happy birthday !!




相澤消太、イレイザーヘッド、高校生の同級生、15年の腐れ縁、プロヒーロー、教職員同期、そして、私の恋人。
今日はそんな言葉で説明できる彼の一年に一度の誕生日だ。
といっても、別に普通の平日で学校はあるし、寮生活を送ってるからどこかにデート行くだの高級なフレンチを食べたりだのは特にない。…消太がフレンチなんて想像できないな。
HRが終わって廊下を歩きながら、今日はどんな風にお祝いしようか考える。プレゼントは用意した、放課後になったら近所のケーキ屋さんに一つずつショートケーキとチョコケーキでも買って半分こして食べよう。明日も仕事だから、改めて週末にひざしでも誘って飲みに行くのも悪くない。

「先生!」

自分でも可愛げがないプランだと悲しくなっていると、名前を呼ばれて意識が戻ってくる。振り返れば、自分が副担任を務めているAクラスの緑谷くんとお茶子ちゃんと、委員長の飯田くんが駆け足でこちらに向かってきていた。

「どうしたの?」
「おはようございます!先生に、折り入ってお願いしたい事がございまして!」

飯田くんが綺麗な90度のお辞儀で頭を下げてくるものだから、思わず笑ってしまう。3人に首を傾げれば、顔を見合わせて緑谷くんが代表するように口を開いた

「Aクラスのみんなで、相澤先生の誕生日を祝いたくて…それで、先生にも協力してもらいたくてお願いしにきました!」

真っ直ぐで、少し緊張した眼差しを向けてくる生徒に不意に目頭が熱くなった。今まで、消太は沢山の生徒達を除籍処分にしてきた。クラス全員の時もあって、それに対してはよくお互いの意見をぶつけ合ったことがある。そんな【相澤先生】が唯一誰も除籍をせずに、そして命をかけて守った生徒達が誕生日をお祝いしたいと思ってくれている。彼氏とか、そういうの抜きにしても今まで学生の時からずっと側で見てきた身として、純粋に嬉しい。
じわじわと胸にいろんな想いが込み上げて熱くなって、思わず並んでいた3人を両手いっぱいに抱き寄せると子供達は丸い目をなおさら見開いた。

「わわっ!」
「もちろん!!寧ろ逆に協力させて!!」

驚いたように皆それぞれの表情を浮かべていたけど、私が大きく何度も頷けばホッとした方に肩を撫で下ろす。その様子はまだあどけなくて、高校生の可愛らしい少年少女で微笑ましくなった。

「それで、私はどうすればいいの?」

持っていたファイルを持ち直して、何でもどんとこいという気持ちを胸を叩いて見せれば彼らは嬉しそうに笑う。お茶子ちゃんに手を引かれながら、職員室に向かう足はまたUターンして 1ーAの教室に踵を返した。



「プレゼント部隊の様子はどうだってー?」
「良いの見つけたから帰ってくるってよー!」
「あー、良い匂いがしてくるー!」
「ははっ、もう少しで完成だぜ!」

放課後になれば、プレゼント担当と飾り付けと、あと佐藤くん筆頭にケーキ担当に分かれてみんなが寮の共同スペースに集まって準備に追われている。みんなが折り紙で一生懸命に作った飾りを壁や窓に飾り付けていくと、いつもの場所は全く違う場所になっていくようだった。若い学生の時や、二十代前半はこんな風に色々手作りしたりサプライズしたり色々していた時期もあったけど、正直三十路に近付けは盛大にお祝いすることなんて少なくなる。飾りもだけど、何よりキャッキャと楽しそうに笑って作業をしている生徒たちが何より可愛くて眩しい。

「いいなー、相澤くんは愛されてるなぁー」
「へへっ!…あ、でも誕生日だし夜予定とかあったかな…?」
「ん?あぁ、相澤くんの事だから別にないんじゃない?寧ろ自分の誕生日なこと忘れてそう」

しみじみとみんなを見渡しながら呟いていると、葉隠さんが姿は見えないけど照れ臭そうに笑った後にハッとした反応をみせる。クラスの子達には、付き合ってる事は言ってないから知らないふりをしながらも手を振ってみせる。本当、消太は自分の誕生日に対して興味関心がないから毎年と言っていいほど忘れてる。私か、それかひざしがお祝いの言葉を言って初めて気付くのだ。まぁ、あぁ、そうか。くらいしか反応を見せないけど。

「ケロ、先生、せっかくのお祝いの席だからちょっとおめかしするのはどうかしら?」
「え?いや、いいよ。私が主役なわけじゃないし」
「でも!ちょっとだけ!髪巻くだけでもどうですか!せっかく髪の毛長いんだし!」
「えー…だって、この後お風呂入って寝るだけなのに…そんなしてもらっても勿体無いよ」
「先生、私似合うと思ってお洋服ご準備しましたの!いかがでしょうか?」
「うわ、これ高そう…って、え、どうしたの?」

梅雨ちゃんがコテンと首を傾げてきたので、冗談かと思って笑って頭を撫でてあげたけど、お茶子ちゃんが待ってましたと言わんばかりにコテを持って飛んでくる。正直、実技の授業もあったし髪もポニーテールにしているからそんな洒落込む気分じゃない。でもキラキラした眼差しで八百万さんもいかにも素材が良さげな洋服を抱えていて、そのまま流されるまま着替えさせられて髪の毛も下ろして女子にあっという間に囲まれてしまった。

「ほら!先生リップの色変えるだけで凄く映える!可愛いです!」
「足綺麗だからもっと足出した方がいいですよ!足!ずっと思ってたんですよね〜!」
「うわ…なんか新鮮…やっぱ若い子のパワーってすごいわね…」

キャッキャと楽しそうにはしゃぐみんなの声をされるがままに目を瞑って聞いていると、終わったのか肩を叩かれた。目を開けると満面の笑みで手鏡を持っているお茶子ちゃんがいて、鏡を覗いたらいつもと違う自分がいて素直に驚いた。いつもメイクをしていないわけじゃないが、ナチュラルテイストだから確かにリップの色合いだけでもだいぶ印象が変わる。八百万さんが用意してくれた白のニットも手触りが気持ちいいし、チェックのスカートも可愛らしい。耳郎ちゃんが言うように、最近あんまり足を出さないようなスカート丈かパンツが多いから、ちょっと気恥ずかしいけど頑張りすぎない感じで悪くない。全ての事に感心して言葉を漏らすと、女子みんなは満足げにハイタッチしたりグッと拳を握ってミッション完了と言いたげにとてもいい表情をしていた。

「おーい!ケーキ出来たぞー!」
「そしたら、そろそろ作戦開始だな!みんな準備はいいか?」

佐藤くんの声と共に、ふわりと甘い匂いも香ってくる。誰かのお腹が鳴った音が小さく聞こえると、飯田くんが元気よく手を素早く構えながら全体を見渡した。あとは、今日の主役のみだ。


「消太!大変!爆豪くんと緑谷くんがまた喧嘩してるの!!」

消太が生活をしている扉を勢いよく叩いて、言葉を投げかける。私がみんなに頼まれたのは、共同スペースに疑われる事なく彼を連れてくる事だった。我ながら、本当にあり得そうな事できっと疑わないだろうからいい作戦だと思う。
少しすれば、消太がラフなスエットだけど首に捕縛布をつけながら出てきた。その表情は静かなる怒りが溢れていてヒヤリとしたけど、一瞬固まって見下ろしてくる。

「……またアイツらか。どこにいるんだ?」
「共同スペースよ!殴り合いはしてたけど、個性は使ってなかったわ!」

ジッと此方を見て動かないから、もしや流石にバレたかと不安になったけれどその視線は少しすると逸らされて歩き出す。慌てて後を追って早足で隣に並ぶと、消太は小さく舌打ちを漏らす。どうにか置いていかれないように一緒に共同スペースへ向かって、消太はその扉を開けた。

「おい、お前ら…」
「相澤先生、お誕生日おめでとうございまーす!!」

中に一歩、消太が踏み入れると同時に大きなクラッカーの音とみんなの声が響く。ヒラヒラと舞う紙吹雪の中で怒鳴りかけた言葉は途中でその音に飲み込まれて消えていった。中途半端に空いた口のまま、また消太は固まっている。成功したと喜んでいる生徒達をみて、状況が理解出来たのかゆっくりと此方を振り返る消太は膨らみ損ねた怒りとちょっと困惑で私を見てきた。

「合理的虚像ってやつよ。たまにはいいでしょ?」
「相澤先生!ごめんなさい!でも、とりあえずこちらへー!」

いつもの彼の口調を真似しておどけてみせれば、少し溜めた後に息を吐き出す。そんな消太の腕を芦戸さんが掴んで、部屋の真ん中へと導いてソファーへと座らせた。上鳴くんと切島くんが、おずおずと様子を伺いながらショートケーキの形の帽子と「アンタが主役」とよくパーティーコーナーで売られている定番グッズを差し出すと、案外抵抗することなくすんなりあの相澤先生が身につけたのでAクラスのテンションは尚更上がっていった。

「先生!これクラスからのプレゼントです!」
「…あぁ、悪いな。」

プレゼント係だった緑谷くんが、大きなラッピングされた袋を差し出して消太が驚いたように目を開いてから受け取る。みんな気になるのか、うずうずとその袋を見つめているので消太がゴールドのリボンを解いて中身を机に広げ始めた。

「これはアイマスクで、こっちが湯たんぽです!両方レンジで温めるタイプで、何回でも使えます!」
「あと、枕元に置くアロマキャンドルです。ラベンダーなどのハーブの香りなので、しつこすぎないのでリラックス出来ると思いますわ」

アイマスクにふわふわのタオルで包まれている湯たんぽは、きっと消太の個性を配慮しての緑谷くんの案だろう。八百万さんが嬉しそうにプレゼンするキャンドルも、ふわりと優しい香りがしてくる。他にも、よく飲んでいる栄養補給のゼリーだったり、猫のキーホルダーだったり消太らしい物がたくさん机の上に並べられていく。ふとした時に、部屋の電気が消えて空間全てが真っ黒に染まった。

「お、きたきた…!」

姿は見えないけれど、瀬呂くんの声がする。暗闇の中で、小さい光が見えたと思ったら佐藤くんや尾白くんが両手にケーキを持ってやってきて部屋が甘い香りに包まれた。
みんなの、ハッピーバースデーの歌と共に机に置かれるケーキは、スポンジで猫の形に作られていてチョコレートに綺麗にコーティングされている。ゆらりと揺れる小さなロウソクの火を、目を細める消太が息を吸って吹き消せば、みんなの拍手とおめでとうの声が響き渡った。

「一応、相澤先生用のケーキは甘さ控えめのチョコケーキにしてみました」
「気遣いありがとな、佐藤。勿体無くて食べにくいな」

電気がつけば、さっきの可愛らしいケーキが顔を出す。照れくさそうに頬をかく佐藤くんを見て、また消太はしみじみとケーキを見つめていた。

「いくぞ、みんな!ハイ、せーの!!」

佐藤くんのまだ沢山あるケーキに、みんなが嬉しそうに集まっていたが飯田くんの掛け声で慌ててまた此方に向き直る。目線でお互いにアイコンタクトをして、みんなが息を吸い込む音がすうっと小さく聞こえた。

「相澤先生、いつもありがとうございます!お誕生日、おめでとうございますー!」

揃えられた言葉で、やってやったと満足げな少年少女の笑顔は本当に眩しい。

「ありがとな。いい誕生日になったよ。」

消太に視線を向ければ、涙なんてものははなかったけれど、とても優しい顔をしていた。




「それじゃ、ちゃんと時間になる前に撤収するんだぞ。」
「はーい!おやすみなさい!」

みんなでケーキを食べて、買ってきていたお菓子やジュースを飲んで一通り楽しめば消灯時間が近付いてきてお開きになった。共同スペースを二人で出て教員寮に戻りながら、隣の腕いっぱいにプレゼントとケーキの帽子を抱えている消太を見ると自然と笑顔が溢れてしまう。

「愛されてるわね、相澤先生。」
「あぁ、そうだな。」

さらりと、そんな言葉を返してくるから尚更可愛らしい。

「それで?」
「ん?」

何だか此方の方が嬉しくて仕方なくて、頬を緩めているといきなり声をかけられて消太を見上げた。その瞳は真っ直ぐ私を見下ろしていて、話の流れがわからなくて首傾げてみせる。

「お前からはないのか?」

その言葉でも、一瞬何のことかわからなかったけど少しして理解した。ポケットの中に入れていた細長い箱を出して、消太の腕の中のプレゼント達に仲間入りさせて一緒に袋に入れた。

「はい、これ。そろそろネタ切れしそうだけど」

流石に15年祝っていたら、欲しいものとあげるものが尽きてくる。今年は、スーツを着る機会が多かったからネクタイとタイピン。飾るものより、実用的に使えるものの方が彼は喜ぶのは長年の付き合いで知ってるから。でも、それを渡してもなお此方をただただ見つめてくるからどうしたのだろうかと謎が深まる。

「お前は?」
「え、なに?もうないよ?」

普段、そんなに物やプレゼントなどに貪欲に執着したりしないから、この反応は珍しい。少し心配になりながら、どうしていいかわからなくて眉を下げていると、片手に荷物を持ち直して下ろした私の髪に触れてくる。

「私がプレゼント、的なのじゃないのか?」
「は、はぁああ!?」

思わず、消灯時間前の廊下で大きな声が出てしまった。慌てて口を噤んで消太を見やるけれど、当の本人は全く反省してない様子で私の巻いた髪の毛をくるくると指先に絡めていた。

「何で、そうなんのよ?!」
「メイクも服装も、いつもと違うだろ」
「そ、それはお茶子ちゃん達が勝手に…」

そのセリフで漸く合点がいく。改めて、普段と違う服装をしてるのを思い出してなんだか今更気恥ずかしくなってきた。目を逸らすけれど、それを阻止するように頬を撫でられて顔ごと消太の方を向けられてしまった。

「たまには、そういう足出すスカートも悪くないな。似合ってるよ。」
「そりゃ、どうも…」

ジワジワと、顔に熱がこもっているのがわかる。別に、今までおめかしをして気合を入れてデートをしたことあるし、褒められるのだって初めてじゃない。でも、改めてこうやってそんな扱いを受けるのは今更なんだか照れてしまう。顔が真っ赤になってるのが嫌でもわかる中で、消太は喉を鳴らして笑うものだから悔しくなって睨んでおいた。

「バカにしてるでしょ」
「いや、アイツらの作戦通りだなと思っただけだ」

どういう意味なのかわからなくて、言葉を返そうとしたけれど消太と視線が絡んでそれは飲み込む。その視線は生徒達に向けていたみたいに優しくて、でもどこか意地悪そうでそして愛がこもっている。憎らしいけど、私の好きな消太の顔。

「それで、プレゼントしてくれるのか?」
「…キス、してくれたら、考える。」

そのまま流されるのは癪で、廊下だから彼の性格からしないだろうと油断していたけれど、ニッと口角をあげると意地悪そうに目線を細めた彼は軽く口付けてくるもんだから、私は誕生日ボーイの為に大人しく白旗をあげる事にした。

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