幼馴染み、淡い恋心
俺は奈良シカマル。
今、試験に向けてアカデミーで勉強中だ。
俺にはいのという幼馴染みがいる。
そいつは、今、サスケに夢中だ。
いや、そいつだけじゃねぇ。里中の女は、皆サスケに夢中。
俺は、サスケに夢中ないのをいつも呆れた目で見ていた。
サスケはいのの事なんざ眼中にねぇ。
ったくいのの奴、めんどくせぇ事してやがるぜ。
って、そう思っていたハズだった。
いのは、ただの幼馴染みだったハズ、なんだ。
「あー……だりぃ。帰んぞ、チョウジ」
「うん。今日も帰りにお菓子買っていい?」
「またなんか買うのかよ…。たく、しょーがねぇな……」
アカデミーの帰り、俺はいつものようにチョウジと帰るとこだった。
前にはサスケがいた。
別に親しい訳でもねぇから、特に声を掛けようともしなかった。
「サスケくぅーん!」
と、聞き慣れた声がして、後ろからいのが駆け抜けていった。
そして、サスケに抱き付く。
「一緒に帰ろーv」
サスケは鬱陶しげに顔を顰め、いのを振り払っている。
それでもいのはめげずにサスケに纏わりついている。そこにサクラ達が来て、一層賑やかになった。
「いのの奴、またやってんのかよ。ったく、懲りねぇ奴……」
「シカマル、妬いてんの?」
「ハァ? んな訳ねぇだろ……めんどくせぇ」
「ふぅん……」
チョウジは、意味ありげな顔で俺を見ている。
「……何だよ」
「それより、早くお菓子買いに行こうよ」
「……へいへい」
いのがサスケに絡むのはいつもの事だった。サスケは迷惑そうに顔を顰めるだけで、二人には何の進展もない。この時も俺は、いつもの事と気にも留めなかった。
「あー……眠くなってきたな」
「うん、そうだね。お腹がふくれると、眠くなるよね」
俺とチョウジは、いつもの場所でいつものように空を見上げながら菓子を食っている。ここは、空が近くて心地いい。俺の特等席だ。チョウジもここが気に入っているらしく、俺達はよくここに来る。
「はぁーあ、退屈……」
いのは花屋で店番中だった。
「あーあ……サスケ君、今頃どうしてるかしら〜」
今日はお客さんが少ない。退屈な事この上ない。いのはカウンターに頬杖ついてサスケの事を考えていた。ふと、袖当てに目が留まり、不敵な笑みを浮かべた。
「ふふん、サスケとお揃いv サクラには負けないわよ〜」
サクラはこの事に気付いていて、あまり面白く思っていないようだった。だったら何故真似しないのかというと、いのに触発されてやるのが癪だったからだろう。いのはニヤリ、とほくそ笑むと立ち上がった。
「さて、水やりしようっと」
いのの家は花屋。だけど、何も花ばかり売っているわけじゃない。ちゃんと花の種や野菜の種なんかもあるし、いちごや玉ネギなどの苗床もあるのだった。
「ふんふふーん♪」
いのは、花に水をやるのが好きだった。こうして水をやっていると、花が生き生きと輝き出して、幸せな気持ちになるのだった。
――――――カランカラン。
「あ、いらっしゃいませ〜……え!?」
いのは思わずホースを取り落した。サスケが花屋に来た事が、余程意外で驚いたのだろう。ホースが落ちた事に気付きもしない。いや、構ってる余裕がない。
一方サスケの方も、まさかいのが一人で店番しているとは思っていなかったため、目を丸くしていのを見ていた。
「サスケ君じゃなーいv」
いのはすかさず駆け寄った。最早ホースなんて眼中にないようだ。
「今日はどうしたの〜? サスケ君も、花買う〜?」
「……床が水浸しになってる。早く拭け」
サスケはいのに抱き付かれたまま冷静に言う。
「ハッ……いっけなーい、忘れてた〜」
サスケが両親の留守中に花屋に来るだなんて、といのはすっかり有頂天になっていた。
「サスケくぅーんv それで、今日はどうしたのー?」
「お前、店番なんてしているのか」
「両親が忙しい時は、たまにお手伝いしてるわよ〜。たまにねー意外な人が花を買いにきたりするの〜」
いのはサスケにラブ光線を送り付けつつ、当時を思い出してくすっと笑った。
「……意外な人?」
「そうよ〜意外な人。たとえば〜シノとか」
「シノ……!?」
サスケは顔をひきつらせた。サスケの脳内に、いつものあの格好で花束を抱えたシノの姿が映し出される。
「なんかね、蟲の研究に必要だとかってね〜。真剣な顔で買って行ったのよ〜」
真剣な顔って……アイツはいつも無表情だったハズだが……とサスケは心の中で突っ込みを入れた。
「……おい」
「え? ど、どうしたのサスケ君……」
急にサスケが真剣そのものの顔で自分を見てきたため、いのは軽くたじろいだ。
「………誰にも言うな」
「……え」
サスケは若干頬に朱を走らせながら目をそらし、急ぎ気味に持っていたものを差し出す。その手に握られていたのは……。
「トマトの種……?」
いのは呆然としながら種とサスケを交互に見やった。サスケはといえば、決まりが悪そうにそっぽを向いている。いのの顔が段々と緩んでいき、ついには噴き出してしまった。
「……何笑ってやがる、さっさとしろ」
サスケは頬を朱に染めたまま、いのを急かす。いのは心の中で、かっわいー!!と叫んだ。それを口にしてしまえばサスケの機嫌が悪化するのは目に見えているため、いのは何とか堪えた。
「サスケ君ってー、トマトが好きなの?」
「……ああ」
会計を済ませ、いのが尋ねるとサスケはそっぽを向いて答えた。
「私もねー、トマト大好きなんだ〜」
いのはサスケ君もなんて嬉しい……と言おうとしたが、サスケがいきなり目を見開いていのを見たため、驚いて言葉が続かなかった。
「……サスケ君……?」
黙り込んでしまったサスケにいのは声を掛けると、サスケは僅かに笑んでみせた。
「……気が合うな」
小さく呟かれたその言葉に、何だか嬉しくなったいのは、かさずサスケに飛び付いた。
「サスケくぅーん!」
「お、おい離せ……っ」
サスケは若干頬を染めながら、いのを突き放そうとする。
「あ、そういえば……サスケ君はトマトを育てたことある〜?」
「……いや、無い」
そういえば、何故自分はトマトの種なんか買いに来てしまったのだろう。トマトなんか、買えば済むことだった。わざわざ育てる必要はない。
「じゃあさー、もし良かったら育て方教えてあげるわよ〜?」
サスケは、その言葉に黙って目を伏せ、肯定の言葉を投げかけた。そして、いのはトマトの説明を始める。そのうちにだんだんと二人はトマトの熱論に入っていった。
次の日、いつものようにアカデミーの授業を終えたいのはサスケ君に駆け寄る。サスケも、いつものように鬱陶しげに手で追い払った。
いつもの光景。だが、今日は何かがいつもと違っていた。サスケはあいかわらずのしかめっ面で、だがそれでもいのを完全には追い払っていない。そのまま二人は連れ立って歩いていった。
チョウジは、そんな二人の様子を見て首を傾げていた。
「チョウジ、待たせたな」
そこに、トイレから戻ってきたシカマルが現れた。もう、既にサスケといのの姿はない。チョウジはチラッと通りを見ただけで特に何も言う事はせず、歩き出す。
「うん、今日は甘栗甘行こうよ」
「へーへー」
「………」
チョウジはシカマルをじーっと見た。
「んん? 何だよチョウジ。なんか顔についてるか?」
「ううん、何もついてないよ」
「……変な奴」
――――――チチチチチ……。
次の日の朝。
「あぁぁ……よく寝た」
今日は休日。といっても、特にする事なんてねぇ。あとで散歩にでも行くか。
「こんにちは、やまなか花店です〜」
一方、いのは花の配達をしていた。一軒の店に届けたあと、いのは思いっきり伸びをした。仕事が終わって清々しい気持ちだった。
「……あ」
いのが何かを見つけ、ぱあっと輝く。
「サスケくーん!!」
そして、いつものごとくサスケに抱き付く。
「だから、それやめろ」
サスケはいのを振り払いつつも、剣呑な態度はない。いののテンションに慣れつつあるようだった。サスケは無邪気ないのに、無意識のうちに笑んでいた。
「サスケ君、何してたのー?」
「散歩だ。そういういのは、何をしていた?」
「花の配達ー。今、終わったとこだったのよ〜」
いのはそう言ってにこーっと笑った。サスケも、薄っすらと笑んでみせた。そこでまた、いのの目がハートになったのは言うまでもない。そして、それから二人は一緒に歩いた。
「あ! あそこに咲いてるの、ジャスミンじゃなーい。かわいー!」
「ジャスミン……?」
いのの指差すそれは、白くて小さめな花だった。
「これはね、ソケイ(素馨)ともいうのよ〜。“白い香り”という意味があるんだって〜。あと、マツリカ(茉莉花)ともいうわね〜。ほら、素敵な香りがするでしょう?」
「……ああ。良い香りだな」
いのはしゃがんで花を眺めながら説明をする。サスケもいのの隣にしゃがみこみ、花の香りを嗅いだ。ジャスミンの甘美な芳香が二人を包んだ。
「この花の花言葉は、『素直』『可憐』『気だてのよさ』『愛らしさ』なのよ〜。可愛いでしょー?」
サスケは、生き生きと花の説明をするいのを可愛いな、と少し思ったが口にはしなかった。
「……そうだな」
サスケの目が優しげに細められた。
な、何仲良さげになってんだよ!?
しかも、なんで休日なのに一緒にいるんだ……?
ど、どういう事だ!?
散歩に出掛けた俺は、偶然いのとサスケを見掛けた。いのがサスケに抱き付きに行ったのを見て、またか、と俺は呆れた目で見やりつつも通り過ぎようとした。が、いつもと違うことに気がついた。
あのサスケの野郎が、微笑んでいる……だと!?
俺はギョッとして足を止めた。サスケのことはよく知らねぇ。だが、アイツが笑ったのを見たことがねぇ。俺は信じられない気持ちでいっぱいだ。
―――――と、シカマルが一人で焦っているといのとサスケが歩き始めた。シカマルは慌てて後を追った。
めんどくせぇが、二人の事が気になってしょうがねぇ。
いのが花の説明をしていると、あのサスケが優しげに微笑んでいた。そして二人並んでしゃがみこみ、花を眺めている様子を見て、俺は思わず眉をしかめた。まるで、二人が仲良く寄り添っているように見えて俺は次第にムカついてきた。
おい、いつまでそうしてんだよ!
いい加減離れろよ!
つーか俺はなんでこんなに焦ってんだよ!!
訳が分からねぇ。
別にいのが誰とどうしようといのの勝手だ。
俺の知ったこっちゃねぇ。
なのに、胸のむかつきがいつまで経っても収まりやしねぇ!!
な、何だよ。
何なんだよマジで!!
どうしてこうなっ……とぁ!?
おい、サスケ!
何いのと腕組んで歩いてんだよ!!
振りほどけよ!
あのヤロー!!
一体どうなってんだぁ!?
俺は目の前の光景が信じられず、頭が真っ白になっていた。
だって……だってサスケは、いのの事なんざ眼中になかった筈なんだ。
それがなぜ!?
呆気にとられていたシカマルは、いのとサスケが立ち去ってしまってもしばらくそのまま立ち尽くしていた。
あぁちくしょ。
一体何があったっていうんだ。
気になってしょうがねぇ。
かと言って本人に聞く訳にもいかねぇ。
俺がいののことを気になっているのがバレちまう。
って、いのの事なんざどうとも思ってねぇっつの。
次の日になっても、シカマルはもやもやが治まらなかった。始終、シカマルはイライラしていた。何も手につきやしなかった。おかげでさっきなんて、授業中話聞いてなくて叱られた。いや、それはいつもの事だったが。
そんな感じで頭がいっぱいだったシカマルは、教室内にチョウジといのの姿がないことに気付かなかった。
「チョウジ、話って何よ〜?」
「うん。ちょっと気になったから、聞いてみようと思って」
休み時間、チョウジはいのを呼び出して廊下に来ていた。
「聞きたいこと?」
「最近、サスケといい感じだよね」
「えー、仲いいだなんて〜。照れちゃうじゃなーい!」
きゃー、といのは頬に両手を添えて小さく悲鳴を上げる。
「一体何があったのか教えてよ」
「何ってほどでもないんだけどぉ……。サクラには内緒よー?」
教室内に聞こえないように、いのは声を潜める。
始まりはつい先日、サスケが花屋に来たこと―――――。
いのは、チョウジにトマトの事など、事細かに説明をした。チョウジは頷きながら黙って聞いていた。
「―――って訳で、今、ちょっといい感じなのよ〜」
「なるほど。そういう事だったんだね。良かったね、いの」
シカマルぅ。うかうかしてると、いの、サスケに取られちゃうよ。
放課後、シカマルに事の経緯を説明したチョウジは、素知らぬ顔をするシカマルに向けてそんな事を思った。が、口には出さなかった。言ってもシカマルは否定するだろうと思ったし、何より自分で気付かないと意味がない。二人の仲が進展するまで、チョウジは見守っていようと決心したのだった。
ちなみにその後、花屋にそれとなく通うシカマルの姿があったとかないとか。
自分に気持ちに気付き始めたシカマルといのの、最初の変化だった……。
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