いっそこの想いも全部バレてしまえばいいのに。
普通の会社員などと違って休日は土日休みではなく不定期な故に、私たちには華金なんてものは存在せず仕事に追われるだけの日々だ。でも、今回は次の休みまで毎日ソワソワと浮き足立ってしまった。前日はいつも通り残業して帰りが遅かったが、いつもは力尽きて寝落ちしてしまう所をちゃんと湯船を溜めてゆっくりと浸かってなんなら半身浴なんてものをした。お風呂から上がると久々にパックをして、普段塗らないせいで全然減ってないボディークリームなんかも引っ張り出して浮腫みをとるように入念にマッサージもするくらいに、本当、典型的に浮かれ過ぎて逆に恥ずかしさもどこかに飛んでいっているくらいだ。
「変じゃないかな…」
あんまり熟睡は出来なかったけれど、いつもの出勤の時間よりも長くは眠る事ができた。前日に悩みに悩んで用意していた服を身に纏って、何度目かわからないほど鏡の中の自分を見直した。シアー素材のトップスを水色のプリーツスカートにインして、髪はいつも味気なくお団子で一つにまとめているので今日は下ろして少し巻いてみた。いつもは何もつけていない耳に揺れるデザインのデイジーの形をしたシルバーピアスをつけて、メイクも仕事用じゃないラメの入ったシャドウに。そんなに変なところはない、はず。でも、仕事の自分と比べると気合を入れすぎと思われてしまいそうで心配になってしまう。そんな事をしている内に、朝早く起きたはずがあっという間に待ち合わせの時間が近づいてきていて慌てて普段よりもヒールの高いサンダルを足にひっかけて玄関を飛び出た。
「お疲れ様です…!」
待ち合わせの駅に近付くにつれ、心臓がバクバクと騒々しい。もしかしたら待ち合わせ場所にいないかもしれないと謎のドッキリに怯えていたけれど、その場所には夢にまで見そうな位に思い描いていた人物が立っていたのでまた心臓が跳ねた。少し駆け足で彼の元に向かってかけた声は、情けなく震えてしまった。
「お疲れ様です。…といっても、私も貴女も今日はオフですけどね」
携帯に視線を落としていた七海さんが顔を上げて、目線がかち合う。その立ち振る舞いは恋愛フィルター抜きにも絵になった。いつものスーツとは違い、薄手のテーラードジャケットを羽織っていてパンツはいつもよりカジュアルなフォルムだがやっぱり大人っぽい色気は止まる事を知らない。普段はきっちりセットされている髪型は、ワックスの種類が違うのかセットの仕方が違うのかいつもよりふんわりスタイリングされていて少しだけ前に落ちている前髪が色っぽいし、サングラスは流石にお休みなようで代わりのかけている眼鏡はいつもは隠れている綺麗な瞳を曝け出していた。眩しい、眩しすぎる。思わず惚けて無言で見上げていると、七海さんの目が柔らかく細められた。
「いつもと雰囲気が違いますね。とてもお似合いですよ」
「あ、りがとうございます…」
お世辞だとわかっているけれど、そんな言葉と七海さんに耐久性のない私は簡単に照れてしまう。熱くなった体を冷ます為に耳朶に触れると着けているピアスが揺れた。深呼吸を繰り返しながら足元に視線を移した先には、私より大きいサイズの七海さんの足もあった。いつもと違う革靴はとてもピカピカで、七海さんの真面目さを写しているみたいだ。
「さて、いきましょうか」
「はいっ!」
返事をすると思ったよりも大きな声が出てしまって恥ずかしくなったけれど、七海さんが少しだけ口元を緩めて腕時計に視線を落とした。仕切り直して、今日の目的の場所に向かうべく二人で足を進めながら、私は距離感を掴みかねてとりあえず人一人分距離を空けながら歩いた。
「このお店、初めて来ました!」
「それはよかった。ピザが美味しいですよ」
七海さんは今日ランチに誘ってくれた。お店も全部任せて下さいとの事だったので、七海さんの事だからきっとお洒落なところだと身構えてあんまりカジュアル過ぎない服装を選んだけど正解だった。到着したのは小洒落たイタリアンバルで、カウンター席や窓際のテラス席など広々とした店内はお昼時なのもあって満席のようだった。店内の真ん中には大きな木があり生え枝が席に伸びていて、その奥には大きな釜戸も見える。キョロキョロと周りを落ち着かなく見渡していると、定員のお姉さんがメニュー表を持ってきて微笑んでくれた。
「ご来店ありがとうございます。当店はご利用ございますか?」
「はい、何度か。」
七海さんの慣れた様子に店員さんはありがとうございますと頭を下げて立ち去っていった。メニュー表を開けるとメインのページにベースのピザの味と、トッピングが季節の野菜からベーコンやチーズなど何種類も載っている。
「こちらからトッピングを三つ選んでください」
「えっ、自分で選ぶんですか?…トッピング、悩んじゃいますね…」
机の上のメニュー表の欄を七海さんの長い指がコツリと叩く。弾かれたように顔を上げると七海さんはメニューじゃなくて私に視線を向けていてパチリと目が合った。それにまた慌てて手元に視線を落とすと、トッピングは本当色々種類がある。ドライトマトやキャラメルオニオンにズッキーニ、チーズだって燻製のものや無難にモッツァレラもある。
「小さいものを二つ頼んで、違う味を頼みましょうか。何が気になりますか?」
「どれも美味しそうで、よくわからないです…」
メニュー表と睨めっこをして唸ってみても全くベストな組み合わせが思いつかない。それ程どれも美味しそうだった。見兼ねた七海さんが助け舟を出してくれたけれど、それでも私にはよくわからなくて困ってしまい眉を下げて顔を上げれば、七海さんは普段の仕事の時には見せないような優しい目をしてた。
「それでは、苦手なものはありますか?」
「あんまりないです!…でも、パクチーは少し苦手です」
「わかりました。それではオススメの組み合わせで大丈夫ですか?」
「お願いします!」
そう言って七海さんが軽く手をあげると様子を伺っていた店員さんがすぐに来てくれた。前菜やピザのトッピングを選んでくれるその声を聞きながら、またメニュー表に視線を落とす。ピザだけじゃなくて、全てが美味しそうだ。メイン料理のアクアパッツァも惹かれるけど、お肉も十二時間煮込んでるって書いてるからきっと味が染み込んでて美味しいんだろう。でも、こんな時にしかお魚って中々家庭で自主的に食べたりしないし、摂取したい気もする。あ、カルパッチョも捨てがたい。
「それでは、メインは肉にして魚はカルパッチョで取りましょうか」
…まるで心の声を聞かれていたかの様に的確な事を言われて、もしや声に出していたのかもしれないと慌てて両手で口を覆った。いつの間にか七海さんは注文をし終わった様で、店員さんが頭を下げて厨房へ戻っていってしまった。
「貴女はわかりやすいですから。」
まるでネジの止まった人形みたいに固まっていた私に七海さんが目を細めてメニュー表を静かにパタリと閉じた。喜怒哀楽じゃなくてお肉食べたいお魚食べたいって気持ちもわかっちゃうの?それって凄くないか?口を覆っていた手で表情筋を確認する様に頬を軽くマッサージしていると、ふと店員さんが注いでくれた炭酸水を七海さんが飲んでいて首を傾げた。
「七海さんは呑まれないんですか?」
「えぇ、今日はお酒は抜きでいこうかと」
七海さんの事だから、お洒落にこの料理は白ワインが合います、みたいに当たり前に呑むんだと思っていた。この後仕事があるのかな?そう言う事なら申し訳ないなぁなんて思ってたら、今日はオフですよ。って返事が返ってきた。どうやら本当に七海さんには私の思考回路がバレバレらしい。
「失礼します、こちら前菜になります」
先程と変わって短髪で爽やかな男性の店員さんが小さい器を何個か持ってきてくれた。その中には新ジャガをオリーブオイルでカラッと揚げたものや、ブロッコリーを岩塩で味つけたものに紫タマネギのマリネなど季節のお野菜が一口ずつ乗っていて色とりどりだ。二人で手を合わせて早速フォークを持って食べ始めると、どれもシンプルに味付けされており野菜本来の味がしてとても美味しい。忙しい日々で不摂生をしている自信の体には一番染み渡って、思わず口元が緩んでしまう。
「お野菜ってしみじみ食べると美味しいですよねぇ」
「なかなか3食バランス良く食事はできませんからね」
コンビニのサラダなどとはまた違う温かい味で、じんわりと胃と心に広がってくる様な優しい味だ。しみじみと味わっていると、七海さんも頷いてくれて改めて呪術師の皆さんはもっと大変なんだよなと彼らの苦労を実感する。
「七海さんは、自炊されるんでしたっけ?」
「えぇ、時間があれば行うようにしています。」
美味しくて前菜はすぐ無くなってしまって、お皿を下げてくれる店員さんに会釈をする。炭酸水を飲みながらふと五条さん達から聞いたことを問いかけると、七海さんはフォークを綺麗に置いて手元にあった視線を此方に上げた。
「貴女は?」
「まぁある程度にはしますけど、七海さんと違って本当庶民的な料理ばかりで…忙しい時はコンビニなど…」
「私は庶民的な料理じゃないと?」
「あ、いや、…はい。七海さんが卵かけご飯とか食べてるイメージないです」
「なんですかそれ。私だって食べますよ。」
次にカラフルなトマトと共に盛られたカルパッチョが運ばれてきて、サーモンは新鮮なものなようでみずみずしくやはりこれも美味しい。七海さんのキッチンはきっと綺麗な大理石で食洗機も元から備え付けてられてるような綺麗なお家なんだろう。ハーブとかも沢山揃えてそう。このカルパッチョも七海さんの手にかかれば普通に食卓に出てきそうだ。それに比べて私は築三十年以上の1DKだし、自分用のご飯なんて洒落てるとは無縁で丼に全部盛り付けてしまう事の方が多い。
何となく申し訳なくなって苦笑いを溢していると七海さんがちょっと意地悪な質問してくるから、怒らないかとおずおずと本心を答えれば少しだけ目を開いてからふっと吹き出して小さく笑った。わ、わぁ…!七海さんて吹き出して笑うのか…!
思わず凝視してると七海さんが何か言葉を発するために口を開いたけれど、ちょうどメインの食事が運ばれてきてお互いにそちらに視線を移した。フィレ肉が赤ワインベースのソースで煮込まれている料理は盛り付けもだが全体的に食べる前から絶対美味しいって確信がある。お肉をカットするのもフォークがいらないんじゃないかってくらい柔らかくて、ソースを絡めながら口の中に運んだ。
「お、お肉が…!お肉が溶けました…!」
「それはよかった。美味しいですか?」
「こんな美味しいお肉、初めて食べました…!」
本当にお肉が溶けるってあるのかと驚いて目を見開いて興奮気味に何度も頷くと七海さんも早速食べて美味しいですね。って口元を緩めた。食事はこんなにも心も体も幸せにしてくれるなんて、日々労働で忙しい体はすっかり忘れていた。せめてここの料理の様に近付けるように手始めにこの可愛い食器から揃えてみようかな。どこに売ってるんだろう。
いろんな角度から皿やコップなどの食器を眺めていると、スレートプレートに盛られたピザが運ばれてきて満足しかけていたお腹もその匂いを嗅いだらきゅぅっと鳴る。マルゲリータとクアトロピザはまた違った魅力があって、どちらから食べるか悩ましい。綺麗に切り分けられたピザを七海さんはマルゲリータから手に取ったので、私はクアトロピザからいただくことにした。チーズがとっても伸びながらどうにか齧り付くと、色々なチーズの濃厚な味が口の中で広がった。
「釜で焼くピザって、こんなに美味しいんですね!」
「気に入ってくださって安心しました。」
後に食べるより、チーズはどちらかといえば重たいから先に食べて正解だったかもしれない。サクサクだけどもっちりもしていて、どの感触も飽きなくて一切れなんてペロリと食べてしまった。
「知っていましたか?イタリア人はピザの耳を食べないんですよ」
「えっ!?こんなに美味しいのに…?」
「イタリアの方々は、フォークとナイフで食事するんです。なのでメインに食べるのは生地の部分なんです」
「へー…折角美味しいから、勿体ないですね」
七海さんはクアトロピザに齧り付きながら、でも喋り方や動作は綺麗に丁寧にお話してくれる。そんな様子は、フォークとナイフを使うイタリア人の人達に負けないくらいお行儀がよく感じた。
「デザートは入りますか?」
あっという間に食事は胃袋に入って、店員さんが新しく持ってきてくれたお手拭きで互いに手を拭いてると七海さんに声をかけられる。正直、今は腹八分で程々には溜まっているからここで辞めた方が苦しさなどは感じないかもしれない。しかし、最初にメニュー表を見た時にデザートの欄を見てしまったから心惹かれる自分もいて、ちょっと曖昧に歯切れの悪い返事をこぼすと七海さんがメニュー表を開いて見せてくれた。
「…ちょっと、気になります」
「甘いものお好きなんですね」
「恥ずかしながら…プリンが1番大好きです。これにします!」
食いしん坊だと思われてしまったかもしれないと心配になったけど、ここまで気を使っていただいたならばと当店自慢と大きく書かれたプリンの欄を指差した。気付いた店員さんが此方に来てくれたので、七海さんは私のプリンとあとチーズケーキも注文してくれる。デザートがくるまでの間、また少し雑談していた。お休みの日何をしてるのか、好きな食べ物は何か、ドラマや本は読むのか、なんて、本当普段の呪霊なんて暗いものが全くない話達。まるで私たちの仕事の内容を忘れるくらい普通の会話で、純粋に七海さんの事を知れるのはとても嬉しい。頬が緩みっぱなしなのを隠せないでいると、カチリと七海さんと視線が絡んだ。
「…ランチに誘ったのは、いきなり夜だと貴女は緊張しそうだったので昼時にしました。」
唐突もない話に、一瞬何のことかわからないでパチリと瞬きする。次に目を開いたときにも七海さんとは目があって、サングラスをしていないその瞳はゆっくり細められる。
「次は、夜に誘っても?」
「は、はい……」
いきなりその声も視線も全てに普段話してる時とは違う熱を感じて、そういえば七海さんと食事に来てるんだという事実に今更体が熱くなってきて語尾が小さくなってしまう。でも七海さんはその言葉をきちんと聞き取れたようで、満足そうに小さく笑った。
ソワソワと何とも言えない空気の中、タイミング良く店員さんがデザートを持ってきてくれたのでそちらに視線を移すことにした。プリンは硬めのプリンでカラメルのほろ苦さとプリンの卵黄の濃厚さがとてもバランスが良くてやっぱり正解だった。七海さんが注文したチーズケーキは表面をバーナーで炙られているバスク風のもので、そっちも美味しそうだ。次来た時はそっちにしようかな。
「半分どうぞ」
「え、そんな、大丈夫ですよ!」
私があんまりにも見過ぎでいたのか、七海さんが食べかけのチーズケーキの皿を少し私の方にズラしてくれた。流石に男性と同じ量の食事を摂ってデザートまで横取りしたら本当に食いしん坊過ぎる。両手と首を左右に振るが、七海さんはそれが気に食わない様で一口分フォークで切り分けて器用にその上に乗せると、私の方に差し出してきた。
「こう食べさせるのと、自分で食べるのどちらが良いですか?」
七海さんはきっと私が恥ずかしがって食べないって知ってるから、わざとそうやって聞いてきているんだろう。意外と紳士的な大人オブ大人の七海さんは意地悪らしい。振り回されてばかりで何だか悔しくて、フォークに乗ったチーズケーキにパクりと少し勢いをつけて齧り付いた。
「お、美味しいですね…」
意気込んだくせに、私も慣れない行動をしたせいで結局吃ってしまった。七海さんは驚いた様に目を見開いて固まっている。冗談に乗っかってしまうのは流石に痛い女過ぎるだろうかと焦ったけれど、七海さんはフォークを置くと少し身を乗り出してきた。
「そちらも一口いただいても?」
そちら、というのは私のプリンでしかなくて。これって間接キスじゃないかと悶々と今更思うけれど、七海さんは真っ直ぐ此方を見て揺るがなそうだ。腹を括って手が震えないように一口分掬うと、おずおずと彼の方へスプーンを差し出した。プリンを意外と大きい口でパクりと食べるときに、赤い舌がチロリと見えた。少し味わった後にその舌で余韻を味わう様に唇を舐めるので、本当に同じものを食べてるのかと信じられなくて脳内がくらりとする。
「ん、このプリンも美味しいですね」
なるほど、やっぱり七海さんには敵わない。それから食べたプリンは、あんなに美味しかったのにあんまり味がしなかった。
「今日はありがとうございました!」
「いえ、こちらこそ大切な休日の時間をありがとうございます。」
お手洗いの間に七海さんがお会計をしてくれていて、交渉したけど結局ご馳走になった。だって給料の違いを言われたら私はうんともすんとも言えない。
お店を出て七海さんに小さく頭を下げると、七海さんも大きな背中を少し折り曲げてくれる。沢山お話ししたから昨日までよりも少し仲良くなれた気がして、最初の時と違って今は隣を歩ける気分になった。
「今日は色々な貴女の表情が見れて楽しかったです。」
「私も…たくさんお話しできて、楽しかった、です!」
平日なので街はそんなに混み合ってないけど、周りを歩く人たちはショッピングバックを持っていたりお友達や親子連れで歩いてる人もいて楽しそうだ。ゆっくりと2人で歩きながら、私たちは周りにどんな関係に思われてるのかな、なんて考えたらトクトクと心臓が動くのが敏感に感じた。とっても楽しかったから、七海さんに一生懸命伝えると彼は口元を緩めて笑ってくれる。私も、今日は沢山七海さんのいつもと違う一面を見れた気がする。
「次は、貴女の好きなお店でも良いですか?」
「え!?わっわたし、お洒落なお店とか知りません…!」
「貴女が好きなお店でいいんです。」
私がいつも行くお店は、今日のお店と比べるとランクが全然違う。首が取れそうなくらい振るけれど、七海さんは相変わらず優しい目線で言葉を返してくれるので胸がきゅぅっとなる。
すると後ろから風が吹いてきて視界の端に色が入り込んできた。
「わぁ…!」
丁度大通りに出ると並木道が全て桜の花が咲いていて、白い花びらや淡いピンクの花びらが風に舞って飛んでいた。仕事に追われていた日々だと季節など忘れていて、今が春だという事を改めて再確認する。思わず携帯を取り出してカメラを起動させその景色を写真に残すと、やっぱりどれも綺麗だった。
「貴女と初めて会った時みたいですね」
不意に、横から声が聞こえて携帯から視線を上げるとまた七海さんと目が合う。初めて会った時は、確かに今みたいに春風が舞い込んでくる校内だった。七海さんの髪がキラキラ輝いていて、とても綺麗で今でもハッキリとその光景を覚えてる。
「覚えて、るんですか…?」
「えぇ、あの時捨てられた犬みたいな顔をしていましたから」
あの時は自分の髪に触れていた七海さんの指が、今日は私の髪をゆっくりと耳にかけてくれる。この間みたいに、熱くなってしまった耳たぶに七海さんが触れるので、もしかしたら彼の癖なのかもしれない。つけているシルバーピアスがカチャリと揺れる音が耳に響いた。
「あの時と同じで、綺麗ですね」
きっと、桜の花びらの事だ。そうわかってるのに、七海さんの声が、熱のこもった視線が、そして私の燻り続けている恋心が別の意味で勘違いさせてしまうのだ。この想いも、七海さんにもういっそ全てバレてしまえば楽なのに、とさえ思った。
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