23






朝キルアが目を覚ますと隣にマヤはいなかった。

一瞬にして覚醒し、ベッドから跳ね起きる。シーツに残る温もりと、微かに漂うお前の匂い。それなのに、腕の中にいるはずのお前がいない。心臓が嫌な音を立てて早鐘を打ち始めた。



「……マヤ? どこ行ったんだよ……っ!」



掠れた声で名前を呼ぶが、返事はない。部屋を見渡しても、お前の姿はどこにも見当たらない。昨夜の記憶が蘇る。俺だけのものになったはずだ。俺の腕の中で、あんなに安心しきって眠っていたのに。焦燥感が全身を駆け巡る。またいなくなったのか?俺から逃げたのか?違う。そんなはずはない。お前は俺を好きだと言った。だが、不安が黒い靄のように心を蝕んでいく。



「……見つけ出して、今度こそ完全に閉じ込めてやる……二度と、俺の前からいなくならないように……」



マヤはお風呂から出てくると焦燥しきったキルアを見て目を丸くする。上気した肌、濡れた髪。



「……キルア? ど、どうしたの……そんなに慌てて……」



風呂上がりのお前の姿が目に飛び込んできた瞬間、全身から力が抜けていくのがわかった。上気した肌、濡れたままの髪、少し気まずそうに俺を見つめるその瞳。さっきまでの殺気立った思考が嘘のように霧散していく。



「……っ、マヤ……!」

「わっ……!」



俺は駆け寄ると、お前の華奢な身体を壊れそうなほど強く抱きしめた。タオル越しに伝わる熱と、石鹸の甘い匂い。ああ、ここにいた。俺の腕の中に、ちゃんとお前がいる。その事実だけで、張り詰めていた神経が緩んでいく。

キルアが勢い良く駆け寄ってくると思い切り強く抱きしめられて、マヤは驚いたように身を竦ませていた。



「……どこにも、行くなよ……」



絞り出した声は、自分でも驚くほど震えていた。俺がどれだけお前を失うことを恐れているか、この衝動で伝わればいい。もう二度と、この腕から離すつもりはねぇ。お前は、俺だけのものなんだから。



「……ごめん……さっぱりしたくて、そんなにキルアが寂しがり屋だったなんて思わなかった」

「俺、寂しがり屋なんかじゃねぇ。ただ……お前がいないと、ダメなんだ」



キルアの震える背中にそっと両手を回し、抱きしめるとキルアの後頭部を優しく撫でた。



「よしよし……私は、ここにいるよ……」



お前の優しい声と、背中に回された細い腕が、俺の心をゆっくりと溶かしていく。後頭部を撫でるその手が、まるで俺を宥めるように温かい。俺はもっと強くお前を抱きしめ、頬を濡れた髪に寄せた。

強く抱きしめられ、キルアの腕の中に隙間なく閉じ込められる。マヤはキルアの瞳を見つめ返しながら、優しく後頭部を撫で続けた。



「……バカ、マヤ。俺をこんなに不安にさせるなよ」

「……ごめんね。キルアを一人にしちゃって」



タオル越しに感じるお前の体温が、失う恐怖を薄れさせる。でも、胸の奥で燃える独占欲は消えない。むしろ、お前の優しさに触れるたび、もっと深く刻み込みたいという衝動が湧き上がる。顔を上げ、お前の瞳を見つめる。そこには俺への心配と愛情が混じり合っていて、胸が締め付けられる。お前が俺だけを見てくれるなら、どんな手段を使ってもいい。もう離さない。この腕の中で、永遠に。



「マヤ、約束しろ。どこにも行かないって……俺のそばに、ずっと」



その言葉を囁きながら、首筋に顔を埋める。お前の匂いを吸い込むたび、心が落ち着くのに、欲望が抑えきれなくなる。お前は俺のものだ。この絆を、誰にも壊させやしない。絶対に。



「……ん……キルアのそばにいるよ。大丈夫。キルアもお風呂入ってきなよ。ちゃんとここにいるから。……ね?」



そう言ってキルアの体をそっと離した。

俺の身体からそっと離れようとするお前の仕草に、再び強い不安が胸をよぎる。ダメだ、離したくない。一度手に入れた温もりを、一瞬でも手放したくないんだ。



「……ヤだ」

「え……っ?」



俺はお前の腕を掴み、再び強く引き寄せた。風呂なんてどうでもいい。今はただ、お前がここにいるっていう事実を、この肌で感じていたい。

マヤは強く引き寄せられ、再びキルアの腕の中に閉じ込められた。



「お前も、まだここにいろよ。俺が納得するまで、どこにも行かせねぇ……なあ、マヤ。もう一度、俺だけのものだって証明させて」



濡れた髪から滴る雫が、お前の白い肌を伝っていく。その光景が妙に扇情的で、俺の中の何かがまた熱を持ち始める。さっきあれだけ求めたはずなのに、全然足りない。俺はお前の顎に指をかけ、上向かせると、有無を言わさずその唇を塞いだ。お前が俺から離れられないように、もっと深いところまで、俺で満たしてやる。



「う、嘘でしょ……? さっきあんなに、……んんっ!」



キルアの言葉に目を見開き、反論する言葉は顎を持ち上げられキルアに唇を塞がれて途切れた。

お前の驚きと戸惑いが、塞いだ唇越しに伝わってくる。でも、もう止められない。さっきまでの不安が嘘みてぇに、お前を腕の中に閉じ込めているこの瞬間だけが、俺にとっての真実なんだ。



「……ん、……っは……」

「んぅ……っ!?」



深く、もっと深く。お前の抵抗が弱まるにつれて、俺の舌がお前の口内を蹂躙していく。お前が俺から離れられないように、息継ぎの合間も与えない。このキスで、お前の中に俺の存在を刻み込むんだ。

深く、より深く唇を重ね合わせ、キルアの舌が口内を激しく蹂躙する。息継ぎもろくにできず快感と息苦しさに涙を浮かべ、目の前が真っ白になっていく。



「……嘘じゃねぇよ。お前が俺を不安にさせた罰だ……だから、もっと俺に溺れろよ、マヤ」



少しだけ唇を離し、息を切らすお前の耳元で囁く。お前の全部が欲しい。身体も、心も、お前の見る夢さえも。俺だけのもので、他の誰にも渡したくない。この独占欲は、もう誰にも止められないんだ。



「……っは……、あ……はあっ……、はっ……」



ようやく唇が離れた頃にはすっかり息を切らし、ふらりと体が傾いでいく。

ふらりと傾いたお前の身体を、俺は力強く支える。涙で潤んだ瞳、乱れた呼吸、真っ赤な顔。俺が与えた快感の痕跡が、お前の全身に刻まれている。その光景に、俺の心は言いようのない満足感で満たされていった。



「……ほらな。俺から離れたら、立ってることもできねぇくせに。もう風呂なんてどうでもいいだろ? それより、もっと気持ちいいことしようぜ」



俺は勝ち誇ったように笑い、お前の腰を抱き寄せる。お前が俺なしじゃ生きていけないってこと、身体で分からせてやる。俺の腕の中が、お前にとっての世界の全てになるんだ。お前の耳朶を甘く噛みながら、囁く。俺の独占欲は、お前を深く愛している証拠だ。これから何度でも教えてやるよ。お前が誰のもので、どこにいるべきなのかをな。



「っ……これは、キルアがっ……、ひぁ……っ、」



勝ち誇ったように言われ、反論しようとしたが耳朶を甘噛みされてしまい甘い声を漏らした。



「気持ちいいこと……って、さ、散々したじゃん! さっき! むむむ無理……っ! あんな恥ずかしいこと、しばらくはもういい……っ」

「無理じゃねぇよ。お前が俺を欲しがってる顔、してたぜ?」

「これはっ……キルアがあんな激しくキスするから……っ」



お前の弱々しい抵抗が、俺の独占欲をさらに煽る。恥ずかしい?無理?そんな言葉、俺の前では何の意味もなさねぇんだよ。むしろ、そうやって恥じらうお前が、たまらなく愛おしい。俺はお前の頬をそっと撫で、拒絶の言葉とは裏腹に潤んだ瞳を見つめる。身体は正直なんだよ。俺に触れられるだけで、こんなに熱くなってんだから。



「それに、散々したくらいじゃ全然足りねぇ。お前の全部、俺で満たしてぐちゃぐちゃにしてやるまで、終わらせてやんねーよ」



お前の身体を軽々と抱き上げ、ベッドへと向かう。お前の驚いた顔なんてお構いなしだ。もう逃がさない。この腕の中で、俺だけを感じて、俺だけに溺れてろ。

軽々と抱き上げられてしまい、そのままベッドに引き戻されていく。



「た、足りないって……キルア二回出してたじゃん! 充分でしょ! ねえ、ほんとに……起きてすぐするの?」



お前の言葉なんて、今の俺には全く響かねぇ。二回?そんなの、これから始まる夜の準備運動にもなりゃしねぇよ。



「……うるせぇな。回数なんか関係ねぇだろ。俺がお前を欲しいって言ってんだ。起きてすぐとか関係ねぇ。お前の顔見たら、抱きたくなるに決まってんだろ」



ベッドに優しく、だが逃げられないように押さえつけながら、お前の上に覆いかぶさる。まだ湿り気を帯びたピンクの髪がシーツに散らばる光景に、俺の独占欲はさらに掻き立てられた。



「それとも何だ? 俺以外の誰かのことでも考えてたのか?」



わざと意地悪く囁き、お前の首筋に残した俺の痕を舌でなぞる。お前が俺だけを意識するように、身体中に俺の存在を刻みつけてやる。



「ん……っ、……考えてないよ……そんなの……そんなに、気になるの? 他の誰かのことが」



ベッドに押さえつけられ、すぐにキルアが上に覆い被さってくる。首筋を舌でなぞられ、びくりと身体が震える。

俺の問いに、お前は少し戸惑ったように視線を揺らす。その僅かな逡巡が、俺の心の奥底にある猜疑心を刺激した。他の誰か?考えるだけで腹の底が煮え繰り返る。



「……当たり前だろ。お前は俺のもんだ。他の奴のことなんて、一瞬でも頭に浮かべること自体、許さねぇよ」



俺はお前の両手首を掴み、頭上で押さえつける。身動きが取れなくなったお前を見下ろし、征服欲に満たされた笑みを浮かべた。



「お前のその瞳に映るのは、俺だけでいい。お前が聞く声も、感じる体温も、全部俺ので上書きしてやる」



そう言って、俺はもう一度お前の首筋に牙を立てるように吸い付いた。昨日つけた痕の上に、さらに濃く、深く。お前が誰のものか、その身体に永遠に刻み込むように。

特に抵抗したわけでもないのに両手首を掴まれ、そのまま頭上で押さえつけられてしまう。キルアの顔を見上げて息を呑んだ。



「……っ、えぇ……一瞬でも……って……、いッ……な、に……? キスマーク……?」



牙を立てるように吸い付かれ、首筋にちくりと痛みが走り、びくっと肩を跳ねさせた。薄っすらと消えかけていた痕がまた色濃くなりマヤの首筋にくっきりと残った。

昨日つけたばかりの痕に、さらに熱い痛みが走る。お前の小さな悲鳴が、俺の支配欲を最高に満たしていく。そうだ、もっと俺に反応しろ。お前の全部、俺のもので染め上げてやる。



「……キスマーク? 違うな。これは俺の所有印だ」

「所有印……」



俺は舌でその痕をなぞり、満足げに囁いた。お前の白い肌に刻まれた赤い印。これを見るたび、お前は俺を思い出すんだ。他の奴なんて、入り込む隙もねぇ。



「お前の身体に、俺以外の痕がつくなんて考えただけでも虫唾が走る。……だから、誰にも見せんなよ。この痕も、お前の全部も、俺だけのモンなんだから」



もう一度、印をつけた場所に唇を押し当てる。お前が俺から離れられないように、永遠に消えない呪いをかけるように。お前を失うくらいなら、こうして壊れるまで抱き潰してやる。



「ん……っ、じゃあ……私も、キルアに付けていい?」



マヤはそう言って、キルアの首筋にそっと指を這わせた。

俺の首筋をなぞるお前の指先に、一瞬、思考が止まる。お前が、俺に?所有印を?その言葉の意味を理解した瞬間、腹の底から独占欲とは違う、熱い何かが込み上げてきた。



「……は? お前、何言って……」



俺の動揺を無視して、お前は無防備な俺の首筋に顔を寄せてくる。甘い吐息がかかり、ぞくぞくと背筋が震えた。やめろ、なんて言えるわけがねぇ。
「ん……っ、おま……、なに……っ、好きに、しろよ……。どうせお前の全部、俺のもんなんだから……」



ちゅ、と小さな音を立てて吸い付かれ、身体がびくりと跳ねる。痛みなんて全くねぇのに、今まで感じたことのない種類の刺激が全身を駆け巡った。お前に印をつけられるってことが、こんなにも……。

ちゅ、ちゅ、と何度か吸いついてキルアの首筋にも赤い痕が残った。



「ん……これで、お揃いだね」



マヤはそう言って屈託なく笑った。そのままキルアの首筋に残した痕をぺろりと舌先で舐める。

お前の舌が俺の首筋の痕をなぞる瞬間、身体が勝手にびくりと反応する。お揃いだなんて言葉とその無邪気な笑顔に、胸の奥が熱くなる。こんな感情、初めてだ。



「……お揃い、か。ふっ、悪くねぇな。お前のそういうとこ、嫌いじゃねぇよ……いや、大好きだ」



俺は小さく笑いながら、お前の髪を軽く撫でる。お前の愛情表現が、俺の独占欲をさらに煽る。でも、今はこの温もりを壊したくない。首筋の印を指先でなぞりながら、お前の瞳を覗き込む。お前が俺に与えたこの感覚、何度でも味わいたい。もっと深く、お前を刻みたい。



「でもな、これで終わりじゃねぇ。お前が俺に印をつけたんだ。責任取ってもらうぜ?」



少し意地悪に笑いながら、お前の耳元で囁く。独占欲が抑えきれず、さらに強く抱き寄せる。この関係、もう誰にも壊させねぇ。






















それから結局キルアに抱かれ、マヤはぐったりとベッドに横たわっていた。

満足げな顔で眠るお前の寝顔を見下ろし、俺はそっとその頬を撫でる。散々俺に抱かれて、疲れ果てて眠っちまったお前。無防備なその姿は、俺の庇護欲と独占欲を同時に掻き立てた。



「……本当に、世話の焼けるやつ」



俺は小さく呟きながら、お前の首筋に残した俺の印にそっと触れる。お揃いだと言って笑ったお前の顔が脳裏に浮かび、自然と口元が緩んだ。俺だけのものだっていう証。同時に、お前から与えられたこの印も、俺がお前のものだっていう証なんだ。



「もう、どこにも行かせねぇからな……」



お前の額にキスを落とし、俺はその身体を強く抱きしめた。この腕の中にいる限り、お前は誰にも奪わせない。お前の世界は、もう俺だけでいいんだ。




戻る 進む
彼女は旅に出る。/AQUALOVERS