午後2時に微睡んで、


ふわふわと、意識が浮上してくる感覚がとても気持ちよくて、瞼の向こう側に朝日の光をどことなく感じるが起きるまでの気力がまだ沸いてこない。人は熟睡している時よりも、ウトウトしてる感覚の方が気持ちが良いのだと何かのテレビで言っていた気がする。

「ん……」

二度寝してしまいたいけれど、こんな事考えているあたりもう意識は覚醒してきて、諦めてゆっくりと目を開けた。窓から差し込む光は明るいが、朝日ほど眩しく差し込んでおらずもしかしたら昼過ぎなのかもしれない。もぞもぞと布団から顔を覗かせて壁にかかった時計を見るともう1時過ぎていて、すっかり昼食も逃してしまったようだった。欠伸を漏らしながら起き上がろうとしたら、グッと後ろに体が引かれてそれ以上身動きが取れずに布団の中に戻っていってしまった。
いつも1人で寝ているシングルベットに、私以外の寝ている彼。起き上がれない原因は私の腰に巻かれた彼の逞しい腕のせいで、寝起きの頭では何でか一瞬把握出来なくて固まってしまった。我が家の白いシーツにさらりとしたブロンドの髪が散らばっていて、長い睫毛が影を作っている。その寝顔はなんというか、まるで芸術作品みたいにとても綺麗だ。 

「ゆ、夢じゃ…ない…」

やっと思い出した。昨日、いや今日の朝方にひざしさんが家に来てくれて、そして想いが通じ合ったんだ。そうするとお互いに力が抜けて睡魔が襲って来て、仕事帰りのひざしさんをとりあえずお風呂に押し込んだのが何時間か前。大好きな人のお風呂の音に聞き耳をたててるのは中々に緊張してしまって、ベットで悶えていた所から記憶がないから、きっとそのまま寝落ちしてしまったのだと思う。お風呂上がりのベストショットを見れなくて死ぬほど残念だが…でもこうやって寝顔を見れたからそれだけでも幸せ過ぎるくらいだ。

「…かっこいいなぁ…」

眠っているひざしさんに恐る恐る手を伸ばして、そっと頬に触れてみた。ヒゲも綺麗にお手入れされていて、頬も男性のものと思えないほど気持ちがいい。ゆっくり撫でてみると、ピクリと瞼が震えてそのまま私を抱きしめる両腕の力がぎゅっと強められた。

「んー…」

起きたかな、と焦ったけどその様子もなく規則正しい呼吸で胸が動いてる。あ、ヤバイ。今のは可愛かったキュンときた。幸せで胸がいっぱいで頬がだらしなく緩んでしまうのを隠せないまま、しばらく観察していたけれどもうお昼過ぎてるから仕方なくひざしさんが起きないようにゆっくりと片手ずつ腕を解いて脱出した。

「私今日死ぬんじゃないかな…」

叫び出したい気持ちを必死に抑えて、キッチンでお湯を沸かしながら一人悶える。好きだった人と付き合うって、こんなに幸せなのか。胸に手を当ててみるけれど、今だにドキドキとうるさい。へへへとだらしない笑みが溢れてしまって、気を張ってないと包丁で怪我しそうなくらい浮かれてしまっていると思う。しばらく一人で暮らしていたのもあるから、こうやって人の為に食事を用意するのも久々なのでそれ自体も凄く嬉しい。

「おはよ、」
「ひゃぁあ!?」

鍋に具材を入れて、味噌を溶かしていると不意に耳元に少し掠れた声が響いて思わず声を上げてしまった。後ろを振り返ると、予想以上に近い位置にひざしさんの顔があって効果音が鳴るんじゃないかってくらいに顔が熱くなる。なんだか力が抜けて、しゃがみこんで真っ赤な顔を見られないように両手で覆って隠した。

「ご、ごめんなさい…」
「ソーリー…そんなに驚くとは思ってなかったんだ」

蚊が鳴くような小さい声で謝罪すると、困惑したような声が降ってくる。穴があったら入りたくて、唸っていると見えないけどひざしさんが視線を合わせるようにしゃがみ込んだのが気配で伝わってきた。

「なぁ、顔見せて?」

声色は、とても優しくて顔どころか体全体が熱くなる。ゆっくりと頭を撫でて、顔にかかった髪を耳にかけてくれるからそれだけで私は有頂天になってしまう。でも、絶対締まりのない真っ赤な顔してるからこんな顔を見られるのが恥ずかしくて抵抗するように首を振った。

「い、いやです!私スッピンだし…!」
「昨日も見たろ?それに、全然変わらねぇって!」

頭上でひざしさんが笑ってるのが伝わってくる。立ち上がった気配がして、恐る恐る手を退かそうと思った途端グインっと体に浮上感とともに視界がいきなり明るくなって目の前が眩しくなった。

「ヨイショ、っと」
「ひぃ…!」

それはひざしさんが私の脇に手を差し込んで抱き起こしたせいで、ひざしさんと同じ目線になってるから足は床についてなくて宙ぶらりん状態だ。あぁ、これは職場で転けた時のデジャブだなぁと頭の片隅で思う反面、改めてその高さに声を漏らしてしまう。そして数週間前と違う寝起きのひざしさんが笑っていて、その顔が近付いたと思うとチュッと可愛いリップ音が響く。

「おはよ、マイスイートレディー」

目を細めて笑うひざしさんは、もう言葉に言い表せないくらいにカッコいい。ドクドクと煩い心臓が全身に血液を運んでいて全身が熱いし、鼓動が激しくて最早痛い気がしてきた。

「もう…ギュンギュンする…」
「ギュンギュン!?キュンキュンじゃなくて?」
「キュンキュンの最上級です…」

パジャマの胸元を抑えて真っ赤な顔で俯いてると、その原因となっている彼は楽しそうに笑いながら私の皺の寄った眉間にもキスを落としてくれる。私はこの人に本当にキュン死にさせられるかもしれないと、本気で思った。ゆっくりと床に私を下ろしてもらうと、丁度鍋が沸騰していたので深呼吸しながら少し火を弱めてお玉で具材をかき混ぜた。

「ひざしさん、我が家ご飯と味噌汁派なんですけど大丈夫ですか?」
「寧ろ好きだぜ、ありがとな」

料理に逃げているとどうにか心が落ち着いてきて、振り返ろうとするとその前に腹部に腕を回されて後ろから私の頭に顎を乗せてひざしさんが手元を覗き込んでいる。好きって言った対象は食事のことだけど、大好きな声でその単語が聞けるだけで単純に嬉しくなる。コンロの火を止めて、お味噌汁をついでご飯用の茶碗も取るために上の棚に手を伸ばすと、それより先にひざしさんがその扉を開けてくれた。

「お茶碗、これでいいか?」
「ん、はい。ひざしさんご飯どれくらい食べます?」
「んー、昼だから程よく食おうかな」

少し前の自分がきっと想像できないくらい大好きな人と他愛もない平和な会話をしながら、なんだか、新婚さんみたいだな、とか。幸せだな、とか。そんなふわふわした気持ちばかりで、幸せすぎるくらいだ。緩む頬を引きしめられないまま、軽く一品で卵焼きを作るためにボールに卵を割る。ひざしさんとの距離がずっと近いから、破れて卵焼きからスクランブルエッグに変更になったので、今日はお料理勉強という人生の課題が増えた日だった。


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