想いが詰まったラブレター
正直、言おうと意識したら今までにないくらい緊張したし、俺様としたことが少し早口にもなってしまった。コーナー移動の音楽の間に、今回の事はマジなサプライズだったので打ち合わせで伝えてなかったマネージャーやスタッフにもどういうことだと死ぬほど問い詰められた。悪いカミングアウトではなかったので事件にはならなかったが、みんなの好機の目とマシンガンのような質問から逃げるのはなかなか大変だった。ノリが良くて一緒にラジオを作っていく面では最高のメンツだが、今回ばかりはいろんな意味でドッと疲れた。
いつもならばこのまま寝てしまいたいところだが、今日は眠気は一切くる事なく目が冴えている。ポケットの携帯を出すと時計は5時42分。もう外は明るくなってきていて、期待を込めてメッセージを起動させた。
『起きてるか?』
いくら彼女が俺のファンでいつもラジオを聞いてくれてるからって、もう寝ているかもしれない。いや、その前に今日聞いてるかもわからないし、途中で寝落ちしてるかも。微かな期待を込めて送信された文字を見返して、画面を閉じようとした途端にポコンと通知を知らせる音が響いた。思わず携帯を落としそうになってしまい、慌てて両手で持ち直す。
『はい。』
短いけど、返ってきた事に安堵する。そうと分かればスタッフに捕まらない内に荷物を持って急いで楽屋を出た。玄関ホールへ早歩きで降りながら、1秒でも時間が惜しくて忙しく携帯に指を滑らせる。
『今からいく。』
『わかりました。』
それだけ用件だけ伝えて、尻ポケットに携帯を押し込んで外に飛び出た。いつもはタクシーがいるのに、今日はタイミングが悪く一台もいない。少し待っていればまた来るかもしれないが、そんな時間さえも惜しい。彼女は、俺の渾身の想いを聴いてくれただろうか?少しでもいいから、俺と同じ気持ちでもしいてくれてくれるなら。一刻も早く会いたくて、あの真っ赤な顔を見たくて鞄を持ち直して焦がれる彼女の家へと駆け出した。
□■□
じっと廊下に座り込んで、ずっと鳴り響く自分の胸の音を感じながら玄関先を見つめてかれこれ20分ちょっと経った。ラジオが終わった時は、正しく放心状態でずっとソファに座ったままだった。机に置いている携帯をジッと見てもうんともすんとも言わなくて、やっぱり気のせいだと落ち込む自分と、それでも期待してしまう自分が交互に顔を出して、もう寝ようかと諦めた時にタイミングよく通知音が鳴り響いた。
『起きてるか?』
それだけだったけど、息が詰まりそうだった。可愛くない短い返事をして、彼が来ると返信がくるとウロウロ部屋を暫く落ち着きなく彷徨ってから、今はずっと廊下で座ってる。待っている時間は物凄く長くて、もう一時間以上経ってるような気分だ。朝を知らせる鳥のさえずりが外から小さく聞こえてきて、膝を抱えなおした時にチャイムが鳴り響く。ドキリとまた胸が鳴りそれを落ち着かせるように深呼吸して、ゆっくり玄関を開けると扉の先には息が上がっているひざしさんがいた。
「お疲れ、様です。」
「…あぁ、ありがとう」
どうにか裏返らないように声を振り絞って呟けば、ひざしさんは呼吸を整えるように呼吸を深く吐き出した後に玄関に一歩踏み入ってくる。二人の間の距離が縮まって、扉が閉まるタイミングと同時にそのままひざしさんに腕を引かれて抱き締められた。
「…冷てぇ。布団入ってなかったの?」
「寝ちゃうかな、って思って…」
腕を回していたひざしさんの大きな手が、私の背中を心配そうに撫でてくれるのでそこからジワジワと熱を帯びてくる。それでやっと体温の差を実感するのと同時に、ひざしさんの体温を尚更感じてしまう。
「あー…ごめん。遅くなった」
顔が見えないけれど、彼が気まずそうに笑ってるのがわかる。胸の中で首を振ると、ふんわりとひざしさんの香水の匂いと汗の匂いがして、なんというか男性の香りに今更ながら緊張してしまった。一人で体を強張らせていると、体が少し離れて顔を覗き込まれるので思わず身を逸らしてしまった。
「…ラジオ、聞いてた?」
やっと視線が合うひざしさんは、少しだけ不安そうな顔をしていた。きっと私も同じ表情をしているんだと思う。私も深呼吸して、小さく頷いて見せるとやっとひざしさんは詰まっていた息を大きく吐き出して肩の力が抜けたように項垂れた。
「俺、ずるいよなぁ。こんな遠回しで」
「そ、そんなことないです!」
気が抜けたような顔のひざしさんに思わず大きな声が出てしまって、2人で驚いたように顔を見合わせてから、笑った。少しの間笑いあっていて、ふと視線が絡むと彼の目線が熱を帯びていて息を飲む。ひざしさんの細いけど大きな指が、私の頬をゆっくりと撫でる。
「怖かったんだ、また俺の隣からいなくなるんじゃねぇかって」
「私は、いなくなったりしませんよ」
「…はは、そうだな」
寧ろ、ひざしさんの方がいなくなってしまいそう。だって、本当は生きる次元も全く違う人なのに。ひざしさんは小さく笑って、そして真っ直ぐ見つめてくる。相変わらずエメラルドグリーンの瞳はとても綺麗で、吸い込まれて溺れていってしまいそうだ。
「好きだよ」
ずっと聞きたかった言葉で、でも聞けなかったと思っていた言葉。そのたった2文字のその言葉がジワジワと胸に広がってきて、思わず涙が零れた。
「エッ!?なんで!?」
「だ、だってぇ…っ」
私の涙にひざしさんがさっきまでの雰囲気が嘘みたいに驚いたように目を見開いてワタワタと慌てた様子で次々に溢れて来る涙を指先で拭ってくれる。それでも私の涙は止まる事はなくて、暫く嗚咽を漏らして鼻を啜っていた。やっと涙が止まってくると、涙を拭ってくれていた指先が優しい手つきで目尻を撫でる。そういえば、出会った時からひざしさんは目尻を撫でてくる気がする。もしかしたら彼の癖なのかもしれない。
「ドッキリ、じゃないですよね…?」
「ドッキリで、全国ネットに配信しねぇって!」
冗談でそんなこという人だとは思っていないけれど、出会った頃から今だって私の都合のいい夢じゃないかと疑ってしまう。だって、最初お出かけした時は本気で怪しんで何回もカメラを探した。おずおずと見上げて問いかければ、すぐに笑って首を振ってくれた。
「それで、返事は?」
目尻を撫でてた指先が、そのまま頬に触れる。もうひざしさんの手が暖かいと思わないほど、私の頬の方が熱くなっていた。ずっと想って周りにはよく言っていた言葉は、いざ言うとなると億劫でなかなか喉から出てこない。ずっと唸ってる私を、ひざしさんはずっと待っていてくれるので意を決して息を吸った。
「私は、ずっと好きです。」
ずっと、想ってた。3年前に心を救われてからずっと好きだった。やっと伝えられた気持ちは、言葉に出すと不思議なくらいに胸の中に好きって気持ちが沢山溢れ出してきて、自分で知っていた感情なのに驚いてしまう。私の言葉を聞いたひざしさんは、優しく目を細める。あぁ、この顔も本当に大好き。
「それは、プレゼントマイクを?」
わかっているくせに、ひざしさんは首を傾げて問いかけてくるので首を振ってみせる。そっと手のひらでひざしさんの胸元に触れると、彼の鼓動がトクトクと早くて私と同じ事に安心した。
「プレゼントマイクも、山田ひざしさんも…です」
その一言に、満足そうに、そして嬉しそうにひざしさんは笑ってる。知らなかった、私は初めて見るこの表情も好きみたいだ。
「ok 、世界一愛してやるよ」
耳元で囁かれた言葉があまりにも甘くて脳に響いてくるから、腰が抜けて死んでしまいそう。砂糖菓子みたいに甘い空気に負けないくらい、視線が絡まるとそのままどちらともなく誘われるまま口付けた。
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