気がついたら少し白いモヤのかかった空間に出ていた。だが辺りにあるのは庭に桜の木のある日本家屋だった。無事に日本に帰ってきた、一瞬そう思った。だがよくよく見ると自分のいた世界とは違っていた。まるで、一昔の時代に来てしまったような……。並ぶ建物がすべて古めかしい感じがしたし、道もアスファルトではなく歩きにくい砂利道だったり草が生い茂っていたりしている。それともド田舎に来てしまったのだろうか。都会に出る前の、私の故郷もこんな感じだったかもしれない。
それにしてもいやに静かだ。なんの音もしない。生活音はおろか、鳥の鳴き声ひとつしない。試しに、ここはどこ?と呟いてみたがそれはどこか反響し、くぐもったような、夢もやに掛かったかのようであやふやな声をしていた。寝ぼけているせいだろうか。
私は身を起こそうとした、けれどそれは叶わなかった。思ったよりも勢いよく立ち上がってしまったのだろうか、何か硬いものにゴチン、と頭を叩きつけてしまった。
痛い、と声には出さず心で思う。頭に手をやってみると少し膨らんでいるような気がする。たんこぶでも作ってしまっただろうか。
ここはどこだろう、薄ぼんやりとする頭で私は考えた。何故、真っ暗なのか。どこかに閉じ込められているのだろうか。箱のような、狭い空間の中に私はいた。息苦しさを覚えて私は胸に手を当てた。私は拳を作り、軽く壁らしきものを叩いてみた。出してくれ、と叫んでみたがまるで声が出てる気がしない。
何ここ、どうなってんの?
瞼が重く目を開けるのも億劫で、再び意識を手放そうとした時、誰かの足音が聞こえた気がした。それは此方に向かって来ているようで少しずつ音と地響きが大きくなってくる。誰なのかわからず、私は一気に覚醒し恐怖が体を支配する。
やがてその音は間近まで迫り、ガタゴト、と音がしたかと思うと視界が開けた。やっと視界に差し込む光に私は少し目を顰める。すると知らない男が此方を覗き込んでいるのがわかった。
「成功です!」
成功とはなんなのか、そう思っていると周りにも人が大勢いたようで口々に話し出す。
「これが優秀な審神者か?」
「普通の娘じゃないか」
「いや間違いなく成功した。───高級位審神者召喚の術」
さにわしょうかん……?
一人混乱する私を他所に周囲の人々は大いに盛り上がっていたが私の前にいる男が、静粛に、厳かな声で言った途端に辺りは静まり返る。その男はこう命じた。私に鍛刀をしろと。
「え……? たん、とう……?」
まず説明してくれ、そう思っていると目の前の男は咳払いをしてから私に向き直る。
「ここ最近審神者の神隠しが多発しており、深刻な審神者不足に陥っている。そこで我々は考えた。審神者を召喚してしまえばいいと。我々はできるだけ優秀な審神者を召喚するために試行錯誤をしてきた。そうして初めての審神者召喚が成功したというわけだ」
審神者召喚……。正直そう言われても何がなんだかよくわからないが、つまり私はその審神者召喚術のせいでこの世界に引きずり込まれたということなのか。そんなことが現実に起こり得るとは到底信じ難くいが、現に私はここに呼び出されてしまっている。軽く手の甲をつねってみる。痛い。ということは、ここはやはり現実なのだ。審神者ってなんか刀剣乱舞っていうゲームで見た名前だな。
その後もその男から審神者や鍛刀について教えてもらったが肝心なこの世界については説明してもらえなかった。ここはどこで、いつの時代なのか。今何時なのか。何もわからない私にその男は再び言った。鍛刀をしろと。勝手にこの世界に私を呼び出しておいて、対応が雑すぎないか。腹は立ったが得体のしれない空間、得体のしれない人々に囲まれた現状では文句を口にするのも抵抗があった。だから私はいいからやれと怖い顔で言われるがままに手を伸ばして゛鍛刀゛というものをした───……。
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彼女は旅に出る。/AQUALOVERS