
わかっているよ、君のやさしさ
◇◇◇
優しくされる度に突き放したくなるけれど、
そんなことができるほど私は綺麗じゃないよ
◇◇◇
初潮を迎えたあの日のことを、よく覚えている。
冬の寒さが身体の芯まで刺すような深夜だった。あまりにも下腹部が痛いものだから、寝室を一人抜けた。満月が煌々と眩しかった。
目の前にあるのは、ただ赤黒く染まった布切れ。それが何を物語っているのかを知るまでに、ほんの少しの間。二ヶ月後に控えた十四の誕生日と、腰から太ももにかけて帯びてきた丸み。全ての点が繋がるまでに数秒。
こんなにもあっけなく来るものなのか。
子どもを産むことしか役割のないようなこの家で、私は順当に成熟していた。その事実を、ただ眺めていた。
◆◆◆
その臓器の重い痛みは毎月のように私を襲った。それは禪院家を離れても尚、変わることはなかった。
時を経て、真希を追いかけて高専に逃げることができたのは不幸中の幸いだと思う。なぜ家を出たのか。それは私の存在意義のため、とでも言っておこうか。私があの家に残った結果、この残虐な世界に子どもが産み落とされるかもしれない。そんな事実が許せなかった。想像できなかった。生まれてくる子が男だろうと女だろうと、この負の連鎖を私が断ち切りたかった。この地獄を味わう者が少なくなるように。だからこそ、私が呪術師になる必要があった。呪術師になれば、死ぬ確率が格段に上がる。私が死ねば、少なくとも私の血は途切れるのだから。
だから今となっては必要のない臓器が痛む度に、この運命を忌々しく思う。
「なんだよ、また腹痛いのか?」
「別に」
うずくまって横になる私の隣で真希は心配するような、呆れたような声で私を呼んだ。
「薬くらい飲んどけって。あと家入さんにも病院行けって言われただろ」
「行って治したところで私が死んだら全部おじゃんでしょ。行かない」
まったく、と洩れる真希の溜息。ごそごそと掛け布団が擦れる音がして、もれなく真希が入ってくる。お風呂から上がったばかりなのか、温かな体温がじんわりと馴染む。最近来た転入生――乙骨くん――の稽古の相手をすることが増えてから規則正しい生活を送るようになった真希は、今日も元気そうだ。
「真希はいいわね。私は今日ずっと寝込んでたわ」
「それもここ数日の話だろ。明日からまた面倒見てやっから今日は早く寝な」
「はあい」
返事を言い切るより早く真希の寝息が響く。それをいいことに、黙って真希の右手を手に取った。あたたかなそれは、確かに私の手の中で、微かな鼓動を携えていた。
◆◆◆
私と真希が所謂身体だけの関係になったのは偶然なのか、それとも必然なのか。あるのは夜毎、身体を重ねているという事実だけ。寂しさから逃れるためなのか、刺激を求めるからなのか。それとも、日々の任務で極限状態になってしまっているからなのか。分からずとも、互いを求め合っていた。臓器の存在を拒否しておきながら快楽に浸るのはなんて皮肉なんだろう。それでも拒否することもされることもないから、流されるままに、飢えた獣のように、抱き合っていた。
真希はそんな時でも優しかった。いつかぐずぐずに泣いてしまった私を優しく撫でながら、そのまま眠ってしまった日もあった。私は真希のその優しい手が、ずっとずっと辛かった。だってその手の先には、私ではなく、かつては彼女の双子の妹が居たのだから。その手の先に居ていいのは、私ではなく、真依であるべきだから。真希に優しくされる度、私は辛い。
真希はその手を振りほどいてでも、ここに居たいのだろうか。
その手の先にあるのが私の身体であっても、真希はこの場に居続けることを選択するのだろうか。
それは彼女にしか分からない。
「何ぼーっとしてんだよ」
「ごめん、考え事してた」
上の空でいると、シーツに深く沈められた。ぎらついた瞳は、私を確かに捉えている。
私がいなければもっと自由になれていたのかもしれないけれど。
それでも、私無しじゃ生きていけないのなら。
「真希、」
すきだよと、言えない代わりにキスをした。