
オフホワイト・ラビリンス
牛乳が嫌い。いや、正確に言えば牛乳に見せて実は乳飲料でした、というカルシウム飲料が嫌い。澄ました顔をしたそれは、目を細めて覗くとほんのりと濁っていて、コップに流し込んだ時のさらりとした感触で、牛乳ではないと確信する。一度確信してしまえば、たちまち白い液体は黄味がかって見えて、飲む気力そのものを失くしてしまう。私はただ純粋に、牛乳が飲みたかっただけなのに。
仕方がないので、代わりに薬缶に水を注ぎガスを点ける。お湯が沸くまでの間流しに残った皿を水にさっとくぐらせて、片付けてゆく。かちゃかちゃと皿の重なる音だけが、暗い部屋に響いている。
真希が出た後の部屋はがらんとしていて、より広く感じられた。真希の単独の任務とは言えど私達もまだ子どもな訳で、こんな夜私はいつも時間を持て余してしまう。使われていない緑色のお箸やお揃いのマグカップも主の帰りを待っているし、歯ブラシもコップにささったまま項垂れている。
同級生のことを心配するのは当たり前だと思う。怪我をしませんように。事故に遭いませんように。生きて帰ってきますように。祈ることしかできないこの時間が、永遠に感じられる。マグに注がれた白湯をゆっくりと啜るとやはり熱くて、舌を引っ込めてしまった。ああ、こういう時に真希がいたら笑い飛ばしてくれるのに。残りの白湯はあつあつのまま、シンクに流した。
かち、かち、と時計の秒針の鳴る音が、私の耳から離れない。ベッドに入ってからどのくらいの時間が経ったのだろう。枕の位置を何度も変えても落ち着かない。ぽっかりと空いた隣のスペースがやけに広くて、夏だというのに寒々しい。真希の温もりが、恋しい。真希は今、どこにいるのだろう。ちゃんと帰ってこれるかな。何も見えない暗闇の中で、真希の面影を探す。手を伸ばしても、届かない。
やっぱりまだ帰ってこないかと諦めて目を閉じると、がちゃりとドアの開く音がした。私はそのままがばりと身体を起こして、玄関へと向かう。
「真希ちゃん」
「まだ起きてたのか」
真希は呆れたように、私を抱きしめた。制服が濡れていないことに、心の底からほっとする。
「ごめんって」
「私は大丈夫だから、ちゃんと寝なさい」
真希はその細い指で、私の頬を撫でている。心配させてしまったことが申し訳なくて、なぜが私がぽろぽろと涙をこぼしている。
「本当に名前は泣き虫なんだから」
真希がやれやれと困ったように眉を下げると、一瞬唇にあたたかな感触が触れた。言葉を失っていると、真希はそのままリビングへと向かっていった。
窓から漏れ出る月明かりが、真希を照らしている。真っ白ではなく黄味がかった輝きが、彼女を確かに映し出していた。
真っ白じゃなくても、悪くはないな。
「真希、コンビニ行こうよ」
「今から?」
「牛乳切らしちゃって」
そうして私は、今日も真希の隣に立つ。
ワンライ お題「夏の月」