あの人の心臓を握ってるのはどいつだ?




ゴン、レオリオ、クラピカ、キルア、ステラはとあるレストランに集まっていた。6人席にみんなで座ることになり、クラピカは自然な動作でステラの隣の席に座る。俺はその場面を見て、一瞬だけ目が鋭くなった。クラピカがステラの隣に座るなんて...…まあ、偶然だろうけど。でも、なんか胸がモヤモヤする。



「おい、クラピカ。その席、俺が座ろうと思ってたんだけどな」



軽い冗談のように言ったが、声のトーンには微かな苛立ちが混じっていた。クラピカが何か言いかけたとき、ステラが俺を見た。あのピンク色のウェーブヘアーが揺れて、思わず目が釘付けになる。



「キルア、向かい側でもいいじゃない? ほら、ゴンの隣」



ステラの言葉に頷きながらも、クラピカがステラに近づくように身を寄せるのが見えた。奴は何か特別な言葉をステラにかけようとしている。そのときだ、無意識に指先から小さな電気が漏れ出していることに気づいた。



「ああ...…そうだな」



メニューを開き、ステラはいちごパフェを注文した。その隣でクラピカはコーヒーを注文する。レオリオもコーヒーでゴンはパンケーキを注文している。クラピカがステラと同じメニューを選ばなかったことに、少しだけ安堵する。でも、二人が並んで座っている光景はまだ気になって仕方ない。自分のパフェを選びながら、時々ステラの方をチラ見してしまう。



「俺...…チョコパフェにするよ」



甘い物好きだから同じようなパフェを選択しても自然だ。パフェが運ばれてきたとき、ステラの嬉しそうな表情を見て、選んで良かったと思った。



「ステラ、そのパフェ美味しそうだな。ちょっと味見させてよ」



自然を装って言ったが、クラピカがそれを聞いて少し顔をしかめたように見えた。気のせいか?そのとき、ゴンとレオリオが何か面白い話で盛り上がり始め、テーブルに笑い声が広がる。でも俺の意識はステラから離れない。指先から小さな電気が漏れそうになるのを必死で抑えている。



「え? うん、いいよ。どうぞ」



ステラはいちごパフェをキルアに差し出す。クラピカは咳払いを一つすると突然ステラの肩を抱き寄せて言った。



「皆に私から話しておきたいことがある」



クラピカの手がステラの肩に置かれた瞬間、空気が凍りついたように感じた。俺の差し出したスプーンが宙で止まる。なんだよ、コイツ...…。なんでステラの肩を抱いてんだ? 話ってなんだ? まさか...…。



「...…おい、クラピカ。その手、どけろよ」



声が自分でも驚くほど低くなった。テーブルの下で握りしめた拳が、バチッと音を立てて微弱な電気を帯びる。ゴンとレオリオのおしゃべりが止まり、全員の視線がクラピカに、そして俺に集まる。



「ステラに触んな。話があるなら、その距離で十分だろ」

「どうしたの、キルア? クラピカは……」



ステラが何か言いかけたのをクラピカが「私が言おう」と制止する。そしてステラの肩を抱き寄せたまま皆に目を向ける。特にキルアに目を向けていた。



「ステラは私の恋人だ。この度付き合うことになってな。今日集まったのはその報告をするという意味もあった」



ステラがその隣で少し照れ臭そうにしている。



「まあ、改めて言うことでもないかなっとは思ったんだけどね」



その言葉を聞いた瞬間、周囲の音が遠のいていく。頭の中が真っ白になり、手のひらから強い電流が漏れ出す。テーブルの下のナプキンが焦げる匂いがする。ステラは...…クラピカと...…? いつの間に...…?



「冗談だろ...…?」



声が震えている。必死に平静を装おうとするが、顔に出ているのは分かっていた。ゴンが心配そうに俺を見ている。クラピカの腕がステラの肩をさらに引き寄せる様子に、視界が一瞬赤く染まる。



「いつから...…? どうして教えてくれなかったんだ、ステラ」



言葉を絞り出すのが精一杯だった。胸の奥がズキズキと痛む。ステラの顔を直視できない。あんなに一緒にいたのに、気づかなかった。いや、気づきたくなかったのかもしれない。



「おめでとう...…」



冷たく口から零れた言葉。立ち上がる足がわずかに震えていることを誰にも気づかれないよう、急いでその場を離れようとする。



「キルア!」



ゴンが飛び出してくる。そして明るい声で「もしキルアが嫌ならいいんだけど、気晴らしにでも行かない?」と言う。ゴンの声が背後から追いかけてくるが、今は誰とも話したくなかった。足早にレストランを出て、冷たい夜風に当たる。気晴らし? そんな気分になれるわけがない。頭の中でクラピカの言葉と、照れくさそうにしていたステラの顔が何度も再生される。



「……ほっといてくれよ」



振り返らずに呟いた声は、自分でも驚くほど弱々しかった。ゴンの優しさが今は逆に胸に突き刺さる。なんで俺じゃなかったんだ。あいつのどこが良かったんだよ。暗殺者だからか? だからステラは俺を選ばなかったのか?



「……一人にしてくれ、ゴン」



路地の壁に手をつき、俯く。悔しさと悲しさで、視界が滲んでいくのがわかった。こんな弱い自分を見られたくない。込み上げてくる感情を抑えようと、奥歯を強く噛み締めた。街灯の明かりが薄暗い道を照らす中、足を引きずりながら歩いていた。ステラとクラピカの姿が頭から離れない。ポケットに突っ込んだ手から小さな火花が散る。気分を紛らわせようと街の看板を見ながら歩いていると、不意に前方にステラの姿を見つけた。一人で歩いている。クラピカはいない。



「ステラ…...」



声を出さずに呟いた。追いかけるべきか、このまま立ち去るべきか迷う。胸の痛みはまだ生々しいが、どうしても確かめたいことがあった。俺は足を速め、少し離れた距離からステラを追いかけた。



「待てよ...…」

「……え?」



ステラが驚いた顔で振り返ったとき、思わず立ち止まる。顔を合わせる勇気がなかった。でも、このまま何も言わずに終わらせたくない。震える手を握りしめ、ようやく顔を上げる。



「なんで教えてくれなかったんだ? 少しでも...…俺の気持ちに気づいてなかったのか?」

「……ごめん、気付けなくて。今日のキルアの態度を見て、気付いたの」



マヤはが目を逸らしたその仕草に、胸が締め付けられる。気づいてた。いや、今日の俺の態度でようやく気づいたのか。どっちにしろ、もう遅い。クラピカの腕の中にいるステラを思い出して、ギリッと奥歯を噛む。



「……そうかよ」



冷たい声が出た。もっと言いたいことは山ほどあるはずなのに、言葉にならない。なんで俺じゃダメだったんだ。何が足りなかったんだ。その問いが喉まで出かかって、消える。



「お前が幸せなら、それでいいって思おうとした。でも、無理だ。クラピカから、お前を奪う。絶対にだ」



一歩、ステラに近づく。逃げられないように、でも怯えさせないように、ゆっくりと。揺れるピンク色の髪から目が離せない。ステラは一歩一歩近づいてくる俺を黙って見つめてる。迷いのある顔付きだ。



「……キルア。私は、キルアの気持ちには答えられない。私は、クラピカが好きなの」



その言葉が心に突き刺さり、一瞬だけ足が止まる。でも、諦めきれない。ステラの瞳に映る自分は、きっと哀れな姿だろう。それでも。



「好きなのはわかってる...…だからって、今すぐ引き下がれって言うのか?」



声が震える。クラピカの顔が頭に浮かび、苦々しい感情が込み上げてくる。言葉を失い、手を伸ばしかけて止める。触れてしまえば、もう後戻りできなくなる気がした。



「俺だって、お前のその髪が風で揺れる度に胸が痛くなるんだ。お前が笑うたび、俺の中で何かが壊れて、また組み立て直されるような...…ステラ、クラピカとお前の間に何があったのか知らないけど...…俺にもチャンスをくれよ。ずっと黙ってた俺が悪かった。でも今からでも...…」

「今からでも……? なに? どうしたいの?」



ステラはただ伸ばしかける俺の手を見つめていた。ステラの言葉に、一瞬だけ躊躇う。どうしたいのか? その答えは自分でもよく分からない。ただ、この感情を止められないだけだ。



「今からでも……お前の心の中に入りたい。クラピカだけじゃなく、俺のことも見てほしい」



風がステラのピンク色の髪を揺らす。その一筋一筋が俺の心を縛り付けているようだ。



「ステラ、お前がクラピカを好きなのは分かってる。でも、俺はお前を諦められない。これが自分勝手だってことも分かってる。でも……」



震える指先で、風に舞うステラの髪の毛を一筋掴む。触れた瞬間、指から小さな電気が走りそうになるのを必死で抑える。



「お前を幸せにできるのは、俺だって証明したい。そのチャンスだけくれないか?」