始める。
「順序があべこべになって悪かった!おれと付き合ってくれ…!」
真面目で、不器用で、優しい彼の全身全霊の愛の告白。ずっと欲しかった言葉は堪らなく嬉しくて、胸がいっぱいで、今回も泣いちゃいそうだ。大好きな人に人生で2回告白してもらえるなんて、私は幸せ者なのかもしれない。
この胸を締め付けは表に出さないと内側から爆発して死んじゃいそうで、ジャンプして全力でパウリーの首筋に抱き付いた。
「こちらこそ、よろしく!!パウリーのこと、幸せにしてあげる!!」
ぎゅーっと苦しいくらい全力で抱き付いて、大きな声で愛を叫ぶ。きっと耳元で煩いのに、パウリーは嫌な顔せずむしろ嬉しそうに目を細めて笑っていた。
「それはおれのセリフだろうが…!!」
そう言うとパウリーも全力で抱き締め返してくれて、足先がほんのり地面から離れる。
ちょっと苦しいけど、それが無性に幸せだった。
夕日が本格的に落ちてくると、代わりに夕日のオレンジと夜のネイビー寄りのブルーが混ざったような色に辺りが染まっていく。ちょうど裏道で辺りに大きい建物がなく、下り坂になってるお陰で海の向こう側で水平線で夕陽と夜が溶け合う境目がぼんやりとグラデーションになっているのが彼越しに見えてとても綺麗だ。
お互いに抱き合っていた力を緩めて、至近距離で見つめ合う。言うならとても良いムードってやつで、ついに夕日が海に消えていき辺りが暗くなってはきた。だけど此処は外だし、ハレンチ星人のパウリーはしてくれないんだろうなぁとあんまり期待していなかった。しかし予想外な事に、パウリーはきょろきょろと忙しく辺りを見渡してから一瞬触れる程度のキスをしてくれる。
まさかあのパウリーが、裏道といえどこんな街中で、キスしてくれるなんて…!
あまりの衝撃に驚いてポカンとロを開けてたまな私を他所に、パウリーはわなわなと小さく肩を震わせ始める。
「よっっっしゃーーーーー!!」
てっきり自分のハレンチさに叫び出すかと思ったら、大声で叫んだのは歓喜の雄叫びだった。
パウリーは私の背中を抱き抱えるとそのままくるくると360。凄い勢いでで回り始める。遠心力で私の足が宙に舞い、結構良いスピードだからワンピースのスカートがひらひらとたなびいてふくらはぎや太腿に風がきて涼しい。見えちゃうかもだけど、まぁ、もう辺りは暗いし今日はそんなに見られて恥ずかしい下着じゃないし、いっか。
色んな事が気にならないくらい私も嬉しく楽しくなっちゃって、お互いに暫く笑って回り続ける。そのうち流石のパウリーも目が回ったようで、漸くして立ち止まった足はもつれた。そのまま2人してよろけて、良い大人がこんな年してみっともなくそのまま一緒に崩れ落ちるように石畳に倒れ込んだ。
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