ほら、手を出して
"ほら、手を出して" クリスマス特別小説
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王冠の柄が刻まれている南京錠のネックレスを首につけて、今は散歩をしている所である。
すると、食堂の椅子に腰を掛けている超高校級のネイリスト、有賀咲阿霖を見つけた。
「……あれ、有賀咲様…こんにちは」
「あ、しほー!メリクリー」
「……?めりくり?」
「何で疑問形なのよ…?…まいっか!とりあえず、そこ座んなさいよ…ずっと立ってるのも辛いでしょ?」
と、彼女が今座っている席の向かいの席を指差す。
「…ありがとうございます」
お辞儀をして、彼女が指を指していた席に座る。
そんな目の前の机の上には、何か、マニキュアの液やらが乱雑に沢山置かれている。
「……色々ありますね」
「うん、ネイルは色んな方法で塗れるから、その日の気分によって色々変えんの」
「へぇ……それは凄い」
「でしょ?……この才能に誇りを持ってるからね、やっぱちゃんとしときたいじゃない?」
彼女は、赤いマニキュア液を爪に塗りながらそう答える。
…………"誇り"、か。
「……?何考えてんのよしほー、顔が怖いよ?」
指で頬をつんつんと突かれる。
爪が少し尖っているせいか、ちょっと痛い。
「……いえ…自分は、この才能に誇り、何てものをもっていないので…何だか羨ましいな、と存じ上げまして」
「…アンタは自分の才能を、誇ってないの?」
「えぇ…この才能は、自ら進んで取得したものではありませんから」
「……ふーん…よく分かんないけど、何となく、事情は分かったわ」
どっちなのだろうか。
それこそよく分からないが、気にしない事にしよう。
「とりあえずさ、クリスマスなんだし、何かくっらーい話はやめて、明るい事しよ?」
「ほら、手を出して!私がネイルしてあげるから」
「え?……いえ、ワタクシは、」
「いいから!手を出す!!」
無理やり手を掴まれ、引っ張られる。
"どんなふうにしよっかな〜"と何故か嬉しそうに呟く彼女を見て、抵抗する気も失せてしまった。
「……よぉっし!決めた!」
「おぉ……どんな風にやってくれるのですか?」
「えっとねー?クリスマスの雰囲気を残しつつ、アンタのイメージカラーの紫とかを取り入れるつもり」
「……ワタクシのイメージカラー紫なのですか?」
「濃い紫じゃない?」
「はぁ……」
溜め息にも近い頷きの様なものが口から溢れる。
それを気にしていないのか、彼女はネイルをし続ける。
「ふんふふん……うんうん…!良くなってきた!」
頷きながら、爪を彩っていく。
右手の薬指には黒で塗り潰した爪の上に、深い紫のレースと水玉模様の白のリボン。
左手の中指には赤と緑のストライプに、斜めに描かれた深い紫のツリーの様な柄。
他にもあるのだが、今回はこれだけにしておく。
「……凄い、ですね…?先程まであんなに地味だった爪が、綺麗に……」
「ふふ、でしょ?もっと褒めていいのよー?てか褒めて!」
「…………………………流石、超高校級のネイリストと申し上げますか、この短時間でこれ程のレベルのものを仕上げるとは、常に存じ上げていたのですが、やはり間近で見ると感動致しますね、素晴らしい腕前でございます、とても感激致しました、これからもその腕を、ワタクシの為ではなく、人の為にお使い下さいませ」
数秒の間、真剣に文章を考え、直ぐに纏めて早口で噛まずに相手にぶつける。
するとどうだろう、彼女は目を大きくして、パチリと瞬きをする。
「あ、……うん、ありがと」
「その……マジで褒めなくてもいいからね?」
ほんのり頬が赤いが、どうかしたのだろうか。
「……と、とりあえず!はいっ、完成!」
そう誰もいない食堂から外に聞こえそうな位大きな声を出して手を叩いた。
"完成"と言う言葉を聞き、指の爪を見て見るといつもの自分の爪ではなく、綺麗に彩られた爪がそこにはあった。
「……これ…!」
「…ふふん、凄いでしょ?……あ、も、もう褒めなくていいから!さっきのでお腹いっぱいだ、か、ら……!」
彼女は、腹をぽんぽんと叩いた後、自分の頭を撫でてくる。
それがなんだかくすぐったくて、変な感じがして堪らない。
「……じゃ!私はこれから用事があるから!」
「…また明日、ね?」
彼女は席を立ち、食堂を出る。
……綺麗になった爪を、誰もいない食堂で数分眺めていた。
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