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「ん……」



マヤは気怠げに目を覚ました。身体が鉛のように重い。眠っているのにキルアの手はしっかりとマヤを抱きしめている。マヤはぼんやりとキルアの顔を見つめた。

俺の腕の中で身じろぎしたお前に気づき、俺はゆっくりと目を開ける。ぼんやりと俺を見つめるその潤んだ瞳が、俺の独占欲を静かに満たしていく。



「……ん、起きたのか。どこか痛むか? ……まぁ、あれだけ激しくしたら当然か」



まだ眠気の残る声で囁き、お前の身体を抱きしめる腕に力を込めた。シーツに散らばるピンク色の髪を指で梳きながら、お前の首筋にある俺の印をなぞる。意地悪く笑ってみせると、お前の額に軽くキスを落とす。お前が俺だけのものだという事実が、こんなにも俺を安心させる。このまま永遠に閉じ込めておきてぇよ。



「ん、おはよ……きるあ。うん……なんか、くらくらする」



抱きしめるキルアの腕に力が込められ、キルアの指がマヤの髪に絡み首筋の印をなぞる。マヤは力なく笑いながら声を掛けた。朝起きてすぐキルアに抱かれて、そのまま眠ってしまったせいだろうと思った。マヤは怠くて何もする気になれず、ただただキルアに抱きしめられながら額にキスを受けた。

お前の掠れた声と力のない笑顔に、俺の胸が締め付けられる。くらくらする、か。俺がそうさせたんだと思うと、罪悪感よりも独占欲が勝るのが我ながら狂ってると思う。だが、それが本心なんだ。



「……そうかよ。じゃあ、今日は一日ここでこうしてろ。俺が全部やってやるから」



俺はお前の額に自分の額をこつんと合わせ、熱がないか確かめるように目を閉じる。お前の甘い匂いが鼻腔をくすぐり、また身体の奥が疼き始めるのを必死で抑え込んだ。



「お前はただ、俺の腕の中で大人しくしてればいい。それだけでいいんだよ」

「んっ……」



そっと唇を重ね、啄むようなキスを繰り返す。お前が俺なしじゃ生きられなくなるまで、こうして何度でも愛してやる。お前の世界を、俺だけで満たしてやる。それが、お前を俺の隣に繋ぎ止める唯一の方法なんだ。

そっと唇を重ねられ、啄むようなやさしいキスが降ってくる。マヤはキルアの腕の中でただされるがままになり、目を細めていた。

啄むだけの優しいキスに、お前がとろんとした瞳で応える。その無防備な表情がたまらなく愛おしくて、俺はもっと深くお前を味わいたくなる衝動に駆られた。



「……マヤ……足りねぇな。全然、足りねぇ」



名前を呼びながら、今度は少しだけ深く唇を合わせる。お前の小さな唇の感触が、俺の理性をじわじわと溶かしていく。もっと、もっとお前を感じてぇ。俺はゆっくりと唇を離し、名残惜しそうにお前の下唇を軽く食む。お前が俺の腕の中で完全に力を抜いて、俺にすべてを委ねている。その事実が、俺の独占欲を甘く満たしていくんだ。お前の全部、俺がめちゃくちゃにして、俺なしじゃいられないようにしてやる。



「……んぅ……」



少しだけ深く唇が重なり、キルアが甘く囁く声が耳に届く。下唇を軽く食まれるとびくりと身を震わせた。マヤはキルアの腕の中で力を抜いたままぽつりと述べた。



「きるあ……、お腹すいたな……」

「……ははっ、なんだよそれ。色気も何もねぇな」



腹が減った、か。俺の言葉を遮るような、気の抜けた一言。だが、その無防備さがたまらなく愛おしくて、俺は思わず吹き出しそうになるのを堪えた。俺はお前の鼻先にちゅっとキスを落とし、呆れたように笑ってやる。俺がどんな気持ちでお前に触れてるかも知らねぇで、呑気なもんだ。でも、それでいい。お前は何も考えず、俺に甘えてればいいんだ。



「……色気なんて出したらまたキルアに襲われるじゃん」

「わーったよ。なんか作ってきてやるから、ここで大人しく待ってろ。逃げんなよ?」



念を押すように言って、もう一度深くキスをする。お前をこの腕から離すのは少し惜しいが、腹が減ってるんじゃ仕方ねぇ。お前の世話を焼くのも、独占欲が満たされて悪くねぇ気分だ。

キッチンに向かうキルアの背中をそっと見つめた。こうして見てるとキルアに閉じ込められてるという事を忘れそうになる、普通の背中だった。



「逃げないよ。待ってるからね」

「……ん」



キッチンに向かう俺の背中に向けられたお前の視線を感じる。逃げねぇ、か。当たり前だ。お前はもう俺から逃げられねぇんだから。それでも、お前自身の口からその言葉を聞くと、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。短く返事をしながら、冷蔵庫を開ける。お前が喜びそうな、甘い果物と牛乳を取り出した。簡単なものだが、今の疲れたお前にはちょうどいいだろう。手際よくミキサーにかけている間も、ベッドにいるお前の気配が気になって仕方ねぇ。



「……本当に、普通じゃねぇよな」



独り言ちて、小さく笑う。監禁してる相手のために飯を作るなんて。でも、それがどうしようもなく満たされた気分にさせるんだ。お前のすべてを俺が管理して、俺なしじゃ生きていけないようにする。その第一歩だと思えば、悪くねぇ。むしろ、最高に気分がいい。

その時、マヤの携帯に電話がかかってきた。マヤはハッとしたように自分の携帯を見る。それからキルアの顔を見た。そっと携帯に手を伸ばす。

俺がジュースを作っていると、静寂を破るように軽快な電子音が鳴り響いた。振り返ると、お前がハッとしたように自分の携帯に手を伸ばし、不安げに俺の顔を窺っているのが見えた。その表情だけで、俺の中の何かが急速に冷えていく。



「……誰からだ? 言えよ。誰だ?」



ミキサーを止めて、低い声で問いかける。さっきまでの甘い空気は一瞬で消え失せ、部屋には緊張が走った。お前が俺以外の誰かと繋がっているという事実が、俺の独占欲に火をつける。俺はゆっくりとお前に近づいていく。お前が怯えたように携帯を握りしめるその手ごと、俺は奪い取ってやる。お前の世界に、俺以外の人間は必要ねぇんだよ。その着信音は、俺たちの世界を壊す不協和音でしかねぇ。

その画面にはクラピカという名前が表示されていた。マヤはおそるおそるキルアの質問に答えた。



「……クラピカからだった。ゴンもあのまま置いてきちゃったし、心配してるんだと思う。キルアにもゴンからかかってきてるんじゃない?」



クラピカ、という名を聞いた瞬間、俺の頭の中で何かが切れる音がした。ゴンも?ふざけるな。お前の口から、俺以外の男の名前が出てくることが、何よりも許せねぇ。



「……ああ、そうかよ。あいつもお前のこと心配してんだな。でも、必要ねぇだろ? お前には俺がいんだから」



俺は無感情な声で呟きながら、お前の手から携帯をひったくる。その勢いで、作りかけのジュースが入ったグラスが床に落ちて割れた。甘い匂いが部屋に広がる。俺は冷たい笑みを浮かべ、通話ボタンではなく、電源ボタンを長押しした。画面が暗転し、世界からお前を切り離していく。クラピカもゴンも、もうお前には関係ねぇ。お前の世界は、俺だけでいい。

マヤは悲しそうにキルアの顔を見た。



「……なんでそんなに歪んじゃったの? キルアにとって、大事な友達のはずなのに」

「……大事な友達? ああ、そうだな。でもな、マヤ。お前はそれ以上なんだよ」



お前の悲しそうな瞳が、俺の胸に突き刺さる。歪んでる?ああ、そうかもな。お前のことになると、俺は俺じゃなくなるんだ。でも、それがなんだっていうんだよ。



「ねえ、私はクラピカからの電話に出たりしない。だからキルアはちゃんとゴンに連絡して……みんな心配してると思うよ、キルアのこと」



俺は手に持っていたお前の携帯を操作し、クラピカの連絡先を探し出す。ためらいなく削除ボタンを押すと、画面からその名前が消えた。これでいい。お前の世界から、余計なものは一つずつ消していけばいい。



「ゴンには連絡しねぇよ。あいつらと会ったら、お前が俺から離れていくだろ。心配? されたくねぇよ。俺はただ……お前がここにいてくれれば、それでいいんだ」



俺は携帯を放り投げ、お前の両肩を掴んでベッドに縫い付ける。逃がさないとでも言うように、その潤んだ瞳を真正面から見据えた。



「っ……そっか……でもねキルア。世界は二人だけで構成されてるわけじゃないんだよ……」



マヤはベッドに縫い付けられながらも、キルアの顔を見上げて告げた。そっと手を伸ばし、キルアの頬に触れる。



「キルアには、ゴンが必要なんだよ」



俺の頬に触れたお前の手のひらが、やけに熱く感じた。ゴンが必要?その言葉が、俺の頭の中で反響する。なんでだよ。なんでお前は、俺だけを見てくれねぇんだ。



「……うるせぇ。なんでだよ、マヤ……! 俺じゃダメなのかよっ!」



俺はお前の手を乱暴に振り払い、その場に叩きつける。お前の手首に赤い跡がつくのが見えたが、気にしてる余裕なんてなかった。腹の底から、黒い衝動がせり上がってくる。俺はお前の体を強く押さえつけ、逃げられないように覆いかぶさる。お前の瞳が恐怖に揺れるのが見えた。そうだ、もっと俺を怖がれ。そして、俺だけを考えろ。



「ゴンもクラピカもいらねぇだろ! お前には俺だけいればいい! 俺だけが、お前を守ってやれるんだよ!」



叫びながら、俺はお前の首筋に顔を埋める。お前の匂いを吸い込むと、少しだけ冷静になれる気がした。だが、それも一瞬だけだ。この手でお前を完全に壊して、俺だけのものにしてしまいたい。その衝動が、俺を狂わせる。

乱暴に手を振り払われ、ベッドに叩きつけられる。そのままキルアは体を強く押さえつけるように、上から覆いかぶさってくる。



「うん……キルアだけでいいよ。好きな人は、キルア一人だけ。何がそんなに不安なの?」



お前の言葉が、俺の心に突き刺さる。好きな人は俺だけ?その一言で、胸の奥が熱くなる。でも、不安は消えない。お前が俺から離れる想像が、頭から離れないんだ。



「……不安? 全部だよ、マヤ。俺以外に見せるなよ、この顔……この声……全部俺のものだ」



俺はお前の体を押さえつけたまま、首筋に唇を寄せる。お前の温もりを確かめるように、強く痕を残す。誰にも渡さない。この痕が、俺のものだという証だ。声が震える。自分でも抑えきれない感情が溢れそうだ。お前の瞳に映る恐怖さえ、今は愛おしく感じる。これが愛なのか、狂気なのか、もうわからない。



「お前が他の奴らを見るたび、俺は壊れそうになる。だから、もう二度と……離れるなんて言うな」

「……んっ……」



首筋を吸われ、また新たな赤い痕が付いた。マヤはキルアを見上げて微笑んだ。



「うん……わかったよ。もう携帯は二度と電源を入れたりしないから。だから一緒に朝ごはん食べようよ……。キルアと一緒に食べたいの」



お前は俺の下で、諦めたように微笑んでみせた。朝ごはん?こんな状況で、お前はなんて呑気なことを言うんだ。その無防備さが、俺を苛立たせ、同時にどうしようもなく惹きつける。



「……ああ、そうだな」



俺は低い声で答えながら、お前の首筋につけた痕を指でなぞる。俺の所有印。これを見るたびに、お前は俺を思い出すんだ。



「お前の飯も、飲み物も、全部俺が用意してやる。お前はただ、ここで俺を待ってればいい」



俺はゆっくりと体を起こし、お前の髪を優しく撫でた。さっきまでの激情が嘘のように、穏やかな声で囁く。でもな、マヤ。これは支配の始まりだ。お前の世界から俺以外の全てを奪い、お前が俺なしでは息もできなくなるまで、俺はお前を愛し尽くしてやる。

マヤは携帯の電源を切ったまま鞄の奥深くにしまいこみ、それきり携帯の存在を忘れることにした。朝食を用意するキルアの姿を遠目に見ていた。

俺はミキサーのスイッチを入れ直し、さっき作りかけたジュースを完成させる。ガーッという機械音が、静まり返った部屋に響き渡った。床に散らばったガラスの破片と甘い液体を一瞥するが、今はどうでもよかった。それよりも、ベッドの上でおとなしく俺を見つめているお前の存在の方が、よっぽど重要だ。



「……ほらよ」



グラスに注いだジュースを、お前の前に差し出す。毒なんて入ってねぇよ、とでも言うように一口飲んでから、お前に渡した。お前が口にするものは、全部俺が管理する。



「一口飲んだら、着替えろ。服も俺が選んでやる」



俺はクローゼットに向かい、中からシンプルな白いワンピースを取り出す。お前のピンクの髪によく似合うはずだ。お前の身につけるもの、見るもの、聞くもの、その全てが俺の許可したものでなければならない。そうやって、お前の世界を俺の色で塗り潰していくんだ。



「……毒味? キルアに毒は効かないじゃん」



マヤはくすっと笑ってグラスを受け取るとキルアが口をつけたそれを飲んだ。

お前が俺の飲んだグラスに何の疑いもなく口をつける。その無防備な仕草が、俺の支配欲をさらに煽った。毒味?ああ、そうだな。お前が口にするものは全て、俺が最初に確かめる。それが毒だろうが何だろうが関係ねぇ。お前は俺を通してしか、世界に触れることはできねぇんだよ。



「ああ、毒味だよ。お前に関するもんは、全部俺が確かめる」



俺は冷たい声で言い放ち、お前からグラスを奪い取る。そして、飲み干したグラスをテーブルに叩きつけるように置いた。カツン、と乾いた音が部屋に響く。



「飯もそうだ。俺が食わせてやる。お前は口を開けて待ってりゃいい……わかったら、返事しろよ。マヤ」



俺はお前の顎を掴み、無理やり上を向かせる。お前の瞳が不安に揺れるのが見えた。それでいい。俺に怯え、俺だけを信じろ。お前が俺なしでは生きていけなくなるまで、この支配は終わらねぇ。



「……うん」



顎を掴まれ、無理やり上を向かされる。マヤはただそれだけ答えた。

お前の素直な返事に、俺の口角がわずかに上がる。そうだ、それでいい。お前はただ、俺の言葉に頷いていればいいんだ。俺はお前の顎から手を離すと、その唇に自分の指をそっと這わせた。



「いい子だ」



囁きながら、俺は用意しておいた白いワンピースをお前に手渡す。その服に着替え、髪を結い、俺の隣に座る。それが今日からのお前の日常だ。俺以外の人間は、お前の視界に入れる必要はない。



「さあ、着替えろ。俺が見ててやる」



俺はお前の反応を確かめるように、ベッドの端に腰を下ろした。お前の全てをこの目に焼き付ける。お前の羞恥心も、恐怖も、全部俺が受け止めてやる。そして、お前が俺以外の何も考えられなくなるまで、この支配の檻に閉じ込めてやるんだ。



「……キルア。キルアは、これで本当にいいの?」



マヤはキルアを見つめて静かな声で問いかけた。

お前の静かな問いかけが、俺の心の奥底に突き刺さる。これでいいのか、だと?当たり前だろ。お前が俺だけのものになる。これ以上に正しいことがあるもんか。



「……何が言いてぇんだよ」



俺はベッドに腰掛けたまま、低い声で問い返す。お前の瞳が真っ直ぐに俺を射抜く。その視線に、一瞬だけ心が揺らぎそうになった。だが、ここで引くわけにはいかねぇ。



「いいに決まってんだろ。お前がここにいて、俺だけを見てる。これが俺の望んだ全てだ」



俺はお前の頬に手を伸ばし、親指でその輪郭をなぞる。お前の肌は驚くほど滑らかで、触れているだけで心が満たされていく。そうだ、これでいい。これが正しいんだ。お前の世界には、俺だけいればいい。



「そっか……」



マヤは小さく微笑んで、それ以上は何も言わなかった。数日が経ち、キルアがお風呂から出てくると先にお風呂を済ませていたマヤはベッドに腰を下ろし、ぼんやりと壁を見つめていた。

風呂上がりの気怠い身体で、俺はタオルで髪を乱暴に拭きながら部屋に戻った。お前はベッドの端に座り、ただ壁の一点を見つめている。その横顔は人形のように綺麗で、同時にひどく空っぽに見えた。



「……何見てんだよ」



俺は声をかけるが、お前の視線はこちらを向かない。俺がいない間、お前はいつも何を考えてる? 俺のことか?それとも、外の世界か?その答えが後者である可能性を思うだけで、腹の底が冷たくなる。



「おい、聞いてんのか……俺の顔でも見とけよ。お前が見ていいのは、俺だけだ」



俺はお前の隣にドカッと腰を下ろし、濡れた髪から滴る雫も構わず、お前の肩を掴んで自分の方へ向かせた。その瞳に、ようやく俺の姿が映る。だが、その奥にある感情は読み取れない。

マヤは何も言わず、ただ静かにキルアを見ていた。

お前の静かな瞳が、俺の心をざわつかせる。何も言わず、ただ俺を見つめるその視線が、まるで俺の存在そのものを値踏みしているようで、無性に腹が立った。お前は俺の人形じゃねぇのかよ。



「……その目はなんだよ」



俺はお前の肩を掴む手に力を込める。俺の苛立ちに気づいているのかいないのか、お前の表情は変わらない。その無反応さが、俺をさらに追い詰める。もっと俺に反応しろ。怯えろ。笑え。泣け。何でもいいから、俺に感情を見せろ。



「俺がここにいるのに、他の何を考えてんだ。俺のことだけ考えてろよ」



俺はもう片方の手でお前の顎を掴み、無理やり視線を合わせる。お前の瞳の奥に映る虚無が、俺の独占欲を掻き立てる。そうだ、お前の心を空っぽにして、俺で満たしてやる。お前が俺なしでは何も考えられなくなるまで、俺がお前の全てを支配してやるんだ。

マヤはキルアの顔を見つめて微笑んだ。



「キルア。……愛してるよ」



そう言って、気配も何も見せずにキルアの首筋に手刀を振り下ろした。キルアはそのまま昏倒し、意識を失った。




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